第18話 地獄の道中





 無人の宿屋ですが、本当に宿屋ですね。ごはんこそ出てこないものの、魔導冷蔵庫に材料は詰まっていて自分で作れますし、コーヒーとかも置いてあります。

 ふふふ、肘先があればどれも精密に活用できたのでしょうけどねえ。

 まあ、普通にバスタブとシャワーがあり温水が出て、ベッドがあって。

 清潔な体で就寝できるのは非常に良いです。なんでここにあるかはともかく。


 化粧台に立つと、どれだけ今自分が女性としてひどい状態なのかが分かります。とりあえず剃刀をお借りして髪の毛を切りました。凄く伸びちゃってた。ハサミ……操れたらいいのですけどもね。腕がね。

 ガサゴソして、女性冒険者御用達のホルモンバランスを安定させて月経を止めるお薬も拝借。あ、収納ポーチも拝借しよう……。


 3日くらい……だとおもうのですけど、それくらい滞在し心に文明を取り戻して、出発。さあ、頑張ろう。


 20階層ほどに進むと、カエル? かな、両生類モンスターが群れを成して襲ってくるようになりました。

 これきつい。武具をしっかりと持っている1部隊と遭遇しますし、後衛術師が幻惑魔法などを使ってきて、精神汚染してくるんです。強い心じゃ精神汚染は防げない。中和で治せますがどうしても動きが止まる……。


 後方から幻惑が飛んできて、中和する間に一撃貰って、それでカエル特有の毒をもらって傷と毒を回復しつつ反撃で数匹蹴り殺す。


 消耗が、消耗が激しいです。両生類の階層ということもあり地面は水浸し、どっかりと地面に座った大休憩が取れないです。

 せめて、最初の一撃、精神汚染を事前防御する方法を考えないと。探感知たんかんちして先に発見、潜伏忍び足しつつ射程距離に近づいて、マジックボルトでも放ちましょうか? しかし、鉢合わせが多いんですよね……。うーん。


 ゲコ、ゲーコー


 ああ、嫌な音がする。ちょっと引き返して、部屋で待ち構えておこう。


「ゲーコー」


 あー出ましたね大型2足歩行カエル。恐らく中ボスです。舌の射程圏内に入ったらパクリといかれますよ、これは。


「げー、こー」


 ドスンドスン歩いてくるのでマイナス200度の冷気を乗せたマジックボルトで迎撃。マジックボルトが一番威力が高いし、両生類は冷気に弱い!


「げこー!」


 ボルトが当たったとほぼ同時に、莫大な音の圧力をかけてきました。一瞬身体がこわばります。音爆弾かこれ。


 身体のこわばりが取れた。

 目の前にはすでに舌が迫ってきていました。

 巻き取られたら食いちぎられる。


 必殺の超高温水! それに伝達をかけてマイナス200度の冷気を伝達!

 とどめにこの水を私の周囲にまき散らす!

 熱い上に触ると凍る、敵も地獄私も地獄の自爆攻撃だ! 伝達はしないものの、この地獄の水は私にも無差別に襲い掛かるってぇわけよ!


「げえええええ!」


 私をベロンと巻き取り、持っていこうとしたまではよかったんですが、自爆攻撃がカエルの舌に直撃。舌が崩壊する形となって口に運ばれることは免れました。

 私自身も非常にダメージを受けていまして、皮膚がぶよぶよの猛烈なやけど。激痛を耐え必死で治しています。


 びょーん


 舌による巻取りができなくなった大型カエルは、ジャンプして突撃をかけてきました。あれは悪手ですね、ジャンプしちゃったらそれ以上の動き、空中機動ができないよね。

 自己回復を一時的に止めて水の超高圧噴射でカエルを撃ち落とし、そのまま冷気伝達で全身を凍らせて、終了。


 ダンジョンにおける中ボスなのか、両生類における中ボスなのかわかりませんが、未鑑定ジュエルをドロップ。鑑定する方法がないー……。

 ……全身の服がだめになっちゃったので、宿屋のバスローブでいいから入手してきて来よう……。

 ポーチ(と腰に下げるためのひも)は防護魔法がかかっているのか無事でした。尊厳は守られそうだ。



 宿屋に戻って、バスローブを拝借して一度寝て、リフレッシュしてから再開です。



 21階のセーフエリアまでが遠かった……ひとつ前のセーフエリアが宿屋な理由、分かった気がします。両生類の群れは戦いにくい。


 ま、群れていることに変わりはないので、スキルジュエルはいくつか手に入ってます。

【幻術生成Lv1】【粘るLv1】【投げるLv1】【音生成Lv1】。

 幻術は精神攻撃の一種ですね。幻から恐怖まで精神的な攻撃を与えられます。Lvは魔法強度かな?

 粘りは、液体や風に粘りを与えられたり、垂直の壁にピタッと止まれるような粘液を身体から出したりできるようになりました。

 投げるは、投げるですね。私は氷のジャベリンを撃ってきましたが、彼らは普通に木製のジャベリンを【投げて】きます。それで手に入りました。狙って投げればストライク!

 音は、音。囁き声から爆音まで、音を作成できます。光と音の生成が手に入ったので、猛烈な光と音で一時的に行動不能にする近代兵器、スタングレネード、使えるようになりました。水の被膜で生成して、投げてやるんだ。ふふふ。


 両生類の次は、トカゲです。サラマンダーや、リザードマン。サラマンダーは雑魚です、すんげー燃え盛っているトカゲなんですよ。もう猛烈に熱い灼熱の炎を身にまとっているんですよ。


 つまりとっても勢いよく水かけりゃいいのです。

 大規模な水蒸気爆発起こして勝手に死んでいきます。


 水を高圧にしておくと水が沸騰する温度が上がって水蒸気爆発の威力も上がるので、高圧水をぶちまけるのがポイント。


 火生成手に入ってLv2になっちゃった。ホクホク。


 問題はリザードマン部隊。身長180センチメートル前後、しっかりした武装をした5~6匹の部隊が、断続的に襲い掛かってくるんです。腕と棒さえあればと何度思ったことか。純粋に武力で押してきます。泣きたい。実際鼻水と涙をボロボロたれ流しながら戦いました。

 このダンジョン、ここで殺しに来ているのか23階にあると思ってたセーフエリアがない。25階までほとんど休めずに進むことに。


 25階は家でした。家です。誰もいませんけど、家です。おうちと庭。ここで永住したい。でもそれがダンジョンの思惑です! 永住すれば長いこと精神エネルギーを搾取できますからね。私はめげませんよ! あと少しで最下層だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る