溶ける体と初夏の退屈

りつりん

カンカンカンカン

カンカンカンカンと。


カンカンカンカンと踏み切りのベルが鳴っている。


いつもの朝。


いつものように踏み切りが上がるのを待つ僕の横でぺちゃくちゃと喋る小学生。


いつものように似合わない色のグロスをつけているOL。


いつものように今にも地面のアスファルトに溶けていってしまいそうな顔をしているサラリーマン。


僕はいつものように彼らを横目で見ながらカンカンカンカンとなり続けるベルが止むのを待っていた。


「あっ……」


接近する電車の走行音と踏み切りのベルが鳴り響くなか、なぜだか鮮明に聞こえた蚊の鳴くような声。


次の瞬間、視界に飛び込んできた赤い液体。


夏の日差しさえも飲み込んでしまいそうな赤は地面や走ってきた電車に絡み付いていった。


そして聞こえてくる悲鳴。


僕はすぐに状況を理解し、こう思った。


(ああ、もうそんな季節か)


毎年この踏み切りでは初夏になると飛び込み自殺が起きる。


一件だけ。


それは僕の生まれる少し前からのことらしい。


今でこそないが、小さい頃は踏み切り近くでは気をつけなさいとよく祖母に注意されたものだ。


なので、小学生の頃からこの踏み切りを通ってきた僕にしてみれば、初夏のこの出来事は風物詩と言ってもよかった。


しかし、いつも疑問に思っていた。


なぜ祖母は踏み切りを渡るときに注意しなさいと言わないのか。


別にこれまで死んできた人のように、自殺でもしようとしない限り、閉められた踏み切りの中に入ることはないのにと。


今年はその謎が解けた気がする。


なぜなら見てしまったのだ。


サラリーマンが電車にひかれる直前、彼の背中を押すおびただしいほどの数の手を。


これまで何度か自殺の場面に出くわしたが、そのようなものが見えたのは初めてだった。


それが意味するものは何なのだろうか。


僕にはわからない。


もしかしたら次は僕の番なのだろうか。


それもわからない。


ただ言えるのは、祖母が昨年亡くなってしまい、あの言葉の真意を聞くことができないということだけ。

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