「おおーい。かよちゃーん」


学校からの帰り道。


住宅街の中を歩く私を呼ぶ声がした。


声の主はおそらく隣のクラスの美佳ちゃん。


小学校からの友人。


2人ともちがう部活に入っているため下校時刻が合うことは滅多にないのだが、今日はその滅多にないことが起きたらしい。


「美佳ちゃん、お疲れー」


私は貴重な時間の訪れに少しだけ胸を踊らせながら振り向いた。


「美佳ちゃん?」


しかし、振り向いた先には彼女はおらず、ただただ沈む夕日から降り注ぐ橙色が私の目に飛び込んできた。


気のせいにしてはいやにはっきり聞こえたなと思いつつ前を向こうとした私の耳に再び彼女の声が届いた。


「かよちゃんこっちだよー」


途端、右足が重くなった。


鋭利な刃物で皮膚を削ぐような気持ち悪さが足からのぼってくる。


「あっ……」


ゆっくりと視線を落とした先。


右足のすねあたりに彼女の頭部とおぼしきものがついていた。


彼女かはわからない。


なぜなら、顔がこっちを向いていなかったから。


後頭部と特徴的なおさげだけが見えていた。


そしてそれは徐々にこちらを向こうとしていた。


「かよちゃん」


「いやっ……」


私は走り出した。


全てを振りきるように走った。


家に着く頃には消えていたように思う。


正直錯乱していて細かいとこは覚えていない。


久しぶりにお母さんの腕の中で泣いたことははっきりと覚えているけども。


翌日。


校内。


「あ、かよちゃんおはよう」


美佳ちゃんと廊下で会った。


彼女はいつものように笑顔だった。


彼女に何かあったのではと心配していた私は安堵した。


昨日のことも悪い夢だったんだと思えた。


「おはよう、美佳ちゃん」


そして私も笑顔で挨拶を返す。


「ん?かよちゃん、その足どうしたの?」


「えっ?」


咄嗟に視線を落とした私の目に写ったのは、白粉を塗りたくったような色をした美佳ちゃんの顔だった。


そのまま気を失った私は保健室のベッドの上で目を覚ました。


その日から美佳ちゃんを見ていない。


いや、そもそも美佳ちゃんという生徒自体がこの学校にいなかった。


じゃあ私が美佳ちゃんと思っていたあれはなんだったのか。


今となってはわからない。


わからないけど、あの日以来私の足にできた大きな黒いシミが徐々に大きくなっていることが私の心をざわつかせている。

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