Real Pain Game

ウジ

第1話 プロローグ

人生は奇想天外、なんて、誰かが言った気がする。いつだって人生は波乱万丈、探せば楽しいことはいくらでもある、というような言葉だったような…。それでも…。


「これはやりすぎだろぉ…」


燦燦と輝く日差しに照らされる中、赤城 修は遥か上空に眼を奪われながらそう呟いた。日差しを遮るように手で影を作りながら修は上空を見上げる。修が見つめる上空では、二匹の羽を生やした巨大な蜥蜴がお互いを睨み合っていた。黒いものと空色のもの。

一方の黒いものは真っ黒の鱗を逆立たせ、頭に鬼のような角を生やし、赤い眼球は血のように澄んだ赤色をしていた。

一方の空色のものは水のような綺麗で透き通った鱗で、頭には鹿のような小柄な角を生やしている。

現代の子供はこう言うかもしれない。あれはドラゴンだと。


「お前、俺のモン盗みやがってよ。これで何回目だ!? あぁ!?」


真っ黒のドラゴンが、もう一匹のドラゴンへ咆哮を飛ばす。

二匹のドラゴンは威嚇し合うように円を描いて飛び回っている。黒い方のドラゴンは怒りで口から炎が溢れだしている。

しかし、空色のドラゴンは毅然とした態度を取りながら言い放つ。


「しっかりと自分の獲物は守っておかないと。逆に、何度も物を奪われて、ドラゴンとして恥ずかしくないの? 私だったらもう自分の魔法で自決しちゃうわ」


空色のドラゴンは鼻で笑って見せた。


「…チッ。お前とはやっぱ実力で白黒決めなきゃダメみてぇだなぁ!」


真っ黒のドラゴンは口から炎を溢れさせる。


「本当、脳筋とはつるんでられないわ。あと、ずっと言ってるけど私白じゃないから!」


空色のドラゴンも、口から冷気を吐き出し、音を立てながら鱗を氷結させていく。

そして――――今、ぶつかった。


「《イグニード》!!」


「《リービルヒッド》!!」


瞬間、二匹のドラゴンの灼熱と氷結の咆哮が衝突した。大きな爆発音と共に、ドラゴンの咆哮は煙に巻かれていった。

いつもと変わらぬ澄んだ空。その光景がだんだんと煙が蔓延してぼやけて行った。

修が今まで聞いたことのないほどの大きさの爆発音と、核爆弾並みの火煙。修は戦慄せずにはいられなかった。


「…やべぇやべぇやべぇ…!」


修の心臓が鳴り響く。冷や汗がだくだくと修の汗腺から溢れた。修は走り出した。自身の目的地へと向かって。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


修は息を切らしながら、急いで教室の扉を開ける。教室の中はいつもと変わらぬ光景だった。修は少し安心した。


「おぉ修、どうした? そんな息切らして」


「大丈夫? 大根食べる?」


「お前はなんで学校に…大根持ち込んでんだよ…しかもこれ、ちげぇよ…人参だよ…!」


俺は大根と言って人参を渡してきた浅黄にツッコミを入れる。もう一人の心配してくれた友人、青砥と浅黄は俺の親友なんだが、浅黄の方はどこかズレている。ふざけているのかガチなのか。その笑顔からは全く悟れない。


「というか、大変なんだ。今日朝っぱらから空でドラゴンが…!」


「赤城…見てみろよ」


青砥が視線を飛ばした先には、学校用のテレビが映っていた。クラスメイトはみんなテレビにくぎ付けになっている。放送されているのは、どうやらニュースのようだ。内容は…「世界中で異変発生!? 突然の未確認生命体、大量発生!!」という見出しだった。

番組内では大人たちが延々と堂々巡りの話し合いを続けており、ところどころで一般人が液体状の何かに飲み込まれたり、採掘場で岩が動き出す、といった超常現象の映像を見せつけた。


「…おい、なんだよこれ…?」


「だから、世界中で異変が起きてるんだとよ。おかげで今日の番組はニュースばっかだ」


ニュースによると急遽国会でも、議員の人らで話し合いが行われることになったようだ。それほど、世界の事態は深刻なのだろう。


「俺らは、どうなるんだ?」


「さぁな。取り敢えず俺たちは国会の判断を待つしかないさ。もしかしたら学校にも行けなくなるかもしれないが」


「えぇ…。そんなのやだよぉ」


「浅黄、だがその時は仕方ないさ。俺たちだって、こんな世界で生きていられるかも分からないんだ」


青砥は眉一つ動かさずそう言った。きっと青砥も怖いんだろうがしかし、青砥はそんな姿を一切見せない。青砥 一真というのはそういう人間だ。

その瞬間だった。突然、どこからともなく国会に純白の女性が現れた。彼女がカメラに映る瞬間を、俺はこの目で捉えていた。一瞬だった。まるで瞬間移動でもしたかのようだった。「入口」というものを使わずに部屋に入る芸当に、修たちは釘付けになってテレビを見た。


「おい、なんだよ。あの女…」


「国会にドレスで来てるよ? 頭がおかしいのかな?」


「多分お前には一番言われたくない一言だな」


ウェディングドレスのような純白のドレスに、雪のように真っ白の髪と肌、そして透き通った瞳の美女。彼女は国会のステージにいつの間にか現れた。彼女は舞台の上でカーテシーをすると、自分の声帯に触れる。


「…このくらいかしら?」


「だ、誰なんだ…君は一体…!?」


「…よし…」


彼女は国会の全体を見渡しながら、語りだした。


「私の名はアルカステラ。ドラゴンたちの王です」


その声はまるでマイクでも使ったかのように透き通っていた。

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