第33話 別れた後に。




 彼らは自分たちと引き換えに、私に情報を残していったよ。

 半島西側の奥地にいるフェアリー一族に、蘇生のスキルを持つ姫がいるってことを。

 ただその蘇生も一瞬では治らないから、時間を稼がないといけないってことを。

 道中のリス族に隠密系スキルが伝わってるからもらうといいってことを。


 あとは理解し切れない量のデータ。このデータを解析することこそが君らの出番だったのになあ。


 もう不安しかない。


 リスから隠密をもらえるのかどうか。

 姫が易々と蘇生をしてくれるかどうか。

 間に合うかどうか。


 うん、わかってる、わかってるよ。進むしかないんだ。

 色々考えちゃうけどそれはあとで。とにかく進もう。


 部屋を出た。……力の微妙なさじ加減があまりできなくなってるね。りょうてがいなかった大ダンジョンを思い出すよ。

 それと思考が3つから1つになったから、スキルの同時並行使用ができない。【化かす】をしながら【欺いて誤魔化す】のは無理。

 まあ、場所バレはもうしてるから隠密しても意味はないよね。


 とりあえずリスさんのところに向かいます。

 そうそう、今20パーセントできたってさ。



 ***



 リスさんのスキルをもらうためには、かくれんぼかあ。

 事務的に処理してもしょうがないので、盛大に隠れたし見つけたよ。

 木に化けたり、居場所を誤魔化して忍び足で脱出したりね。

 見つけるのはよーく観察して、地面に隠した木の実などを看破してみたり。

 盛大に遊んで、温かいご飯をいっぱい食べさせてもらって。

 Lv2のスキルジュエルをいただきました。

 使うタイミングが肝心だな、これ。


 ***



 フェアリー族は西側奥地に隠れて住んでいるということなんだけど……。

 目の前には山というか、非常に高い絶壁というか。雲の上までそびえ立っていて頂上が見えない。

 多分壁なんだろうなあ……。そういうものが鎮座しておりました。

 迂回しようとしたけど奥に進むのをきっちりと拒んでおりました。

 壁なんだなあ……。


 インターフォンとかないかなーと観察してみたり、可能な限り大声で来た理由を叫んだりしたけど効果なし。


「しょうがないから、登って越えますからねー!!」


 と叫んで、壁をよじ登り始めました。【粘る】で体を粘らせ落ちないようにしてよじ登る。

 右手があの状態なので、両手を使ってガシガシ登っていくというか、芋虫のように体をくねらせて這い上がるような具合。

 きっともっといい方法があったと思うんだけど、時間に追われている状態でりょうての助言もなし、右手はどうにもならないという状況のなかで思いついたのがこれだった。

 でもパッシブスキルで運動、軽業、身体能力向上があるので、意外とスピードは出た。



 ***



 1日72時間、ずっと体を動かし続けて衣服がぼろっぼろ露出した皮膚は擦り傷だらけになる位登ったところで頂上が見えてきました。

 あと少し!

 あと少し!

 もうちょっと!

 あと数回!


 そして登りきりました、登りきったんです!


 目の前には幻想的な風景というか。こんな標高が高い所なのに木々は生い茂り、植物は満開の花を咲かせています。

 川が流れており、その流れは最後には崖から落ちて見えなくなっていきます

 凄い……。しかも暖かい。さっきまでエベレストより高い所にたのでめちゃくちゃ寒かったんですよ、空気も薄いし。でもここは空もあって、暖かいです。凄い……。



 感動している場合じゃなくて、要件をとりあえず伝えないと。


「私は……牡丹、山咲牡丹と申します! ここにおられるフェアリーのお姫様が欠損した部位の再生ができると聞いてやってまいりました! 私は今右手がこのような状態です、治してはいただけないでしょうか!」


 姿が見えないので、叫んでみました。すると森の中から声が聞こえ。


「要件はわかりましたー。いきなり会わせるわけにはいかないので、もう少し進んだところで少しお待ちくださいー」


 ということなので、少し森の中に分け入って待ちました。小道が整備されていたのでそこを通った形ですね。


 待っている間にフェアリーの方が数名姿を見せて現れてくれて。

 体長は私の3分の1位、背中にはねの付いた小さい子供ですね。服も着ています。


「わー久しぶりの人間だー」


「実は這い上がってくるのを見てたんだー。凄いね!」


「囲んで踊ろう、らんらんるーらんらんるー」


 無邪気だ……! かわいいなあ。


 なーんてニコニコしながら見ていると、


「お待たせしました、奥へどうぞ」


 という声がしたのでフェアリーさん達と一緒に奥に進みました。


 そこにはちょっとした丸い広間があって、一番奥にはちょこんと綺麗な王座? に座っている黄色い髪をした少女が。


「こ、こんにちは旅の方っ。ご用件はお聞きしました!」


「あ、はい。ありがとうございます。それで再生のほうはできるのでしょうか」


「で、できましゅ! じゃなくてできます! ちょ、ちょっと緊張していて……」


 もごもごまごまごしてる。かわいい。


「よかった、登ってきたかいがありました。再生していただけるということでよろしいのでしょうか」


「もちろんでしゅよ! ……ですよ! 登ってきたということなのですが、地上に転送魔法陣はなかったのでしゅか?」


「なかったでしゅ」


「そうでしゅか……消えちゃったんでしゅね。これはご足労をおかけしましたでしゅ……です」


「とんでもないでしゅ」


「はわわわ! わたしゅはでしゅましゅはふだんはつかいましぇんからね! それではこちらへ。回復用の台座がございましゅから」


 お姫様は「ぶいーんぱたぱたぱた」って口に出しながら低空を飛んで案内をしてくれました。かわいい。


 ついていった先にはたしかに台座がありました。いわゆる手術台に近いかな。


「ここにごろーんとよこになってくださいでしゅー。ちょちょいとしらべたら再生をはじめましゅねー」


「わかりました。えっと、この姿じゃみっともないなのでお着換えしちゃいたいのですが」


「あそうでしゅね。んじゃあ更衣室ありましゅからそこで。まってまーしゅ」


 手術台の周りは壁におおわれているのですが、1か所大きな空洞があったのでそこでお着換えをしました。一番良いワンピースに着替えたぞい。


「お待たせしました。このお洋服で大丈夫ですかね」


 お姫様はぱぁっと明るい顔をしてワンピースの生地を触ってきました。


「わあこれはきれい! 触り心地も素敵! いいなーいいなー! あ……しつれいしましゅた」


「そんなに良いですか?」


「そんなによいでしゅ!」


「じゃあ差し上げます。私はもう何着かワンピース持っていますから」


「はわわわ! はわわわ!」


 はわはわしているお姫様をしり目に、デニムにブラウスという普通の服に着替えて、ワンピースを全て取り出しまして。


「これ全部どうぞ。登っている最中にヒップバックが擦り切れて落下していなければもうちょっと面白い道具も差し上げられたのですが」


「はわわわわわわわ! 本当に? 本当に? いただけるんでしゅ!?」


「どぞどぞ」


「わーいわーい! やったでしゅー!」


 生地手に入るような場所じゃないもんね、ここ。全部うまくいったらたまにここに生地持ってこようっと。

 ルンルンランランしているお姫様、名前はたんぽぽっていうそうです。良い名前だけど日本だねそれ?

 まー何かあっても不思議じゃない、それがファンタジーという結論を出して手術台に乗りました。

 

 ああなんか、数日芋虫した疲れがどっと出てきた……。ねむ……い……。


 博士が80パーセントできたという歓喜の声を無視して深い睡眠に落ちてゆきました。



 ***



 眠りから覚めると、たんぽぽ様が私の右手に再生のスキルを使用していてくれました。


「すごい、手首までは肉がつながってますね」


「あんまりすごくはないのでしゅよ。マウンテン族はスキルLv5で再生をもってましゅけど、わたしゅはLv2でしか持ってないんでしゅ」


「そうなんですか。えっと、かくかくしかじかなんですけど、一度取り込ませていただいて、それから取り出せばLv9まで効果が上昇します」


「まじでしゅか」


「まじでしゅ」


 じゃあ、ということでスキル【再生】を取り込んでLv9まで使えるようにしました。


「じゃあこれをどうぞ。マウンテン族よりスキルLvが上になりましたね」


「はわわわわわわわ! 本当にLv9でしゅ! これならもっと早くなおせましゅよ!」


「商売にもなりますよね。マウンテン族はきわめて高価な対価を支払うことで再生しているようですし、それを上回るスキルLvなら……ね?」


「わたしゅたちは隠れ住んでいるような種族なのでしょうばいするきはないのでしゅが、来ていただいたかたをすぐ治せるならそれに越したことはないでしゅ」


 基本的に善なんだなあ、フェアリーさんは。


 Lvが上がっても精神力はそのままなのですぐに息切れを起こしちゃいます。精神力当たりの再生効率は凄く上がってますけどね。


「へえ、名前はパール先生が名付けたんですか」


「そうでしゅよー。自分がいた世界の黄色いたんぽぽのような存在だっていうことでたんぽぽって名付けてくれましゅた。200年以上前でしゅかね?」


「長生きー。パール先生もすごい長寿ですね」


「パール様は歳取らないでしゅ。違う世界からやってきたので。ぼたんちゃんも歳とってないでしゅよね?」


「実はそうです。若干体の成長はしたんですけど、一番良い時期にまで育ったという感じで。それ以降は何年たっても今のままですね」


「うんうん。それならなおさら失った部位を治すのは重要でしゅね。明日にはおわりましゅ」


「はーい」


 うーんタイミングは本当ぎりぎりだなあ。


 もう98パーセントだって。

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