第13話 人間の存在
「あれー? ボクのウルフちゃんどこー!? それにあのふたりもいない! なんでー!?」
ゼータは英雄平原の探索を終えたのだろうか、どこからともなくクロンとラビが戦闘していた場所へと戻ってきたものの、そこにはもうふたりもテイムしたはずの狼もおらず、荒れ果てた大地の上に壊れた
「これ……。あいつら、どうやって……あんなに、あんなに弱そうだったのにぃ! 結局あいつら以外見つからなかったし、こんなんじゃ捨てられちゃうよー!」
ゼータは焦り出すと親指の爪を噛み落ち着こうとする。
「どうしよう……! 収穫なしだと本当に廃棄だ。……そうだ! あいつらこの先に人間がいっぱいいる都市があるって言ってたじゃないか! そこの場所さえわかれば!」
そう決めてゼータはオリエストラへと歩を進めようとすると、腰に下げた通信端末が旅の終わりを告げるかのように振動し始める。
◆◆◆
「はぁ〜、しかし本当にひとりもいねぇなぁ……人間」
ひとりの男が、倒したのであろう巨大な
そのことから、男が座っている
「おいジェイド、いつまで遊んでんだ! そろそろ時間だぞ!」
ジェイドと呼ばれた男は戦っていた
「おや、もう時間ですか。ワタシひとりならまだ活動できるのですが、アルファは活動時間が短くて遠征の役に立たないですねぇ」
そう言うと、両手に握っていたダガーを腰へしまい込みアルファと呼ばれた男と合流する。大人の平均身長程度しかないジェイドに比べ、アルファは縦にも横にもデカく迫力はかなりのものだ。
「お前、
「おぉ、怖い怖い。しかし、
「俺みたいなイレギュラーがそうそう出てきてたまるか。そもそもカテゴリー5と戦えるようになるってことは本人の
「そのための遠征でしょう。人間は見つかりませんでしたが、カテゴリー5数体やカテゴリー3の群れを殲滅できたのは収穫です。しばらくは余裕ができますし、次の遠征計画も立てやすくなる」
「それは否定できねえ事実だ。今回はエネルギー残量の都合上少数精鋭な上に、俺たち3人のうちひとりは過去のあの事故の調査に回すときた。あの座標はそもそも地上かすらも怪しいんだ。使い捨てても問題ない人員としてゼータを選んだ上層部にはヘドが出るぜ」
そうアルファは吐き捨てると、腰の通信端末へ手をかける。
「アルファ、どこで聞かれているかわからないのだから、口は慎んだ方が利口ですよ」
「ハッ、聞かれてたからとてあいつらになにができる。上層部の私兵全部敵に回しても勝つ自信あるぜ」
「それは結構ですが。デルタ以下23名はちょっと戦えるだけの一般人ですよ。巻き込まないで欲しいですね」
「お前らがただの一般人なら、のうのうとなにも知らず暮らしてる国民どもはアヒルだな。そもそもデメリットなく、もしくは制御できる範囲で
そう結論づけた上で、冗談を交えつつ手に持った端末から今この場にいない3人目へ通信をつなげる。しばらく帯気音が鳴り続け、アルファとジェイドがダメか、と諦めかけたその時ブンッ、と無事に通信が繋がる。ふたりは少しだけしていた心配をやめた。
『も、もしもし』
「オイオイ出たぜ! よお、俺だ、アルファだ。少なくとも人間が生存できる場所みたいだな、ゼータ!」
『う、うん。そうだよー!』
ゼータが生きていることを喜びつつも、アルファは残り時間の問題からか、すぐに本題へと話題を転換させる。
「そいつは上々だ。ところで、
アルファは軽口混じりにゼータへ報告を求めると、ゼータは言いにくそうに言葉に詰まりながら、経過報告をスタートさせた。
『え、えっと、テイムはしたんだけど、その、逃げられたというか……』
「はぁ!? 逃げられた!? お前の【
アルファは、ゼータが捕まえた
そのゼータがテイムした
『いや、人間がふたりいて、明らかに弱そうだったからテイムした
ゼータはアルファから叱責を受けたことで焦ったのか、必死にしどろもどろになりながらも言い訳をまくしたてる。ゼータはテイムに失敗した事実をなんとか取り繕おうと必死だったが、アルファが引っかかったのはそこではなかった。
「ふざけんじゃねえ! もう時間がなくて帰還命令が出てるのに手土産が『賢者の石』だけじゃ誰も喜ばね……まて、人間だと?」
『う、うん。人間がふたりいてさ、ボクと同じくらいの歳っぽかったからカテゴリー4より弱いだろうと思って任せたらこれだよ! クッソあいつら〜! 次会ったら覚えてろよ!』
人間がいた。その部分にアルファが引っかかったことに目ざとく気づくと、ゼータはその時に会った少年少女に責任を押し付けるかのようにまくしたてる。しかし、アルファはそんな卑しい行いには全く興味がない。
「そんなことはどうでもいいんだ。人間がいたのは本当か?」
『うん、バッチリ人間だったよ。他の亜人種族ってわけでもなく、正真正銘人間だった』
人間がいたという報告を受けたアルファは笑みを浮かべ、ジェイドと短く会話をした。
「おい、ジェイド」
「ええ」
「これは上も喜ぶ報告ができそうだ」
その後3人は帰還命令に従い、それぞれの場所から影も形も残さず消え失せた。まるで最初からそこにいなかったかのように。
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