02.17.後始末

 倒れた姫神ひめがみに近づき、持ち物を確認する。今のやり取りを録音でもされてたら厄介だ。それに、意識を取り戻して助けでも求められたら……


 「おい、何してる」


 「こんな女と一緒に居たくないでしょ」


 「何する気だ」


 「外に放り出すのよ」


 「そんなことしたら……」


 「寒い……じゃ済まないかもね。でも好都合なんじゃないの。色々知られたんだし。脅されてんだよ? あーしら」


 姫神ひめがみが気絶したからなのか、蛇もどこかに消えたようだ。

 どこで調べたのか、こいつはあーしの過去をばらした。それどころか、家族の、友哉ゆうやの事まで調べだしてきた。


    『お前らの家族に同じことを』


 脅しのつもりなんだろうけど、こいつが居なくなれば……

 友哉ゆうやに手を出すつもりならあーしだって……


 「ドア開けて」


 「……」


 「早く」


 渋々ドアを開ける御竿みさお。ほんと使えない。


 「ねえ、止めようよ。もし死んじゃったら……」


 ルッチもビビってる。でも、もうこうするしかない。こいつが居なくなれば何の問題もなくなる。


 「いい、こいつは小屋に蛇を放って逃げてった。その後どうなったのか、あーしらは知らない」


 「……」


 「御竿みさお、手伝って。引きずってくわけにはいかないでしょ」


 「あ、ああ」


 「ま、待って、一人にしないで」


 「ルッチは先に見てきて。誰か来てるとまずいから」


 「えっ、一人で? あーしたちもすぐ行くから、急いで」


 「う、うん」


 御竿みさおに手伝わせて逃げてきた方角、吊り橋へと続く道を引き返し、小屋から少し離れたところに姫神ひめがみを置き去りにする。幸い雨も強くなってきたみたいだし、レインコートはボロボロ、あっという間に体温を奪い去ってくれるだろう。


 「小屋に戻るよ」


 「ほんとに置いてくの?」


 ルッチの言葉には耳を貸さず急いで小屋へと戻る。誰かに見られる前に。

 小屋に戻ってからルッチはずっと震えてる。単に寒いからって訳でもないんだろうけど。

 御竿みさおはさっきからあーしの事を睨んだままだ。


 「なに」


 「なあ、さっきの姫神ひめがみの話、本当なのか?」


 「だったら? 気持ち良かったんでしょ、だったらそれでいいじゃない」


 「そういう問題じゃ……ねえだろう」


 「何か違ってた? 普通の女の子と。胸だって、ここだって、何も変わらないでしょ?」


 「それは……」


 何、その表情。


 「まさか初めてだったの?」


 「……」


 「うける。そっかぁ、それじゃわかんないよね。そうだ、ルッチとヤッてみれば、今ここで。そしたら分かるから。震えてるみただからさ、温めてあげなよ」


 「何言ってる、こんな時に」


 「そうだよ、やだよ私……」


 「私が好きでヤらせてたとでも思うの?」


 「それは……、でも、今御竿みさおとしたって何の意味もないから……」


 「まっ、確かにそうだね」


 こんな奴とね……


 「ねえ、これからどうするの」


 「さっきも言った通り、姫神ひめがみはあーしらに蛇をけしかけて逃げてった。あーしらは雨が止むか誰かが来るまでここを動かない。姫神ひめがみがどうなったかは誰も知らない。これなら中木なかぎの記憶とも齟齬は生じない。ルッチ、中木なかぎを起こして」


 「うん……。中木なかぎさん」


 ルッチに揺り起こされて、中木なかぎが意識を取り戻す。


 「いやっ、蛇がっ」


 「安心しなって。蛇ならどっかに消えたよ。姫神ひめがみもね」


 「姫神ひめがみさんも……、姫神ひめがみさんは何処に?」


 「さあね。蛇を投げつけた後、外に出てったきりだけど」


 「そう、あの人、私に何の恨みがあってこんな事……、許せない」


 あんたへの嫌がらせは全部あーしがやってた事なんだけどさ。でもまあ、あんたも姫神ひめがみの事避けてたじゃん。恨みの一つぐらい買っててもおかしくないんじゃないの?

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