第4話 神は死んだ
「定期点検で来ました。私ユミナと」
「ラドリーです」
発電所入り口の警備員に自分達の名を告げる。
すると男はパソコンに目を通す。
「はい、では人生カードをお願いします」
入国審査同様に二人でカードを渡す。
あの時の審査と違い、カードを軽く機械に通して身元確認が取れたらすぐさま返された。
「確認しました。どうぞ」
すんなりと通され、緊張の糸が途切れる。
頭の中の発電所の見取り図と比べつつ点検する設備へと向かっていく。
「案外、簡単なもんだな。ちょっと拍子抜けだ」
「だってあのアルティスだもの……皆今日起こるアクシデントなんて想像もしていないわ」
そう、絶対安全神話アルティス。入国審査ゲートでは事故があるものの、都市内でアクシデントが起こるはずが無い。
その点では人生カードさえ見せておけば不法入国も簡単だし、こういった工作も実に簡単。
だが、実際は徹底されたゼウスを守るセキュリティが万全であることで誰もそんなことをしようと思って出来ることじゃない。
ユミナ以外の人間には出来ない所業なのだ。
「ここが点検する部屋ね。一通り確認して時間を稼げるようなの見つけといて」
「了解、とりあえず適当にやってみるわ」
そして作戦決行の時が来た。一旦彼女と別れる。
俺はシステムルームに嘘の報告をしに行く。
「すいません、少し不審な箇所を見つけたので来ていただけませんか?」
システムルームには男が二人。
「どうした?」
「いえ、口では説明し辛いのでこちらまで来ていただけますか?」
俺の言葉に二人の男は顔を見合わせる。どちらが行くか迷っているのだ。
それでは困る二人来てもらわないと。
「念のためお二人共来て頂けませんか?」
また二人は顔を見合わせるが2,3言葉を交わすと二人とも来てくれた。
よし、これでシステムルームを無人にすることに成功した。
その後、専門知識なんかあるわけも無く、かなり苦しくはあるが適当な嘘を並べ二人の男を留まらせた。
そろそろ嘘も苦しくなってきた頃、ユミナがこの場に戻ってきた。
俺は無事に時間稼ぎが出来たと言うわけだ。
そのことにほっと胸を撫で下ろし、勘違いでしたの一言で二人を帰した。
やや訝る表情で俺を見ていた男達だが、ユミナが謝ると素直にシステムルームに帰って行った。
「まったく、あいつらデレデレしやがって……」
一人ゴチつつも、時間は20分をきっている。
「早く中央センターに行かないと」
彼女に急かされ、早々に発電所を後にする。
発電所自体はゼウスのある中央センターを中心に半径10㎞程度の電力を賄っている。
ほとんどゼウスのために用意された発電所なのだ。
つまり、中央センターはここから目と鼻の先。
実質10分程度で到着した。すっかり日も落ちている。
「本当に最後のおさらいよ」
発電所前のやり取りのように中央センターの見取り図をノートパソコンに表示させ、説明する彼女。
「わかった?」
一通りの説明を終え、彼女が聞いてくる。
「なぁ、ユミナ……」
「なに?わからないことがあるなら早く言って」
そうじゃないんだ。
「作戦は大丈夫だ。ただ、やっぱり言っておくよ。これが終わって帰ったら……俺と付き合ってくれ! 返事は帰って改めて聞くから」
俺の言葉に一瞬にして顔を真っ赤に染めるユミナ。
「え?ち、ちょっとこんな時に言わなくて」
彼女がしどろもどろになって言葉を紡いでいる最中に突然として辺りが暗くなる。
最終作戦の時間だ。
「行こう、ユミナ!」
「え?あ、うん!」
俺は彼女の手を引いて中央センターのほうへ走る。
動揺していた彼女だが、すぐさま落ち着きを取り戻した。
センター内部に入ると計画の通り、中の人間達はパニックに陥っていた。
もともと外にいた俺達はセンターに入ったときにはもう暗闇に慣れていた。
パニックが起きているとは言え、いつ復旧するかわからない。それまでに事を成さないといけないのだ。ゼウスのある部屋まで走る。
パニックになった人がごった返し、避けるのも一苦労だが頭の中に入れた見取り図通りに進んでいく。
そしてようやくゼウスの管理ルームに行き着いた。だが……
「ここ、電子ロックだぞ! 電気が通ってなかったら開かないんじゃ」
「大丈夫」
彼女の声は酷く落ち着いている。想定の範囲内と言った感じだ。
「主な電力供給が絶たれてもすぐに周りのシステムは自家発電の電源に切り替わるはずだから。少し待っててこの扉は私がハッキングして開けるわ」
ユミナは電子とロックの基盤をはずし自分のノートパソコンと接続し始めた。
そして、ものの10秒もかからず成功させたようだ。ゼウスの、神への扉が開かれる。
「さぁ仕上げの時間よ……」
俺は入国審査の時に持ち込んだ"部品"を組み立て、彼女は嘘の持病で持ち込んだ薬品を調合する。
それらは簡易的な時限爆弾だ。威力は大して無いが、ゼウスを壊すには十二分の威力を秘めている。
何度もシミュレーションした俺にロスは無い、完璧に組み上げた。
そして彼女が調合した爆薬をセットして準備は完了。タイマーが動き出す。
「さぁ急ごうユミナ!」
センターに入ったとき同様に彼女の手を引きその場を離れる。
まだ暗闇で人が騒いでいる。この混乱に乗じてセンターを無事脱出した。
俺達が脱出した数秒後センター内で爆発音。
「神は死んだ……か」
「終わったね」
目的の達成に緊張の糸が一気に切れた俺は倒れそうになる。が、それを支えてくれる彼女。
「ありが……ん!」
今度は彼女の指ではない、正真正銘の唇だ。
柔らかく瑞々しいユミナの唇……緊張が無くなったせいなのか、彼女のキスが心地良かったのか、俺の意識は混濁していき何も考えられなくなっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます