10.08.二冠&連覇

 『ミス高天原たかまがはら、ミスター高天原たかまがはらの投票はもう済ませたかー。まだの奴は今すぐ投票所へ向えー』


 なんてアナウンスが流れてきた。高天原たかまがはら祭最終日、いよいよその時がやって来たんだ。

 ミス高天原たかまがはらに選ばれた人がとおると結婚できるだなんて……。そんな事で決められたくない。

 とおるだって……、とおるだってきっと……


 「ううっ」


 水着姿の会長にケーキ食べさせて貰ってデレデレしてるとおるの姿が頭に思い浮かんでくる。


 「もう、とおるの馬鹿(怒)」


 「とおるさんがどうかしたのかい?」


 「いえ、何でも……」


 今年は武神たけがみさんと早めに中庭に来ている。まあ、気にならないわけでもないし?

 会長の姿は……、見えないな。ここに居ないってことはもしかして……。そういえば、蔦原つたはらさんの姿も見えない。


 例年通り、どうでもいい賞から発表されていく。


 「ミスやまいはー、前代未聞の痛い新入生代表挨拶で度肝を抜いた、蔦原つたはら 透子とおるこさんだー。蔦原つたはらさん、どうぞ、前へー」


 「もう、何でなのですか? 先輩と結婚するのは透子とおるこなのです。ミスやまいなんて嫌なのです。そもそも透子とおるこは病なんかじゃ無いのです。せんぱーい、何処に居るのですかー。透子とおること結婚してほしいのですー」


 「相変わらずの痛いコメントをありがとーう! ミスやまい蔦原つたはら 透子とおるこさんでしたー」


 「ちょっと、まだ話は終わって無いのです。先輩――」


 「はいはーい。時間が押してるのでとっとと下がって下さいねー、っと。さて、いよいよミスター高天原たかまがはらの発表だー!」


 蔦原つたはらさんじゃないのか、って事は……


 「昨年までダントツで2連覇していたあの人はもう居ない! 不祥事を起こして強制転校させられたとか。そんな事はさて置き、今年の得票率は何とたったの25%。今の女子率を考えればそれでも健闘したといえるのでしょうか。そして、昨年の99%という得票率が如何に胡散臭かったのか。発表します。本年度のミスター高天原たかまがはらに選ばれたのは、メイド姿で女の子の心を鷲掴みにしていったあの人っ!」


 「「「キャー」」」


 メイド姿って……


 「「姫様~」」


 「「「とおるちゃ~ん」」」


 やっぱり……


 「そう、姫神ひめがみ改め、鳳凰院ほうおういん とおるさんだー! ここで鳳凰院ほうおういんさんから一言いただきたいところですが、諸事情により後ほどという事で」


 会場からはブーイングが沸き起こる。

 諸事情って、何処行ってるのよ、とおる。次はミス高天原たかまがはらの発表なのに……


 「相変わらず人気のようね。私も婚約者として鼻が高いわ」


 「会長っ、何でここに? ミス高天原たかまがはらは?」


 てっきり会長なのかと……

 じゃあ、誰が……


 「さて、最後は我が校の女神、ミス高天原たかまがはらの発表だー」


 会場が歓声に包まれる。いったい誰が……


 「悩殺カフェで男心を鷲掴みにしようとした生徒会長の追従を許さず、2年生を中心に男子生徒が多いこの状況下で圧倒的な支持を獲得した見事な作戦」


 「おかしいわね。そんな名称では無いのだけれど」


 いや、実態はそうでしたから……


 「我が高天原たかまがはら高校始まって以来の快挙」


 快挙?


 「なんと、二冠を達成し」


 二冠、まかさ、蔦原つたはらさんなの?


 「同時に二連覇を達成したのは」


 えっ、二連覇って……


 「鳳凰院ほうおういん とおるさんだー。鳳凰院ほうおういんさん、どうぞ、前へー」


 巫女姿で現れたのは、紛れもなくとおるだった。


 「嘘、何で?」


 「まあ、可愛ければ性別は関係ないってことなんでしょね。良く解るわ」


 でも、だって……、いいの、それで。


 「ぼくもそう思うよ。流石はとおるさんだね」


 ……そうよね、この二人は。


 「では、二冠を達成した鳳凰院ほうおういんさんから一言いただきたいと思いまーす」


 「えーっと、感激で胸がいっぱいです……、じゃなくて、僕、男なんだけど?」


 「問題ありませんっ! 可愛いは正義っ! この後は受賞者によるパレードを予定しているぞー! 昨年握手してもらえなかったそこの野郎ども、今年こそは握手してもらえるといいなー!!」


 何だったんだろう……


 「という事で、決着は持ち越しという事でいいのかしらね」


 とりあえずは……、そうなのかな。……じゃない!


 「こんな事で決められたくありませんから」


 とおるは私と結婚したいって言ってくれたんだから。

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