迷いの駅とJKと(もしくは、本好きのサボタージュ)
狐崎灰音
迷いの駅とJKと
今は、ない事だが私は、ある駅でしょっちゅう迷子になっていた。
むしろ、その駅で迷子になることが、私の退屈で大嫌いな学校生活にひと時の癒しをくれていた。
私はいつも、教科書と一緒に小説を通学鞄に入れていた。
周りのおしゃれな女子は、バレない程度の化粧ポーチを入れるのに教科書の隙間の空いたスペースを使っていたが、私の場合化粧を全くしなかったので代わりにいつも本が入っていた。
いつも通学に使う電車の中で私は小説を開く。
その瞬間私の意識は外界と薄いベールによって区切られる。
小説にのめり込めば、のめり込むほど、そのベールは厚く嵩を増し、外界は私に入ってこなくなる。
ポン、と、その日も肩を叩かれた。
見上げると駅員が私に「終点ですよ」と声を掛けてきた。
私は渋々、電車の毛羽だった柔らかい座席から腰を上げ、ペーパバックノベルを片手にその終点駅を放浪する。
向かいたい先の方向は分かるのだが、その駅の構造は田舎の癖に複雑で、何番線にどの方面の電車が来るかランダムだから質が悪い。
取り合えず、私は、ホームから改札前の連絡通路まで行き、電光掲示板を眺める。
「ふむ、見事に別方向の電車ばかりだ」
私は独り言ちた後、時刻表のある方へと向かった。
この駅は広い、田舎の癖に。
いや、田舎だからこそ電車が集中するのか?
「さて、学校の方面に戻る電車は何分後かな?」
56分に望んだ方向の電車が来る。
30分待たねばならないが、私はとっくに学校に遅刻しているし、あまり気にはしなかった。
そうして、私は4番線のホームへと向かう。
ホームに着くと、くたびれたスーツのサラリーマンが携帯を片手にペコペコとお辞儀をしている。
私はそれを尻目に、待合室の固いプラスチックの椅子に座る。
そして文庫本を開くと、薄いベールが落ちてきた。
駅のホームは電車が行きかう。
私は、その意志さえあれば海に近い静かな駅まで行く事も、逆に学校前の駅を通り過ぎて都会に向かうことも出来る。
その、宙ぶらりんな自由が、この駅にはあった。
でも、律義な私は学校に行こうと思って電車を待つ。
駅のホームには静寂と、それを破るアナウンスと発車ベルだけがあった。
サラリーマンもどこかへ行ってしまった。
そうして、ホームの時計が56分を指し示すと、電車が4番ホームに滑り込んできた。
アナウンスが流れ、私は本を閉じて乗客の居ない電車に乗り込む。
そうして、駅がゆっくりと速度を上げて離れていく。
私は再び本を開き、今度は乗り過ごさないようにと心にとめて、ベールを下した。
迷いの駅とJKと(もしくは、本好きのサボタージュ) 狐崎灰音 @haine-fox
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