とってもカワイイ私と付き合ってよ!
三上こた/角川スニーカー文庫
第1話 付き合って数日経ってから自己紹介を始めるカップル。
「考えてみれば、私たちってお互いのことを何も知らないよね」
ある日の文芸部室(無断占拠)で、
教師に怒られない程度に色を抜いた髪に、整った顔立ち。一目見ただけで印象に残る、華やかな少女である。
「まあ、付き合うまで全く接点なかったしな」
と、俺の返した言葉通り、俺と彼女はちょっとした事情があって今現在付き合っている。
とはいえ、お互いのことを何も知らないという言葉から分かる通り、あくまで偽物のカップルなわけだが。
「そうだね。特に
「悪かったな」
散々な言われようだが、何一つ否定できないのが、俺こと
「というわけで、今から自己紹介のコーナーを始めましょう!」
「付き合ってからやることじゃないな……まあいいけど」
結朱の提案に、俺は渋々頷いた。
お互いに机を挟んで対面に座り、何故か面接っぽい形式で話をすることに。
「じゃあ、まず私からね!
このような自己紹介を聞いただけで分かるように、この女は超が付くほどナルシストである。残念ながら、それに見合う能力を持ってしまっているので、あまりツッコむこともできないけども。
「何か私に対して質問とかあったら受け付けるよ?」
「特にないです」
率直に遠慮すると、結朱は不満そうに頬を膨らませた。
「なんだよー、もっと私に興味を持てよー」
「そう言われてもな……じゃあ、好きなものは?」
「もちろん、私自身!」
予想通りの答えが返ってきた。これじゃ質問するまでも――。
「あ、それともちろん、大和君のことも好きだよ?」
――不意打ち。
「………………っ」
あざとい上目遣いで俺を見つめてくる結朱から、思わず目を逸らしてしまった。
「あ、照れてるー。可愛いなあ大和君は。ねえねえ、嬉しかった? 私に好きって言われて、照れちゃうほど嬉しかった?」
「う、うぜえ……!」
あー、くそ。耳まで赤くなってるのが自分で分かる。
「じゃあ、次は大和君の番ね。自己紹介どうぞ」
「……和泉大和。高校一年。特技はまあ、バスケと折り紙かな」
結朱に習って自己紹介してみると、対面の彼女がビシッと手を上げた。
「はい、じゃあ私からも質問! 好きなものはなんですか?」
「まあ、RPGかな。ロールプレイングゲーム」
俺の最大にして唯一の趣味と言ってもいい。暇さえあればRPGに精を出すのが俺という男の日常だ。
「あ、ごめん。ちょっと聞こえなかった」
……と、自分から振っておいて、結朱は聞き逃したらしい。
仕方なく、俺はもう一度言うことに。
「だから、RPGが好き――」
「え? 全然聞こえない。もう一回言って?」
「いや、RPGが――」
「聞こえなーい」
「……一番好きなのは結朱ちゃんで、その次にRPGが好きです」
「やだもう! 急に愛の告白なんて照れるじゃん! そんなに私のことが好き? どこが好き?」
はは、なんて面の皮の厚い女だ。
「人の話をよく聞くところと、人の言葉を遮らないところ、あと自分に都合の悪い意見も受け入れるところ」
「やっぱり? 長所の塊だね、私は」
皮肉はまるで届かず、両頬を手で押さえて照れてみせる結朱だった。
「あとメンタルがすげえ図太いところもちょっと尊敬するよ……」
「そのくらいじゃないと大和君の彼女は務まらないからね!」
悪びれることもなく開き直る結朱。
「そうか……これだけメンタルの強い女じゃないと俺の彼女は無理なのか。そりゃ今後彼女を作るのは難しそうだな」
「おーい? 私と別れる前提の発言やめてくれるー?」
俺の呟きに、結朱が唇を尖らせてクレームを入れてくる。
それを流すため、俺は次の話題に移ることに。
「まあ、得意なこととか好きなことは分かったから、次は苦手なことの話でもするか?」
「苦手なこと? ないね! 私、弱点皆無の完璧超人だし!」
堂々と胸を張ってみせる結朱。恥を感じない奴ってのは強いなあ。
「本当か? 苦手なことの一つや二つ、誰にだってあるもんだろ」
「それがないから私はすごいのです。それより、大和君こそ何か苦手なこととかある?」
「あるけど……お前には言いたくないな。なんか悪用されそう」
渋面で拒否すると、結朱は不満げな顔をした。
「自分から話題を振っておいて拒絶ってどういうことさ。まあ聞くまでもなく、大和君の弱点は他人とのコミュニケーション及び、人間関係を大事にしないことだけども」
「大きなお世話だ」
ぐうの音も出ない弱点を突きつけられて、反論の言葉も浮かばない俺である。
「大和君もそこは改善していったほうがいいよ? コミュ力は武器ですし」
「いいだろ、別に。結朱のことはちゃんと大事にしてるし」
なんせこいつは、俺の目標のために欠かせないパートナーだ。
そういう、自分にとって必要な関係は大事にしてるのだから、友達の少なさくらい大目に見て欲しい。
という意味を込めて言ったのだが、
「うあぇ? そ、そう。私のことは大事にしてくれてるんだ。ふーん」
何故か結朱は真っ赤になってしまっていた。
「なんだ結朱、照れてるのか?」
「照れてないし! ちょっとしか!」
俺が指摘すると、結朱はさらに赤くなる。耳まで真っ赤だ。
いやまあ、確かに誤解を招く言い方だったかもしれないが、だとしても一撃でこんなにダメージを受けるとはねえ。
「な、なに、その顔は」
「別に? ただ結朱ちゃんの可愛らしさに微笑ましくなってただけだ」
「他意を感じるんだけど!」
にやにや笑っていると、結朱に腹をぽすんと軽く殴られた。
「他意なんかないさ。弱点のない結朱ちゃんが、まさか不意打ちで褒められただけで照れちゃう紙装甲なわけないもんな?」
「うるさいし!」
再び、ぽすんと弱々しいボディブロー。
ナルシストのくせに不意打ちで好意をぶつけられると弱い、意外な弱点を持つ結朱であった。
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