第23話 新人戦、開始

『さぁ〜、最後、8パーティー目の紹介だぁ! まさか、まさか! あの少数精鋭、アルカヌム・デアからの参戦だ! 噂では16歳まで正常に生きてる謎の呪い持ちがいるとのこと! その謎の力で優勝をもぎ取るのか!? 目が離せませんねー!』


 ウオォォォォォォォ! 会場のボルテージは最高潮だ。観客には冒険者も多数含まれているものの、ほとんどが冒険者の事情に詳しくない一般人である。20年前のことも知らなければ、なぜ呪い持ちと呼ばれているかもわかっていない。空気感は特にアウェーということもなく、クロンは少し安心する。


「さ、ここまでは来たわ。問題はこのあとのトーナメントね。組み分けはランダムで行われるから、1回戦であいつらと戦うこともあれば、決勝まで戦わないこともある。そうなると最大3戦するから、体力とかも重要になってくる」


 そうラビが言うと、ルール説明が挟まる。どうやらこの新人戦では2つの勝ち方があるらしい。相手をKOするか、場外へ弾き出すことで勝ちになる。攻撃に手心が加わると真剣さが消えるとのことで、ある祝福ギフトの力でこの闘技場の空間は構成されている。


 そのおかげで命を失う一歩手前で肉体の構成が保存されるようになっているので手加減とかは必要ないらしい。中央の闘技場から出れば効果が解けて死んでしまうが、そんなことはそうそうないので死亡一歩手前の段階から医療チームによりしっかり治療してもらえるとのことだ。便利な祝福ギフトもあったもんだとクロンは感心する。ルール説明が終わると早速トーナメントの組み分けが発表されるようだ。


『さぁ〜、毎年この時が緊張しますね〜! 全8チームの組み分けが発表されます! 第一試合は〜、おっ? アルカヌム・デアVSミラクルム・オラティオだ〜! 早速呪いクンの真の実力が見れるのか〜!? しかもあの名物社長、轟力のエリックの愛娘も参加しているとのこと! ミラクルム・オラティオも商社ランクは文句なしの2位、しかし近年新人獲得に苦労しており、毎年その成績はいまいちです。そもそもミラクルム・オラティオは毎年16歳のド新人を3人出してくるので新人戦時点では奮いませんが、果たして今年はどうなのか!? ......毎年同じ紹介してない?』


 ルシアが初戦の2パーティーを紹介すると、そのまま促されるようにスタジアム上へと上げられる。


「ふたりとも、初戦の相手はそんなに強くないわ。それぞれで別れて戦えば確実だと思う」


「大丈夫。マグナ・アルボスのパーティーに威圧感を与えるためにわたしひとりでやる。くーちゃんをバカにしたあげくラビをハメるなんて許せない。ちょっとでも焦らせてやる」


 カエデはいやにやる気だ。そのやる気を受けつつ、3人は正面を向く。スタジアムの中央を挟んで向かい側に3人、クロンたちと変わらない年齢の新人冒険者がいる。3人とも緊張が顔に張り付いており、嫌な汗もかいている。

 

 この場では、本来彼らの反応が正常なのだ。クロンとラビはすでに獅子王狼キングレオウルフと戦ったおかげなのかせいなのか、この程度では緊張しない。それにカエデは何度も外界へ出ている。そこへ4日間のエリックとフロウの地獄のようなしごきだ。もはや戦闘に関して言えば、どのような状況でも緊張せず行えるようになっていた。


 それぞれのパーティーが向き合ってからは早い。実況の一声とともに試合開始のブザーが鳴る。


 ミラクルム・オラティオの3人は逸り、クロンラビカエデの3人を組み伏せようと走って近づいてくる。クロンとラビは動く気配も、当然応戦する気配もない。カエデはそれを一瞥すると、動く。


「遅い。【水槌ミナヅチ】」


 カエデが声を発すると周囲に3つ、バスケットボール大の水球が出現し、相手に向いた面が波打つとそこから勢いよく水柱が射出される。ミラクルム・オラティオの3人はそれに反応しきれない。そのまま水流で場外まで押し出され、一回戦を無事勝利で納めた。


 ◆◆◆


「なんだ、なんだよあいつ!? 3人目は揃わないって兄貴は言ってたろ! おいローグ! お前ちゃんと勝てるんだろうな!?」


「直属の先輩に向かってなんだその口の利き方は!」


 ローグと呼ばれた19歳の青年は、生意気な口をきいたラビが殴った少年を叱責し話を続ける。


「あれくらいなら俺だってできる。そもそもミラクルム・オラティオの新人は毎年雑魚だ。あそこは完璧な新人育成のノウハウがあるから最低でもそこそこにはなるだろうが、現状はただの雑魚でしかない」


「そ、そうか。ローグの兄貴は問題ないか」


「だが、あいつ、あの水使いは強いな。エーデルさんからのオーダーで久々に参加してみたが、これは楽しめそうだ。そうだな、意趣返しをしておくとするか。俺たちの第一試合、お前らは動かなくていい。俺ひとりでやる」


「「へ、へい」」


 そうして1回戦第3試合まで済み、第4試合のカード、残り2パーティーが選ばれる。


『さぁ〜1回戦第4試合、最後の試合です! 第1試合は片方のパーティーが圧倒的でしたが、第2、第3試合は拮抗した戦いになっていて、会場も手に汗握る戦いに盛り上がっております! さあ第四試合はどうなるのか、マグナ・アルボスVSアウィス・カエルレア! それでは〜バトルスタートぉ!』


そうルシアが宣言すると、ローグが一歩前に出る。


「さて、お前ら悪く思うなよ。また来年挑戦してくれ」


 なにかあると踏み、3人で固まるように集まり身構えたアウィス・カエルレアの3人であったが、彼らは気がつけば場外へ吹き飛んでいた。


「どういう祝福ギフトよ、あれ」


「わからない。気づいたら吹っ飛ばされてたみたいだけど……」


「要注意。彼らは止まってたから当たった。あのローグって男の人、能力使う前に右手を正面に向けてる。あの手の動きはきっと必要な動作」


 ラビ、クロン、カエデはマグナ・アルボスの情報をなるべく集めておべきだと考え観察していたが、ローグの使った力が一切わからない。そのまま試合は終了し、2回戦へと進むも、対戦相手が1回戦で疲弊していたのかアルカヌム・デア、マグナ・アルボスともに最低限の力で2回戦を勝ち上がってしまう。そうして、お互い新しい情報もないままに、決勝戦が来てしまった。


『さぁ〜ついにやってきてしまいました決勝戦! この2パーティーは一回戦から格の違う強さを見せつけ勝ち上がって来ました! どんな試合運びになるのか検討もつきませんが〜、すぐに終わらないことを期待しております。では、バトルスタート!』


 ルシアが宣言するも、両者動かない。


「そう警戒するなって。少し話をしようじゃないか。そんなすぐに試合が終わってもつまらない」


 そうローグが言うも、3人は口を開かず彼らの一挙手一投足に注意し警戒している。


「ハァ、どうやら警戒を解く気はないようだな。こちらは上からお前らを、ラビを抜いてだが、消してこいと言われている。まあ、このスタジアムにかかった祝福ギフトで物理的に消すことはできないんだが、精神は違う。だから、全力でいかせてもらう。リョウ、ヤン、それぞれラビとあの呪い持ちをやってこい。ヘマすんじゃねえぞ!」


「「へい!」」


 ローグの宣言で、横でニヤニヤしていたふたりが別れクロンとラビへと向かう。ふたりはそれぞれ距離を取り、お互いの戦闘に集中する。


「さて、カエデとか言ったかな? お前、なかなか強そうだ。あいつらふたりには荷が重い。俺が直々に相手をしてやる」


「それは光栄。でもわたしの方が強い」


「面白いことを言うな。だが、それは世界を知らなさすぎる。俺は新人の中でも強い方だ。おかげでルーキー間に顔も広い。しかしだ、お前のようなちんちくりん噂の一つもきいたことがない。それなりに強ければ噂は立つものだ。だがそれがない。しょせん強くても俺ほどではない。そういうことだ」


「井の中の蛙」


「……なんだと?」


 ◆◆◆


「お前、この前はよくも殴ってくれたなぁ……」


 リョウと呼ばれた男がラビと対峙する。


「自業自得よ。絡んできたから正当防衛しただけ。それならこっちだって言うことあるわよ。よくもハメてくれたわね、絶対に許さないわ。今日、この場で冒険者引退を決意するくらいには痛めつけてやる」


「ハッ、強がりを。前線から退き椅子に座ってのうのうと生きていた雑魚が俺に勝てるか?」


「雑魚かどうかは、終わってから判断することね」


 ◆◆◆


「よぉ呪い持ち。お前に個人的な恨みはないんだが、うちの会社の偉い人がお前を消したがっててな。悪いが消えてもらう」


 ヤンはゆったりとした口調で語る。


「僕にはクロンって名前がありますし、あなた方に個人的な恨みもたっぷりあります。今日この場であなたを倒して、謝罪させます」


 クロンは怒っていた。自分を呪い持ちだと蔑んだ怒り。ラビをハメて連れて行こうとしている怒り。ラビを守ることができなかった自分の弱さへの怒り。そして、そんなクズみたいな会社に憧れ、入社しようとしていた無知な過去の自分への怒り。すべてひっくるめて、憤るには十分すぎるほどの理由が彼の中をうずまく。


「あなたは今日呪い持ちに負けます。この力が呪いではないということを、この戦いで証明しますよ」


「減らず口を!」


 三者三様に気を高ぶらせながら、ラビ、エリック、そしてアルカヌム・デアの命運を賭けた戦いが今始まろうとしていた。

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