第43話 悩み、そして……
この一週間、最低限度の仕事はこなしつつも、頭の中でずっと自分の将来について頭の中で考えっぱなしだった。
そして、迎えた金曜日。
今日は午後からどんよりとした曇り空が広がり、夜には雨が降り始めた。
いつものように横浜駅近くのコーヒーチェーン店の前で車を止め、由奈を待っている間もぼおっと自分の将来について考えていた。
由奈を自宅まで迎えに行っても良かったのだけれど――
『今は大丈夫! 新たに気持ち切り替えられてるから!』
と理由で、いつもの場所で待ち合わせということになっていた。
しばらくして、コンコンとカーウィンドウが叩かれていることに気づく。
顔を向ければ、由奈がにこりとした表情でこちらへ手を振っていた。
琢磨は顔でどうぞと助手席へ由奈を促す。
助手席のドアが開かれ、由奈が傘を器用に閉じて車内へ滑り込むように入ってくる。
「お待たせ、琢磨さん! 雨強くなってきたね!」
「あぁ、そうだな」
雨足は先ほどよりも強まり、雨粒がアスファルトを強く叩きつけている。
「今日はどうするかなぁ……」
こんな雨だし、景色のいいところに行ってもあまり見栄えが良くない。
かといって、昔琢磨が残業で遅れた時のように、ファミレスで済ませるわけにもいかないし。
しばらく目的地に悩んでいると、雨風で濡れた前髪をミラー越しに整えていた由奈が、ちらりとこちらの様子を窺ってきた。
「どうしたの、琢磨さん」
「えっ? あぁ……いや、今日は雨だし、どこに行こうかなと思って」
「あぁ……うーん。どこかおすすめの場所とかないの?」
「おすすめの場所ねぇー……」
雨となってしまうと、どうしても屋内施設が主な目的地になるのだけれど、平日の夜となると屋内施設も閉館時間が早い。
目的地に到着したところで、ほとんど楽しめないことも多い。
「それじゃあまあ、今日は首都高をぐるぐる一周でもするか。元々目的のないドライブだし」
「わー……また琢磨さんが変なことしようとしてる」
ジト―っとした目を向けてくる由奈。
その視線を無視して、琢磨はフットブレーキを解除して、ドライブに切り替え、右矢印を出して後方車がいないことを確認してから車を発進させた。
「はぁ……」
走り出しても、夜の雨の日の運転は集中力を使う。
それに加えて、気圧のせいでどんよりとした車内のおかげで、気分まで落ち込んでくる。
「ちょっと、琢磨さん大丈夫? さっきから何度もため息ついてるけど……?」
「あぁ……まあ平気だ」
流石に由奈も琢磨のため息が鬱陶しかったらしく、眉をひそめて迷惑そうにしている。
しばらく首都高速をひた走り、平和島辺りを通過したあたりで、琢磨はもう一度ため息を吐いた。
「そんなに私とのドライブが嫌?」
ついに堪忍袋の緒が切れたように、由奈が嫌悪感丸出しの表情を向けてきたところで、ようやく琢磨は我に戻る。
「ご、ごめん。そういうわけじゃなくて……」
「じゃあ何?」
詰問してくる由奈。
琢磨は苦い表情を浮かべながら、口を開いた。
「いやっ……自分のやりたいことというか、新しい夢ってなんだろうって、この一週間ずっと考えてたんだけど、全く見つからないから何やってるんだろうって思い始めてな」
「なんだ、そんなこと」
「そ、そんなことはひでぇな!?」
「だって、そんなの、誰だってすぐ見つけられるはずないじゃん」
当たり前のことを当たり前のように言って見せる由奈。
その通りだと思った。
いくら考えたって、自分のやりたいことなんて、突然振ってくるわけではない。
何かきっかけがあって、それを通してようやく見つけることができるのだ。
「まあでも、そうやって一日中考え込んじゃうのも、琢磨さんらしいけど」
由奈はそう言って、軽く呆れ交じりの笑みを浮かべる。
「俺らしい……か」
由奈にとって、琢磨はどう見えているのだろうか?
そんなに一日中物思いに耽るようなタイプに見えるのかな?
そんな考え事をしていたからか、琢磨は前方不注意になっていた。
ふと前を見ると、渋滞の入り口に差し掛かっていて、琢磨は慌ててブレーキを踏んだ。
雨でスリッピーになっている道路で、さらに強くブレーキを踏み込む。
車は、ぎりぎりところで何とか停車して、前方の車との接触を回避できた。
ガタンとブレーキの反動で身体が揺れて、運転席の背もたれに身体が寄りかかる。
死を覚悟して、一瞬胸がきゅっと締まった。
琢磨は慌てて由奈の方を見て詫びる。
「ご、ごめん由奈。大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど……」
しかし、その掛け声も束の間。
突然、ドスンという鈍い音と共に、後ろから痛みの走るような衝撃音が鳴り響き、車体ごと強引に前へと前進した。
そして、ブレーキの効力虚しく、そのまま前方の車に勢いよく衝突して、琢磨の身体に一気に衝撃が走る。
目の前でフロントガラスが割れて、ベコンとめり込むように琢磨の方へフロント全体が迫ってくる壁のように近づいてきて、目の前まで迫ってきた時――
琢磨は意識を失った。
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