第23話 消えていく戦場
最近兵士さんが慌ただしいです。どうも、神王国が国境線に兵士を集めているそうでして。
なにもない威嚇行動ならいいのですが、万一、ということも考えられます。こちらも呼応しないといけない。
あの強固に封鎖されている国境線を破壊できるとは思えないのですが……。。
私は傭兵として後方参加。水なら大量に生み出せるし、ちょっとした大けがなら治療できるもん。
後方って、前線が頑張る以上に重要な役割だったりします。
神王国ははっきりと敵。ロゼス王国は私をよくしてくれている友好的な国。どちらに肩入れするかはまあ、だれでもわかる。
とりあえず何もない日が続き、王都のほうからも援軍が来ております。陽動作戦だったらやだなあ。
街1つの魔導防壁くらいならゆーしゃさまが破壊できるらしい。無茶苦茶だな……。
こちらの軍隊が動いたようです。私は後方支援なので前線の様子が分からないのですが、魔法スキルによる後方支援は打ち切り、可能な限り前に行って兵士をサポートしてほしいという依頼が来ました。
この依頼、つまり何らかの理由であの強固な魔導防壁が破られたということになります……よね? 兵士と兵士がぶつかるわけですからね。そういうことになりますよね。
どうやったかは分からないけど、とりあえず全力でサポートしないと。
私ははっきりいって強い。一般兵士とか、リザードマン部隊よりはるかに弱いもん。いくら強固な鎧を着て、強固な魔導防御を持っていたとしても。
だから、一番前に出た。兵士を殺すことになるけど、正直躊躇はない。
魔法という銃弾と砲弾が飛び交い、それから身を守るために塹壕がいっぱい張り巡らされている前線を、とにかくつぶしていったよ。超大量の高温水で、塹壕ひとつを埋めたりした。躊躇は、ない。私には信念がある。
私をつぶさないと前線が崩壊することが分かって、エリート部隊が突っ込んできたけど、軒並み刺し殺していった。腕なしで6年生き残ったんだ、これくらいどうということはない。リザードマンにおもいきり接近して二の腕スマッシュで打ち殺さないといけないわけじゃない。武器が持てる、リーチがある。それだけで私には十分だよ。
んで、出てきた。ゆーしゃさまぱーてぃが。あれだけ強固な魔導防御による防壁を大魔法無しで打ち破れるとしたら、この人たちしかいないよね。
「ああ、やっぱりゆーしゃさまたちなんですね」
「貴様は俺様の素晴らしい作戦を毎回毎回無駄にしやがる……! なんなんだよくそが!」
「さぁ? なんなんでしょうねえ?」
「くそくそくそくそくそ! ムサキ頼んだぞ! おれは戦略魔法の準備にとりかかる」
「え、この状況で? 味方も巻き込むのでは……」
「うるせえ! ここであっちを壊滅させりゃあ、あと詰めで一気に王都まで行けるだろうが! 本当に邪魔すんじゃねえよ!」
ゆーしゃさまは激高してそう叫びました。うーん、まずいな、冷静な判断ができてない。なんか言葉もちょっと変だし。
あの筋肉ゴリラ……ムサキだったな、ムサキが前に出てきて、
「じゃ、私が時間稼ぐかな。とっ捕まえてまた拷問してあげるからね」
そう喋ります。
「あの時はどうも。逆に拷問して差し上げますよ」
こうして、モンタに続いてもう一人のパーティメンバーを始末する時間がやってきたのでした。
ムサキは回復もできる、ゴリラのようにムキムキな戦士。
あのときは私の喉を切り裂いては回復させ、お腹を切り裂いては回復させ。腕や心臓をダガーで串刺しにしては回復させ……。懐かしいな。
「そうりゃ!」
ムサキの極めて速い突撃!
私は水を壁のように生成して突撃を防ぐ。
ムサキは水を中和。というか、水そのものを消し去った。
なんかすごいスキルを持っているのは間違いない。
突撃が止まった反撃に狙う突きさす。ムサキは横っ飛び回避。
うーん。
「遅い遅ぃ!」
ムサキは横っ飛びからほぼ反動無しで突っ込んできて、その大剣で狙って振り下ろす。
魔力塊でマジックシールドを形成して、振り下ろしを止めてから、もう一度狙って突き刺す!
[ひだりて:防御は私が魔法で何とかしますので、スキを狙うことに集中してください]
任せた。
突き刺しは驚異の体捻りで回避され、いったん後ろに飛びのくムサキ。そこに追撃の火炎放射。ちょっとは効いたっぽいけど即座に回復される。
「やるねえ拷問ちゃん! 次はレイプしてあげるよ!」
といって私に【逆の回復】を【伝達】。この時五メートル以上は離れていたんだけど、魔法スキルはムサキから飛んでこないで、いきなり私に効果を発してきた。うそやろ、〈距離を無視して魔法スキルが一瞬で飛んできたっぽいんだけど〉。幸い私の強靭な魔導防御で魔法は貫通せず止まったけど。
「うひゃひゃひゃひゃ!」
もう一度突っ込んで突きさしをしてくるムサキ。魔力塊で弾くひだりて。
迎撃で狙う突きさす。ムサキ驚異の回避。
チート戦士様は戦闘能力がすごい……。
戦闘能力を下げないとだめだ。ううん……。
今のところ、得体のしれない距離関係なしの魔法スキルと接近しての一撃だけ……。
距離を無視して飛んでくる魔法スキルはどうにもならない。
接近した時に、なにか逆転する方法を……。
考えている最中は、補助してくれる2人が身体をコントロールして迎撃に出てくれてる。
思考勝ちできるのは私のほう。
思考で、勝つ……。そうか、思考で勝とう。
「この勝負、私の勝ちだね」
「何をほざいてるのかなあ? 圧倒的に僕が優位じゃん?」
そういうと、また負の回復が飛んできた。さっきより強い!
魔導防御が持ちこたえている間にこれを【跳ね返す】!
負の回復がそのまま距離関係なしにムサキに跳ね返る!
Lv1なうえに物理系のスキルなので完全には跳ね返らず。私に残っている負の回復は【中和で誤魔化した】。
ムサキは負の回復が跳ね返った瞬間に魔法を止めたので、ダメージにはならなかった。でもこれで遠距離は無効と思ったのではないかな。
「ひひひひ、おもしろいねえ! さぁて、これに耐えられるかなあ!」
超速度の回り込み接近からの振り払い! 槍でまた【跳ね返す】! しかし跳ね返し切れずに槍は曲がって、手から落としてしまう。
まだ大丈夫。
私は槍で【跳ね返した】。そう、〈私の思考〉は【跳ね返した】というスキルを使った。〈ひだりての思考と行動〉がまだ〈残ってる〉。ひだりての攻撃。
粘っていて燃えている水、それを水蒸気にして全周囲に放射。水蒸気ナパーム弾みたいな感じ。
これは粒子だから消し切れないはず。
「ぐああああ!」
効いた!
ダメージを受けるムサキ!
もちろん私も燃えているけど。
このダメージを即座に回復するムサキ。
次にみぎての行動で幻惑をかける。
無効や抵抗などのスキルがないのか、一瞬だけ止まったムサキ。
ここだ。
右と左が作った時間で【跳ね返し】の思考時間が終了し、自由になった私の思考。次に使うスキルは【狙うスマッシュ】! 左ストレートだあ!
どごぉ!
ムサキの顎にクリーンヒット!
追撃でひだりての行動。手が顎に接触している間に振動を最大Lvで相手に【伝達】。顎から振動が伝わって、脳が完全に揺れるムサキ。
振動を直接伝達すれば、私には振動が来ないけどムサキの体にはかなりの振動が伝わる。なんたってLv1でもLv3相当の効果が出る私ですから!
顎から振動が伝わって頭部が揺さぶられるムサキ。顎は脳を揺さぶりやすい。脳が揺れるとどんな生物でも一瞬は意識を失う。
ムサキだってそう。一瞬だけど意識的な行動ができなかった。
この高速戦闘でそれは、大きな隙だ!
この隙を使いみぎてが右腕をムサキに向けて、私の強靭な右手を発射。そう、右手首から先を骨ごと引きちぎる形で発射したのだ。
〈発射はスキルだけを発射するものではない〉。〈発射できそうなら何でも発射する〉んだ。
硬い骨Lv3の、古代超文明の義手の、皮下複合装甲の、発射Lv2の右手をもろに受けて、ムサキは完全に顔がつぶれた。トマトのようにはじけ飛んだ。
死んだね。
死体撃ちな感じがするけど、最後に猛烈な火炎放射を放ち、一気に骨ごと焼き尽くした。
超回復だけはされたくない。
しかもちょっと離れたところには『せいじょひなたさま』がいるから、少しでも息の根があったら回復されてしまいそうで。
燃えカスをしっかりと確認。骨の破片すら残ってない。
消え去った。
ムサキは、この世界から消え去った。
「はい、終わり。拷問君」
ゆーしゃさまたちを振り返ると、ちょうど戦略魔法が完成した瞬間でした。
その戦略魔法は、炎の海と呼べばいいのだろうか。魔法陣の内部全てが燃えている。燃えているというか、燃えている物質で満たされている。
なんだよ、これ。
立ち尽くす私。ふっと勇者のほうに顔を向けると、もうそこには姿はなくて。私はもう、立ち尽くすしかなくて。
――――
戦闘の結果は、両軍の消滅。
生き残りは後方の指揮部隊とか、補給部隊など。
両軍の主力が、一瞬にして消え去りました。
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