傘 1

文月 香奈

第1話



この店で私はいつも窓際のカウンター席に座る。

ここからは前の通りが見える。

外は雨。

今日は本降りだ。


店内に流れるBGMは聞かずに

私はスマホのプレイリストを

イヤホンで聴いていた。


そのすべての曲にあなたとの思い出が蘇り

胸を締め付けられるけれど

他の曲を聴く気にはなれなかった


この店を2人で訪れたことはない

オープン前に2人は会わなくなった

開店したら、来ようと約束した

けれど、それは果たされなかった


前の通りをあなたと幾度となく並んで歩いた

こんな雨の日は同じ傘に入って

片方ずつの肩を濡らした


終わりには納得している

もう会うつもりもない


それなのに、私は思い出から抜け出すことを

拒んでいる


ー続くー

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傘 1 文月 香奈 @fumiduki_kana

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