第3話 ドライブ彼女!?①
琢磨は車の助手席に今さっき出会った由奈という女の子を乗せ、しばし夜の二人ドライブを開始する。
海ほたるPAの駐車場からETCゲートをくぐり、Uターンして再び川崎方面の海底トンネルへと進む。
「そう言えば、どうして琢磨さんは一人でドライブなんかしてるの?」
「ん? いやっ……特に理由はねぇけど。しいて言うならリフレッシュかな」
「リフレッシュ?」
「そうそう、一週間の仕事の疲れを癒す的な感じだ」
「ならいっそう、一人より複数人で出かけた方が楽しくない?」
「いやっ、それはほら……面倒だし」
琢磨が言葉に詰まると、由奈は申し訳なさそうな顔をする。
「ご、ごめんなさい。もしかしなくても、一人でドライブなんてしている時点で察していればよかったね」
「ちょっとー?? 何か大きな勘違いしてない君?」
「へ? お友達がいないからじゃないの?」
「ちげぇよ、勝手にボッチ認定するな。計画立てるのが面倒なだけだ」
「えっ? 会社終わりに声掛ければいいだけじゃないの? 『誰か俺とドライブ行こうぜ!』って」
またも、キザな台詞っぽくかっこつけて言う由奈。
でも残念ながら、琢磨はそんな陽キャじゃない。
「そんな気楽に付き合ってくれる社員そうそういねぇよ。それに、会社の奴と一緒にドライブしたら、結局仕事の話になってリフレッシュのクソもねぇ。スーツ着た男たちでドライブなんて、陰気臭いだけだ」
「なら、女性社員さんを誘ってみるとか!」
「そ、それは……」
それが出来ていれば、今頃網香先輩とデートの一つや二つ、簡単にしていることだろう。
琢磨の苦い反応を見て、由奈は何かを察したらしく、くすりと笑った。
「琢磨さんは意外とチェリーさん」
「うるせぇ、ほっとけ」
負け惜しみのように台詞を吐き捨てる琢磨。
由奈は助手席の背もたれにもたれかかり、満足げな息を吐いた。
「にしてもさ、どうして平日の夜なんかにドライブするの? 休日で昼間の方が、景色も良くて友達も誘えて一石二鳥じゃない?」
「バカ、休日のドライブなんて渋滞ばかりで気晴らしになんかならねぇよ。それに、友達なんか呼べば自分の思い通りのところに行けるとは限らないだろ? だから、渋滞のない平日の夜に一人ドライブすることで、思い通りの目的地に時間通り行くことが出来る。それがいいんだよ」
「なるほどー。つまりドライブを自分の思い通りのプランで実行したいと」
「まあ、そういうことだ。別に休日に友達と誘われてどこか行くのも嫌いではないぞ? ただ、気晴らしとかストレス解消したいときはって話だ」
「でもさ、そういうときこそ誰かに寄り添ってもらったりした方が、一人でストレス溜め込むより晴れやかな気分になるんじゃないの?」
「それはまあ、人それぞれだろ」
「琢磨さんは一人で発散できる派ってこと?」
「どうだろうな……」
正直、琢磨自身も未だにわからない。
少なくとも、この一人ドライブがストレス発散の気晴らしの一端になっていることは間違いない。けれども、琢磨はもっといい息抜きの方法を他に知っている。
仕事終わりに同僚と杯を交わす。高校や大学の旧友と地元で飲む。
家で一人ゲームや漫画を読み漁ったり、録画しておいた好きなドラマやアニメを観賞する。
外に野球やサッカーなどスポーツの試合を観戦しに行ったり、好きなアーティストのライブに足を運ぶ。
他にもストレス発散の方法は無限大にあるだろう。
しかし元をたどると、琢磨が一人ドライブを始めた発端は、ストレス解消が目的ではなかったはず。
記憶を辿っても、未だに一人ドライブを始めた理由を思い出せない。
本当は、もっと大切な何かのために始めた気がする。
けれど、琢磨の喉の奥まで出かかっているドライブを始めたきっかけは、上手く言葉にできない。
だから、由奈に言われたことは的を射ている。
一人でストレスを受け流すことが出来ても、心の奥底ではずっと何かが引っ掛かっていて、解消することはなく蟠ったまま身体の中で蠢いているのかもしれない。
適当に由奈にはそれっぽい理由を言ってみたものの、痛いところを突かれてしまった。
しばらく、琢磨は悩むように眉をひそめながら運転していると、ふいに由奈がくすりと笑った。
「ははっ・・・・・・琢磨さんって顔に出やすいタイプなんだね」
「そ、そうか?」
思わず首を捻る琢磨。
由奈は肩をすくめて笑みを浮かべる。
「仕方がないなー。じゃあこれから金曜日は、私がお供してあげます!」
「……はっ?」
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