食事の準備


 ダンジョンって場所はとても不思議な場所だ。

階段を降りて地下に下れば、そこには不思議な世界が広がってて、上を見れば太陽が出ていて、雲も流れてる。そんな事を考えながら探し物。


「あった! ここで草の実を食べてる、フンの乾き方がそんなに前じゃないから近くにいるはず」


 全部で25匹の角兎を狩ったけど、肉は2つしかドロップしなくて、今はリザードラットを探してる所。


「何時食べて何時出したなんて、良くそんなの分かるな」


 草が薄くなってる場所を探して獣道を何本か見つけて、リザードラットくらいの大きさの生き物が通りそうな獣道を選んで、その周りを這いつくばって調べてるんだ。


「綺麗な白だったのに緑のシミが出来てる……」


 さっきは髪を振り乱しながら地面を転げ回ってたルピナスさんだけど、手槍を作る時に残った角兎の皮を紐状にしてもらって、長くて赤い髪を頭の上でお団子みたく縛ってる。


「実習が終わったら洗濯に出せば良いじゃない、あんまり気にしないの」


 イズさんと2人でブツブツ言いながら手槍を構えて警戒してるんだ。



 ダズと2人でしゃがみこんでリザードラットを探してたら。


「なあライル、ちょっと気になったんだけどさ、リザードラットってトカゲなのかな? それともネズミかな? どっちだと思う?」


 そんな事を聞かれた。う〜ん……どうなんだろ……


「ネズミっぽい外見だし、ネズミみたいな行動をするけど、鱗もあるし卵から生まれるしトカゲだと思うよ。ネズミだったら卵から生まれないでしょ?」


 前に近所に住んでたションじいちゃんが言ってた気がする『形はネズミだけどトカゲだよなこれ』って。


「卵を見つけたら不用意に触っちゃダメだよ。古い卵には病気の元が沢山付いてるらしいから」


 ションじいちゃんがよく言ってた、産みたての卵は良いけど、少し時間が経った卵は危険だって。


「えっ、そうなの……触っちゃダメだった?」


 そう言われてダズを見たら、ネバネバした液体でうっすら光ってるリザードラットの卵を持ってた。


「あっそれは産みたてだ。ネバネバしたのが乾いてたらダメなんだ。それだったら、ゆで卵にしたら美味しいよ」


「そうなの? ここに沢山あるけど全部持ってく?」


 えーと……


「全部取っちゃダメだよ。食べる分だけ持って行かないと」


 とりあえず1人1個で良いかな……


「んじゃ16個持って行こう。1人2個は必要だろ?」


 そう言えば、僕の食べる量は皆と比べたら少ないんだよな……ルピナスさんやイズさんでも僕より沢山食べるし。


「うん、沢山あるならそうしようか」



 結局、その後に見付けたのはリザードラットじゃなくて野犬の群れで……


「ルーファス君、障壁の中に」

「ルピナスさん大丈夫、僕だって野犬くらいなら何とかなるよ」


 20頭くらいの群れと遭遇して戦闘になったんだ。


 野犬1匹1匹の大きさは、僕の家で飼ってた森魔狼よりずっと小さかったけど、群れにはボスがちゃんと居て、ボスに統率された野犬の群れは案外手強かった。


「ケルビム、ルーファスの召喚が終わるまで時間を稼ぐぞ」


「わかってるよユング。援護は頼んだ」


 最初に群れに向かって飛び出たのはケルビムで、ユングが魔法陣の構築を始めた。そしてケルビムを追い掛けるようにペインも飛び出した。


「ケルビム、前は任せた」


 低く身構えて盾を扱うケルビムだけど、犬の群れにソレをやっちゃダメだ。


「囲まれないように。前は囮だよ」


 ケルビムやペインが走り出した方向に後ろを向きながら僕も走る。

 そんなにスピードは出ないけどケルビムやペインに後ろから襲いかかろうとしてる野犬の群れを見ながらだから仕方ない。


 僕が叫んだのとほぼ同時にユングが魔法陣を展開し終わった。


「ペインを中心に全方向に打ち出すからケルビム、ライルしゃがんでくれ!」


 その声と同時に僕とケルビムが地面に伏せたら、ペインの頭上に展開したユングが構築した魔法陣から無数の石礫が飛び出した。


「イズ右は任せたぞ」「ダズ左は任せたわ」


 魔法障壁を半球状に展開してるルピナスさんと障壁の中で召喚の準備をするルーファスを守るようにダズとイズさんが地面を這うように飛び出して、野犬と同じ目線の高さで鋭く手槍を突き出して、飛びかかろうとしてる野犬達を牽制し始めた。


「その動きは愚鈍、その歩みは鈍重、物思う頭を持たず、生きる魂すら持たぬ土塊、我は呼び掛ける、土塊のその身に、我は呼び掛ける、ものを見ぬその目に、我魔力を糧に化現せよ土塊の巨人」


 ルーファスが空中に向かって丁寧に丁寧に紡ぎあげた魔法陣が光だした。詠唱が終わって出て来たのは、ケルビムみたいにぽっちゃりしてるけど、大きさはとんでもなく大きな土のゴーレム。


「3人とも避けろ! ゴーレムが行くぞー」


 ユングが大きな声で教えてくれた、あれは一昨日の夜に皆で考えたやつだ。


「行けジャイアントクレイゴーレム! 全てを踏み潰せ! ロードローラーァだぁぁぁ!」


 巨大なゴーレムを召喚すると制御するのが大変らしくてルーファスが皆に何か良いアイデアが無いか聞いてきたんだ。


『街道整備に使ってるアレ。なんだっけ……アレ……』


 ペインがボソリと呟いた奴を皆でアレコレ言いながら考えてたんだけど、道を慣らす時に使う円柱状の大きな石のローラーだって気付くまでカード対戦が2周したんだ。


『あ! コレだロードローラー』


 “勇者と聖女”に書いてあった。勇者が考案した道を慣らす道具らしい。村にも1人で引っ張れる位の大きさのヤツがあったけど、ロードローラーって名前は本で読んで初めて知った。


 ルーファスが叫んだのと同時に、大きなゴーレムが横に寝そべってゴロゴロ回ってすごい速さで野犬の群れに向かって行った。


「ぐちょぐちょに潰れて挽き肉になっちゃえ!」


 教室で勉強してた時や修練場で模擬戦をしてた時のルピナスさんは、物静かな感じだったのに、いざ戦いになってみると口が悪い……


 半円形の障壁の中に皆で詰めて入って、その外周に爪先を付けてゴロゴロ高速で回る土のゴーレムなんだけど……


「ああ、食べられる野草がどんどん潰れてく……」


 何もかもをぺっちゃんこにして行くんだ。


「苦くて不味い草なんて潰れちゃえ! 苦いのなんて大っ嫌いだ!」

「ルピ。ちょっと声が大き過ぎるよ」


 ゴロゴロ回って野犬を全部踏み潰したゴーレムが転がった跡は……ドーナツみたいになってて……


「おっ! 皮と牙が落ちてる」

「こっちは魔石が落ちてるよリザードラットが居たのかな?」


 ぺっちゃんこに潰れて泥にまみれた野草をかき分けて、落ちてた物を拾ってたら……


「あっ……リザードラット、死にかけてる」


「ライル、触らないで。私が殺る!」


 僕が見つけた瀕死のリザードラットをルピナスさんが角兎の角の手槍でブスっと一刺し……


「お肉キターー!」


 それを見てたケルビムが……


「ルピナスさんの執念がドロップ運を変えた……」


 なんて驚いてた。


「ルピがトドメをさした魔物って肉しか出ないよね」


 角兎からドロップした肉2つ、どちらもルピナスさんがトドメをさしたやつなんだ。


「肉の確保はルピナスさんとケルビムに任せて、僕とイズは食器でも作るよ」


「そうだね、私達がトドメをさすと牙とか角とか皮しか落ちないから」


「火魔法なら俺も少しは使えるぞ、護衛ついでに手伝おう」


 ダズとイズさんとペインの3人は倒木を運んだ場所に向かって行った


「んじゃ僕とルーファスとライルでリザードラットでも探すか」


 ユングとルーファスと3人で、リザードラット探し。


「ケルビム、肉よ。肉が欲しいって心から願うのよ」

 

「どうせなら塊で欲しいね、焼肉もだけどシチューも食べたいし」


 ただルピナスさんは葉っぱで包んだリザードラットの肉を一塊片手に抱えてるし、ケルビムは作って貰った盾に角兎の肉を乗せてるんだ……


「どうやって倒すつもりなんだろ?」


 疑問に思った事が、つい口に出てしまった。


「そんなの障壁でぶん殴ればいいでしょ。ぺっちゃんこに潰したってどうせドロップなんだから」


 なるほど、普通の魔物とは違うんだな。





 なるほどのう……勇者様や聖女様は、そんな事を悩んでおったのか。


「結局の所、魔族も人も変わりはないと言ってましたが、結論は出なかったようです」


 人の領域を守り、人が安全に暮らす事に全てを費やす大賢者と、魔族や魔物とも共存しようとした勇者様と聖女様か。


「それでは大賢者と袂を分かつのも納得じゃ。我が師はただひたすらに魔族を恨んでおるからのう」


「不思議な事が1つ、ヨシュア様に何があったのかは知りませんが、先日出会った時に変な事を頼まれてしまいましてね」


 む? ここ数日、何処を探しても見つからない我が師と……


「それは話せる事かの?」


「ええ、もちろん。今年の祓魔師科の生徒には、出来る限りストレスを与え続けてくれと。甥っ子には可哀想ですが、大賢者から頼まれてしまえば聞かない訳にはいかないですからね」


 むう……純朴な少年にストレスをじゃと……


「それの理由は聞いておるのか?」


「なんでも、長年探し続けていた人物らしいですよライルが」


 長年……そう言えば40年前に祓魔師を王族と同等に優遇するように法を定めたのは我が師じゃったな……


「とは言うても、ライルはまだ12歳じゃろう? 我が師の年齢と比べたら生きとる時間は微々たるもんじゃ。それなのに長年探しておったのか?」


 何を考えとるか皆目見当も付かぬ。


「未来予知でもできるのでしょうかね」


「う〜む。我が師でも未来を知る事は出来ぬと言っておったが……」


 どういう事なのか……


「しかしゼルマ講師、他の子供達の事じゃが……」


 少し厳し過ぎる気がしないでも無いのでは? と言いたかったのだが、言葉を遮られてしもうた。


「私は長期の指名依頼を受けただけなので、大筋では依頼主の指示に従わないといけませんが、甥っ子を鍛えるついでに残りの7人にも出来る限りの技術は伝えるつもりですよ」


 なんとなんと、今年の冒険者コースに残った8人の子供達は贅沢じゃな。


「現役では3人しか居らぬ金級冒険者の1人に指導して貰いたい者などいくらでもおるじゃろうて……」


「私程度の実力であれば、リンゲルグ村に行けば普通ですよ普通」


 むむむ……やはり最前線と言う事か。

 

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