02.16.蛇、蛇、蛇

 四人は山小屋へと逃げ込んだ。僕を締め出す形でね。まあ、これはこれで都合がいい。いや、良すぎるだろう。


 バックパックからレジ袋を取り出し、結び目を解いてから入り口ドアの隙間に投げ込む。


 「キャー、へ、蛇があああああ」


 「やめろ、こっちくんな」


 四人は奥の方へと逃れたようだ。ドアを押さえてる場合じゃなくなったのか、簡単に入り口が開く。


 「こ、これって、昨日の蛇だったりするのかなあ」


 「姫神ひめがみ、お前の仕業かよ」


 「蛇を入れたのは僕じゃないよねー、猿田さるたさん?」


 「ルッチ」


 「そんな、誰にも見られてなかったはず……、うわああ、こっち来ないで」


 蛇はいい感じに四人を追い込んでくれていた。


 「あの蛇はこいつが食ったはずだ」


 「どうかなあ、信じてるの? 蛇を食べただなんて。そうだといいね。でも、この蛇も同じマムシかもよ、御竿みさおくん?」


 「言われてみればおなじに見える……、うおおお、蛇なんてみんな同じにしか見えねえよ。頼む、何とかしてくれ、お前平気なんだろ」


 「なんとかね~」


 「ひ、姫神ひめがみさん、わ、わた、私は関係無いわよね。あな、貴女には何も」


 バックパックを下ろし、中からレジ袋を取り出す。ん? 何か言った?


 「ほーら、何とかなれ~」


 蛇を追加してあげるよ。これで合計3匹になったかな。本当はもっと捕まえたかったんだけど、居なかったんだよね。


 「ひっ……、ごめん、謝る。謝るからもう許してっ」


 猿田さるたは泣きながらそう訴える。


 「俺は悪くない。全部この女が……、亀島かめしまに命令されてやったことだ」


 御竿みさおは震えた声でそんな事を。

 中木なかぎさんは気絶してるのかな。その方が都合はいいんだけど。

 亀島かめしまは……、動じてないのか硬直してるのか、無言で立ち尽くしている。だから最後の1匹を取り出し、亀島かめしまの顔に投げつける。


 「ぎゃああああああ」


 その場に崩れ落ち、失禁したみたいだった。でも、まだだ。この程度で終わりにしない。


 「猿田さるた 莉花りか、6月3日で12歳。千花ちかは9歳になる」


 「えっ、何で……」


 「御竿みさお 香里かおり、私立高天原たかまがはら高校3年、今年受験かあ」


 昨日はまともに眠れるような所じゃなかったから、スマホから色んなサーバーに侵入した。勿論、契約してるVPSに入り、そこからいくつか踏み台踏んで痕跡も残らないようにしたつもりだけど。

 高校も、自治体も、親の勤め先も。これはそうやって手に入れた情報のほんの一部。


 「姉貴は……、関係無いだろ」


 「関係ない?」


 凜愛姫りあらは?


 「伊織いおりに手を出したくせに?」


 「それは……」


 咬まれたら死んじゃうかもしれなかったのに?


 「亀島かめしま 友哉ゆうや、9月13日で13歳」


 「それが何だって言うんだ。知ったところで何が出来るって……」


 「じゃあ、亀島かめしま 友樹ともき、4月13日で16歳、私立高天原たかまがはら高校1年1組ってのはどう?」


 「友樹ともきってお前……、男だったのかよ」


 「それは法律で禁止されてるだろ」


 「だから?」


 「だからって……、逮捕されるだろ」


 「線引きの問題だよ」


 「何を……」


 「僕は何をされても構わない。慣れてるからね。でもお前らは一線を越えた」


 凜愛姫りあらに……


 「伊織いおりに手を出した。こんな僕に優しく手を差し伸べてくれた……」


 凜愛姫りあらに。


 「だから僕は躊躇しない。法に触れようが、死人が出ようが……」


 凜愛姫りあらに……


 「伊織いおりに危害を加えようとする奴は、採り得るあらゆる手段をもって……」


 あれ……


 「あらゆる手段をもって阻止する。僕がどうなろうとも全力で報復する。これは警告だ。次は……」


 なんか……


 「次はない。伊織いおりに手を出すな」


 凜愛姫りあらの思い出に……


 「もし、手を出したらお前らの家族に同じことを……」


 眩暈が……


 「同じことを……」


 だめだ、立ってられない……


    ……

    ……

    ……

    ……

    ……


 「とおるっ、目を開けて。とおるっ!」


 凜愛姫りあら……


 「とおるっ」


 凜愛姫りあらの声が聞こえた気が……

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