第33話 白雪姫と王子 ⑥
「それでは、次は椎名さん! お願いを聞かせてください」
副会長の言葉にシイナは小さく頷いて、二歩、三歩と前に出た。俺はシイナと入れ代わるように手にしていたマイクを渡し、後ろに下がった。
そういえば、シイナが特典を使って、何をお願いするつもりだったのかを聞いていなかった。ミスターコンに出ると言い出した時も、こういうときはいつも一緒だったから、今回も一緒に恥をかいてあげると言っていただけだった。
先にした俺のお願いで、シイナの王子の仮面は外せたはずだ。ということは、シイナの本心からのお願いが聞けるのかもしれない。ただ、それでもシイナのことだから仮面を被ったまま当たり障りのないことを言う可能性は捨てきれない。どっちにしろシイナの自由だし、俺にはとやかく言う資格はないので後ろから見守っているしかない。
「お願いの前に、コンテストで優勝という栄誉を光栄に思っています。これは私一人の力で勝ち取ったものではなく、たくさんの人に応援され、支えられたおかげだと思っています。ありがとうございます」
シイナは王冠が落ちないように手で支えながら軽く一礼をすると、短い拍手が起こった。顔を上げると、シイナはふっと横目で俺のことを見てきた。短い時間だったがそれが何を意味するのか分からないまま、俺はシイナの言葉の続きを待った。
「先ほど白崎君が私のためにお願いをして、それはみなさんに無事聞き届けられました。それは本当に涙が出るくらいに嬉しかったです。だけど、私はみんなの期待に応えて、それで一緒に笑い合える関係ならそれで構わないと思っていました。実は今でもそう思っています」
シイナの言葉に体育館はざわざわとし始める。それもそのはずで、さっきの俺のお願いを正面から否定してるからだ。俺自身も何を言い出すのかと冷や冷やが止まらない。
「今さら、本当の自分を見せなさいと言われて、みんなにはできますか? 誰でも少しくらいは周りに合わせたり、こう見られたいとキャラを作ったりするでしょう? だけど、白崎君のお願いもあるので、今からは私の本心で、私のお願いについて話したいと思います。私は……王子のままでいいと思っています――」
シイナの言葉に体育館中に動揺の色が広がっていく。
「さっき白崎君はお願いを叶えてもらうのに、自分はずっと姫でいいと言っていました。だったら、私はずっと王子でいたい。だって、姫と結ばれるのは王子だから……姫である白崎君の隣に立つ王子の座は誰にも譲りたくない! 本当のことを言えば、私にとっては白崎君こそが王子なんです。困っていたらいつも助けに来てくれて、手を差し伸べてくれる、優しくてかっこいい白馬の王子様」
シイナの言葉はもう告白と同義で、それに気づいた人から次第に驚きと、目の前で起こっていることへの興味から歓声が化学反応のように次々と広がっていく。そして、
「私は白崎君のことが好きです! 大好きですっ!」
シイナの真っ直ぐな言葉で一気に爆発し、体育館が揺れているのではないかと思うほどの歓声が響いた。俺はそんな大歓声も耳に入らないほど、驚きすぎて頭の中が真っ白になっていた。
こんな形で告白されるなんて思っていなかったし、告白するなら俺の方からだろうと勝手に思っていた。それもまだ先の話だと思っていたのに、いきなりすぎて嬉しいはずなのに理解が追い付かないのだ。
どよめきが落ち着いたタイミングで、シイナは俺の前にやってきて片膝をついた。
「私は誰よりもかわいい『白雪姫』も好きだけれど、誰かのために一生懸命になれる白崎行人君が、かっこよくて大好きです。私と付き合ってください」
シイナは改めて告白し直すと、ゆっくりと手を差し出した。衝動で手を伸ばしたくなるのをこらえて、
「お前は俺でいいのか? お前より背が低くて、周りからは姫扱いされるような、そんな男らしくない俺で本当にいいのか?」
そう目の前で俺を見上げるシイナに小声で尋ねた。シイナは俺の質問にふっと笑みをこぼす。
「私はそんな見た目も中身も好きなんだよ。それにシロ君はすごい男らしくて、かっこいいよ」
「ミスターコン優勝のお前に言われても嫌味にしか聞こえないよ」
「さっき私をかわいいってシロ君が言ったとき同じこと思ったよ」
シイナに言い返せない反論をされ、目を見合わせてお互いに笑ってしまう。
「ねえ、シロ君は私のこと嫌い?」
「嫌いなわけ――」
嫌いなわけない、と言いかけたところでシイナの表情が緩み、すぐに場に合わせて凛とした表情に戻る。なんとも忙しくて、面倒くさいやつだ。
「シイナ、俺もお前のことが好きだよ」
そう答えて、差し出された手にそっと自分の手を重ねた。その瞬間、全校生徒の注目を浴びる中、俺とシイナは恋人になった。
一段と大きな拍手と歓声に混じって、「おめでとー!!」という祝福の声も聞こえてくきた。
その歓声のなか、シイナの手を引いて立ち上がらせる。
そして、姫と王子らしく、姫を王子がエスコートして、ステージの一番前で二人で一礼をして、ステージ脇に
こうして、熱狂と共に、北高文化祭は幕を閉じた――。
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