祓魔師は魔導書をコンプしたい

サン助 ハコスキー

王都編

祓魔師は魔導書をコンプしたい


祓魔師エクソシスト魔導書グリモワールをコンプしたい】





 俺は10歳の時に魔導書に選ばれた。


 その時の俺は両親と同じ祓魔師なれるって喜んでたと思う。でも今の状況が喜べるかと聞かれたら、喜べないとしか答えられない。


 なぜなら……


「序列115、ライル・ライン。ここにアーバイン魔法学園での全過程を終えた事を証明する」


 今日は学園の卒業式。


 卒業生は俺を含めて115人。序列115って事は最下位って事で、最下位の落ちこぼれな俺は、まともな就職先すら決まってない。


 成績上位の奴らは自分の望んだ職に付けるのは間違い無い。現に首席と次席は宮廷魔道士の道が開けている。


 同級生って言っても専攻学科が違うから、どうにもならないんだけどな。俺は学年で唯一の祓魔師エクソシスト育成科の生徒だし。


 他の同級生は魔法騎士科とか魔法化学科とか魔道士科とか、自分の魔力を利用して魔法を使う学科なのに、学年で唯一俺だけ魔導書を持たないと魔法の使えない祓魔師育成科……


 普通の魔法使いと祓魔師の見た目の違いは、持ってる物が魔導書か杖かくらい、だけど魔法使いと祓魔師は魔法の使い方が大きく違う。


 魔法使いなら呪文を覚えたり魔法陣を覚えれば比較的簡単に強力な魔法が使えるんだけど、祓魔師は魔導書の中に封じ込めた悪魔の能力を使う事が出来るが、通常の魔法を使う事が出来ない。


 どちらも一長一短なんだけど、魔法使いは連射が効かない魔法が多くて大火力、祓魔師は魔導書のページを開いていればいくらでも連射出来たりするし省エネ。


 いくらでも連射が効くなら祓魔師の方が良くないか? なんて疑問だろうけど、祓魔師の魔導書に登録される魔法は倒した悪魔の持ってる能力の中からランダムに1つだけ。

 同じ悪魔からは1つしか魔導書に能力を封じ込められない訳で、望む魔法が手に入るかは運任せ、意外と使い勝手が悪い。


 それに、魔導書に封じ込めた悪魔の能力が3つしかない俺は、どんなにヘボい魔法使いにも劣ってるって訳で座学では真ん中くらいの成績だったのに実技が圧倒的な最下位で、結局1番の落ちこぼれ。


「ライル、この後の卒業記念の舞踏会にお前も出るんだろ?」


「何言ってんだよハンセン。俺みたいな落ちこぼれが行っても隅っこで飯食ってるだけだろ? 今から冒険者ギルドに行って正式に冒険者登録してくるつもりだから舞踏会は不参加で」


 ニコニコしながら手に持った花束を下に向けて俺に話し掛けて来たのは序列114のハンセン、座学が断トツの学年最下位で魔法騎士育成科で1番下の成績だけど実技はそこそこの成績、王都の魔法衛兵隊の見習いになる事が決まってる。衛兵隊の中ではエリートコースだな。


「そうか、んじゃここでお別れだな。またいつかどっかで」


 花束を掴んでない右手を出して来た。


「しばらく王都の冒険者ギルドを拠点に活動するから、会えなくなるって訳じゃ無いけどな」


 もちろん握ってやった。花束の中に女の子の名前が書いてあるメッセージカードが刺さってたから、あらん限りの力を込めて。


「痛いっ!ライル、痛いって」


「んじゃなハンセン」


 4年間ずっと落ちこぼれって言われて過ごした学園生活に別れを告げて、今日から俺は自称祓魔師の冒険者……


 世知辛い。


 4年間過ごした寮生活も今日で終わりで、これから使わないだろう荷物は全部後輩に配ったし、教科書とかは実家に送った、だから持ってく物は着替えと多少の生活用品だけ。


 寮長さんに挨拶して学園の門を抜けたら、いよいよ俺の社会人としての生活が始まる。


 とは言っても、冒険者ギルドには学生用の仮登録してあるから、それを本登録に変えれば、祓魔師としての登録証は卒業前日に貰ってるから問題無い訳で……


「本登録の費用は分割で、明日から本格的に依頼を受けるので宜しくお願いします」


 受け取った冒険者ギルドの登録証、首から下げてるミスリルチェーンにぶら下がってる祓魔師の登録証と王都の住民証と同じくぶら下げて、今日から住む予定になってるアパートに向かう。


 冒険者ギルドが長期契約してるアパートだから、ここに長期で住む場合は住民証が貰えるのが有難い。

 なければ毎週のように滞在届けを出さないといけないし。


 俺の部屋は2階の角部屋、東側の窓は開けても隣の建物の壁が見えるだけ、北向きの窓から王宮が見える。


 備え付けの棚に小物や着替えをしまって、貴重品は腰の左側にぶら下げてる小さな魔法鞄の中に。

 部屋の鍵はあるけど、そんなもの何一つ信用なんて出来ないし。


 このアパートに住んでるのは、どいつもこいつも貧乏で成り上がろうと必死な冒険者か、落ちぶれた冒険者だから。


 魔法鞄から箒とチリトリを出して掃除を始める。

この部屋は半年くらい空いてたらしいからホコリが溜まってる。

 雑巾とバケツを取り出して、井戸に行って水を汲んで来て部屋全体の拭き掃除、移動する度にギシギシ鳴る床と、床板の隙間や据え置きの家具の隙間から出てくる虫が、ここが最下級の宿泊施設だって教えてくれる。


 掃除が終わったら魔法鞄から布団を取り出して、据え付けてあるベッドに掛ける。


 明日の予定なんて何も決まってないけど、毎月のアパート代と、そこそこちゃんとした食費くらい稼げるようになりたいなと思いながらベッドに寝転んだ。


 ライル・ライン17歳、明日から社会人としての生活が始まる。


 

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