虹野一矢

エール

愛する人のためならなんだって出来る。

決して冗談じゃない。

本気でそう思う。









君に会うと、僕はどうしようもなく幸せになる。どうしようもなく悲しくなる。

それでも君はいつも僕に笑いかける。一人用にしては広すぎる病室のなか、機械に繋がれて動くことが出来ない君は、首だけで外の世界を見ている。


「おはよ」


「おはよう。今日はいつもより3分も早いね」


「バイトが暇だったからさ。パパッと上がれたんだよ」


必死に笑顔を作ってみる。君にはバレていないだろうか。


「へぇ〜。で?今日のお土産は何?」


「アップルパイ。好物だろ?」


「え!?ホントに!?最&高だよ!!」


笑顔で頬張る君。僕が今ここにいることで、君の助けになれているのだろうか。


「ホントに好きだよな、それ」


「あったりまえじゃん!!アップルパイを生み出した神様にマジ感謝!!」


最初に告げられた余命から半年が経った。決して容態が改善しているわけではない。


「そうか、買ってきてよかったよ」


医者によると、今こうしていられることは奇跡としか言いようがないらしい。


「うん!!」







ごめん…、もう、限界なんだ…







え?






「彼」が突然、膝から崩れ落ちた。

何が起こったのだろうか。

「彼」の顔から表情が消えた。

「彼」の呼吸が止まった。


彼と私の時間は終わった。




愛する人のためなら何だってできるんだ。

決して冗談じゃない。

本気でそう思う。


僕は君に生きてほしい。

君には生きてほしい。

僕の病は治らない。

君の病はまだ治る。


僕は君に嘘をついた。 元気だって嘘をついた。

僕は君に隠し事をした。 余命は半年前に尽きていた。


君に生きて欲しかった。

でも、かすかに開くこの目に映る君は泣いている。


あぁ、これが僕の罪か…。

今更、そんな現実突きつけられたって…。



もうどうにもならないよ…。









愛する人のためなら何だってしたかった。

絶対に嘘じゃない。

心からそう思う。


私は一緒に生きたかった。

一緒に生きていたかった。

そのために病を治すと誓った。

2人で笑い合いたいと願った。


私は彼に気づけなかった。 彼の苦しみに気づけなかった。

私は彼を見ていなかった。 自分のことしか見ていなかった。


あぁ、これが私の罪…。

今更そんなこと言われたって…。


もうどうにも…。







「「あぁ、あの日々に戻りたい。2人寄り添って、ただ無邪気に笑っていた日に…。」」

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