木村直輝の雑多な短編集

木村直輝

学生時代の散文(中学高校時代)

(無題・松本仙納)

 今日、少年には予定があった。

 少年は中学三年生になり、もう部活動は引

退していた。そのためいつもなら学校が終わ

ってから塾に行くまでは暇なのだ。

 別に余裕というわけではない。ただなんと

なくやる気になれない・・・いや、そもそも

なぜ高校に行くのかさえからない。みんな

が行くから取り敢えず行く、といった感じな

のだから、やる気が起きなくても当然といえ

ば当然なのだ。と言っても、優護まさもりの様にやる

気になっている奴もいるのだが・・・。

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 今日の俺は暇ではないのだ。呼び出された

のである。校内で最も人目に付かなと思われ

る様な所に・・・。

 今朝の事だった。

 今日の放課後其処に来て欲しいと、ある女

子に言われたのだった。放課後に二人きりで、

と考えると、思いつく事は一つしか無い。

 少年はその女子の事を深く考えた事は無か

った。しかし、同じ学年の女子の中では可愛

い方だと思っていた。告白された時の答えは

もちろん・・・。

 そんな事を考えている内に、約束の場所に

着いた。

 其処に、

 少女はいた。

 少女は少年が来た事に気が付いたらしく、

ふわりと微笑んだ。その時少年は、何とも言

えない感覚に陥った・・・。こんな近くで彼

女の笑顔を、いや、そもそも彼女の笑顔を見る

事すら初めてだったのではないだろうか。し

かも、その笑顔が自分に向けられているのだ。

 そのやわらかな笑顔が。

 そのいじらしい笑顔が。

 そのゆきの様な笑顔が。

 その咲きほこる笑顔が。

 少年は平然を装って言った。

「ごめん。遅くなって。」

「そんなことないよ。来てくれてありがとう。

 それで、ね・・・。はなし、なんだけど・

 ・・。」

そこまでいうと、少女は顔を赤らめ俯いてし

まった、が、やがて決心したように顔を上げ

ると、少年の目をまっすぐ、力強く、それで

いてやさしく、見つめた。

 少年は胸が張り裂けそうな思いで、その眼

差しを受け止めた。

「私、前からあなたに、その、えっと・・・。」

少年の胸の高鳴りはもう最高潮に対していた。

此処まで来たら、もお・・・。

 ここに来るまで、俺は、彼女のこと、何と

も思ってなかった・・・。でも、ここに来て、

今、彼女の笑顔を見て、俺は、彼女のこと・

・・。ついさっきまで何ともなかったのに、

俺は今、確かに、彼女のことが、

 好きだ。

 少女は・・・、

 続けた・・・。

「あのね、

 死んでほしかったの。」

と言うなりポケットからナイフを取り出し少

年めがけて突っ込んできた。

 シンデホシカッタ。シンデホシカッタ。シ

ンデホシカッタ。シンデホシカッタ。シンデ

ホシカッタ。シンデホシカッタ。シンデホシ

カッタ。シンデホシカッタ・・・・・・・。

死んでほしかったの。

 少年には何も見えてはいなかった。

 少年には/何も聞こえてはいなかった。

 本能で、無意識で、少年は避けた。

 少女はそのまま勢い余って壁に突っ込んだ。

その音で少年は我に返った。ワイシャツが少

し破れていた。少年は少女との間合いを取っ

た。少女はゆっくりと、艶めかしく振り返り

/笑んだ。少年には何が何だかわからなかっ

た。ただ一つだけ、逃なければならないとい

という事だけはわかった。

 少年は走った、走った、走った。たった今

起こった出来事を忘れるためかの様に。

 少年は、振り返った。当然の事ながら少女

も走っていた。少女は速かった。二人の距離

は見る間に縮まっていった。少年は足が速い

方であった。学年では五位以内には入れる実

力もある。しかし少女は余裕の表情でその距

離を縮めている。少女は微笑んでさえいる。

少年はその笑顔に一瞬見とれてしまった。

 そうこうしているうちに、少年は階段に辿

り着いた。それを降りれば職員室はすぐそこ

だ。さすがにそこまでは追いかけてはこない

だろう。

 階段を下りようとした丁度その時、すぐ後

方で教×室の戸が開く音がした。

「こらっ。何を走っている。」

 丁度機嫌が悪かったのだろう。いらついた

先生の怒鳴り声と少女の足音が廊下に響いた。

先生は少女の方に向き直った。が、その口か

ら音が出されることは無かった。

 一瞬だった。

 辺りに紅の花弁が飛び散った。

 紅に染まった少女は、とても美しかった。

 今日は少年にとって一生忘れられない日に

なるだろう。人生最初の恋、人生最後の恋、

そして人生最後の…。

 少年にはもう何も見えてなどいなかった。

 少年にはもう少女しか見えてはいなかった。

 窓の空には、美しい松本仙翁の花が静かに

咲いていた。




























               木村 直輝


        此の作品は

        二〇〇九年七月二一日(火)に書いたものを

        二〇一〇年二月七日(日)に加筆修正したものです



――――――――――――――――――――



 この作品は私が中学生の頃(2009年7月は中学三年生で十四歳)に、原稿用紙に鉛筆で手書きした作品です。

 初めてちゃんと書いた小説と呼べる作品であり、真の処女作と言えるでしょう。


 明らかな誤字脱字もそのままに、もとの原稿通りに文字を起こしたつもりです。

 また、振り仮名で「/」または「×」が頭にあるものは振られている文字をその印で消して修正してあるものであり、それ以外のものはそのまま振り仮名のようにして書かれていた文字です。



 後に、高校時代に思いついた小ネタ(以下)と合わせて「告白」という短編を書いています。

リンク準備中


【小ネタ】

怖い話をしてた時の話なんだけど…、ある女の子の話が終えたら、一人の男子が「その子が死んだんならなんでお前がその話知ってるんだよw」って言った。それに対して他の男子が「●●怖かったからって揚げ足取んなよw怖い話なんて大体そうだろ」って言った。言われた男子は「は、別に怖くなかったし」って言って…。それでみんな爆笑してるなか、その女子がぼそっと「私が殺したから…」って呟いたのを私は聞き逃さなかった………。

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