スティルスライム S/Till S/Reim

斜田キヨマサ

プロローグ

 夕暮れの街は霧に滲む。その色が、やがて訪れる夜を一層深く感じさせる。

 路地裏、走る少年。肩に掛けた小さな鞄を揺らし、必死な足はもつれ、絡む。

 追う影、また少年。三人。内一人の指示で方々に別れ、逃げる彼を追い詰める。

 丁字路へと逃げ込む。その両側を、先程別れた内の二人が挟む。

「やっと追い詰めたぜ。痛い目に合わない内に出すもん出しな」

 狙いは無論、鞄の中。指示を出した一人が、更に追い詰める。

「あ、ああ……」

 腰を抜かしたのか壁にもたれ、そのまま気でも失ったようにへたり込む。

「何だよこいつ、へなちょこじゃねえか」

「とっととやっちまおうぜ」

 両側を挟んだ二人の言葉に応え、鞄を手に取ろうと迫る。

 そこで、ふとある事が目に留まる。


 どろっ。


 へたり込んだ少年、その口から溢れ出す液体。


 どろん、どろん。


 唾液などではない、真っ黒い何か。


 どろり、どろり、どろ……。


 次から次に溢れ出すそれは、彼の体を包んでいく。

 首から下すべて覆われたところで、「それ」がゆっくりと目を開いた。

 その瞳に白目はなく、真っ黒に染まっている。

「何だよ……これ…」

 得体のしれない恐怖を前にして、呆気に取られる三人。

 少年、と思しきものの口からごぼごぼと濁った声が漏れる。

『エモノ…ダ……』

「ひっ」

『エモノ……ショクジ……ノ…ジカン……』

 そう言うと、ゆらりと立ち上がる。

「ば…化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 誰ともなく叫び、三人は弾かれたように散り散りに逃げていった。

 残されたのは、追いかけられていた少年ひとり。

 身を包んでいた黒い液体が、体に染み入っていく。彼の掌に一つ塊を残して。

「急がなくちゃ、夜になっちゃう」

 塊が吸い込まれ、消えていった。

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