第14話 教えてしまった事実
ゼクトは私に全部話してくれた。今の時代の人間と魔族、魔王と勇者、そしてゼクトの境遇についても。それから、私はいくつか質問(大半は俺のこと)をしたけど、分かる範囲で答えてくれた。そのあと私は……。
「ゼクト……私は……何て言ったらいいのかな?」
「そうだな、笑ってくれてもいいんだぞ?」
「笑えるわけないでしょ! こんなのあんまりよ!」
許せない! 絶対に許せない!! 16歳のかわいい男の子を期待や失望で絶望させるなんて、こんなひどい話はないわ!!
「才能ばかり重視してゼクトの努力を認めないなんて! 才能が無いから期待しない? 見てやらない? そんな連中はクズだわ!」
「禁忌の力に手を出したのに?」
「魔族の力で魔王の魔法で何が悪いのよ! 人間でそんな力を使えるなんて、むしろすごいわよ!」
「敵対種族の力だぞ? すごいけど人間側から見たら嫌な気にはなるんじゃないか? 魔族だって人間の魔法なんて使いたがらないだろ? それと同じじゃないか?」
「うっ……それは……そうかもしれないけど」
「争って傷つけあった記憶を思い出させる戦いをしたんだ。知らなかったとはいえ、俺のしたことは、人間の誇りを踏みにじるものだったんだ。罵倒されても仕方ないさ。」
「ゼクト……」
ああ、ゼクト……。知らなかったことなのに、自分に非があると思うなんて……可哀そうに。封印から解放してもらったのに、なんて言葉をかければいいか分からないわ。自分の無知が恨めしい。だけど、本当の元凶は、別にいる。それは……。
「それでも……私は許せないわ、ゼクトを追い詰めた人間たちを……そして、エルロウドっていう魔王を!」
「え? エルロウド? 魔王のこと?」
その通り。ガルケイドでも、ましてや父でもない、人間の勇者に倒されたエルロウドとかいう馬鹿な魔王が原因なのだ。私には分かる。
「なんで魔王エルロウドの名がでてくるんだ?」
「その魔王が元凶よ」
「元凶? 魔王エルロウドと俺の境遇が何の関係があるんだよ?」
「気付いてないの?ゼクトは、人間と魔族、両方の魔力がある。だから魔族の魔法が使えるようになったのよ」
「なっ、何だって!?」
「ゼクトが気を失ってる間に、ゼクトの体に回復魔法を使ってたんだけど、その過程で体の方を調べてみた時に分かったの」
「なんで俺の体に魔族の魔力が!?」
「人間の魔力は人より上程度だけど、魔族の魔力の方はかなり強力よ。上級魔族以上の力を感じたわ」
ゼクトは動揺している。この様子だと気付いていなかったんだ。どうして自分が魔族の魔法が使えたのかを……。
「ゼクト、髪を触ってるけど、魔族の魔力があるのは、禁術の代償……呪いじゃないわ」
「えっ? でも髪が……」
「魔族の魔法や禁術を人間が使って、その代償が髪の色が変わる程度で済むはずがない。最悪死ぬ。そもそも、魔族の魔法や禁術を最初に使った時に、体に異常が無い時点でおかしいのよ」
「…………」
さっきまで髪を気にしだしたゼクトが、少し考えこむ。だけどきっと分からないだろう。その力はどこから来たのかを……。
「人間のゼクトが魔族の魔法を使っても髪の変色で済んでるのは、魔族の魔力を生まれつき持っているからなの」
「…………生まれつき?」
「そう。魔王エルロウドの呪いによるものよ。呪われたのはゼクトの両親だけどね」
「魔王の呪い!? 俺の両親!? 」
混乱させてしまった。もう言ってしまおう、何が原因なのか、何者が元凶だったのかを。そうすれば、謎が解けてゼクトはスッキリするはず。それに、元凶を知れば、怒り憎しみといった気力を持てるはずだ。ガルケイドに復讐しようと思った、かつての私のように。
「……頭がこんがらがってきた。俺に分かりやすく説明してくれないか」
「分かったわ。まず、誰よりも強い魔族がいても、更に強い魔族が現れて殺されてしまう。殺される方の魔族は、自分の『血』よりも『力』を後世に残そうとする。それが私の知る時代の魔族の特徴だった」
「……うん」
「その方法は、勝った方の魔族に自分の『力』を渡すことなの」
「勝った方に渡す? どうしてそんなことを? 相手が憎くないのか?」
「当時は『血』よりも『力』が重視される社会だったの。魔族にとって『力』こそが誇りで後世に残すべきもの。たとえ後世に伝えるのが殺した相手でもね。今は分らないけど、もし、魔王エルロウドがその社会に従うような魔族だったら……分かるかな?」
「……自分を殺した勇者を、後世に『力』を伝える相手にするってことか。そして、その手段が呪いをかけることなのか」
「呪いを通じて、勇者からゼクトに『力』が伝わった。最初、それはゼクトの中でずっと眠っていて、人間側は見つけられなかったんだろうけど、ゼクトが言ってた本の影響で覚醒したんでしょうね」
私は全てを話した。私の知る過去の魔族の社会、力を残す風習、呪いの意味を。そして、私が導き出して真実を。私はゼクトのために告げたのだ。
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