01.03.義兄妹

 とおるが男の子だって知った時は正直驚いた。だって、いきなり男の子とディズニーデートだなんて。


 「手、繋ごうか。逸れたら困るでしょ?」


 「うん」


 これはあれよ……、だって逸れたらどうしていいかわからないもん。とおるは初めてみたいだし、私だって一人じゃ心細いもん。だから、絶対に逸れるわけにはいかないんだから。確かに好みのタイプだけど……


 とおるの手は冷たくて、少ししっとりしてて……多分緊張してるのよね。私も緊張してる。はっ、どうしよう、手汗かいてないかなあ。手、拭いてからにすれば良かったかな。それより、何か話さなきゃ。黙ってると余計緊張してきちゃうよ。


 「き、綺麗な手ね、とおるは。女の子みたい」


 うう、よりにもよって女の子みたいだなんて……。私のバカ、とおる、気にしてないかな……


 「凜愛姫りあらだって」


 「私は女の子だもん……。緊張、するね」


 「うん。緊張でお腹いたくなりそう」


 「もう」


 大丈夫、かな。

 とおるの手を少しきつめに握る。そしたらとおるも握り返してくれて、ガチガチのまま初めてのディズニーデートが始まったんだけど、帰る頃には自然と手が繋げるようになっていた。そうすることが当然かのように。

 でも、この花火が終わったらとおるとのデートは終わり。当たり前だけど、別々の家に帰らないといけない。また会いたいな。こうしてとおると。


 「次は……」


 「ん? 次? 次は……年末のパーティーかな?」


 「そう……だね」


 意外と気が合うのかもね、私達。

 学校の男子達みたいにガツガツ来ない、というか、寧ろ私が何とかしないと何も進まない。頼りないと言えばそれだけなんだけど、逆に言えば、私の思い通りにできるわけじゃない。

 それに、肝心な時には頑張ってくれるのよね。変な三人組にナンパされた時なんか、『僕の彼女だから。手、ださないで』だなんて。まあ、三人組はとおるが男の子だって事に驚いてたみたいだけどね。

 うん、とおるとだったら付き合ってもいいかな。とおるが告ってくる……なんてないかもだけど……、ん?


    『次は……』

    『ん? 次? 次は……年末のパーティーかな?』

    『そう……だね』


 今思い返せば、あれって次のデートの誘いだったんじゃ……

 とおるの事だから、きっと凄く勇気がいる一言だったんだと思う。なのに私ったら……

 何が年末のパーティーよ。半年近くも先じゃない。おまけに連絡先の交換するの忘れちゃったし。もう、何やってるのよ、私ったら。


 「どうしたの、凜愛姫りあら。顔が面白いことになってるわよ?」


 「う、うるさい。何でもないから」


 今頃気づいた所で既に帰りの電車の中。とおるはバスで帰ったから会えるのは本当に半年先だよ。お母さんに頼めばとおると連絡取れるかもしれない。でも、そんなことしたら暫くネタにされるんだろうな。間違いない。この人はそういう人だもん。だから、それだけは絶対できない。


 そこからカレンダーに印を付けて残り日数をカウントダウンする日々が始まった。

 今何してるんだろう。彼女出来ちゃったりしてないよね。あっ、彼氏の話はしたけど、彼女の話はしてないかも。彼女いないよね、とおる……。 そういえば、高校どうするんだろう。同じ高校に行けたらいいのにな。なーんて、日々悶々としながら。


 そして、漸く待ちに待ったその日がやってきた。会社主催の年末パーティー。とおると出会ったあのパーティーだ。


 「あら、今年は仮装しないの?」


 「しないわよ。誰もしてなかったじゃない」


 「一人居たような気もするけど」


 「あれはバルーンアートのおじさん」


 「そうだっけ」


 ピエロと一緒にしないでよ……

 とにかく、今年は仮装はなし。久しぶりにとおるに会えるんだから、思いっきりおしゃれしていかなくっちゃ。


 「そうだ、今日は紹介したい人が居るから最初だけでもお母さんと一緒に居てね」


 「紹介? まあ、いいけど最初だけね」


 パーティーは2時間しかないんだから。その間に連絡先の交換して、次のデートの約束して……、その前に彼女いないか確認しないとか。とにかく、今日、私は忙しいんだから。


 会場に着いて、お母さんが向かったのは何故かとおるの所。隣にはとおるのお父さんもいるんだけど……、もしかして、これって……、運命? 私ととおるは許嫁だったとか? うそ、やだ、どうしよう♪


 「紹介するわ。姫神ひめがみ たけしさん。貴女の新しいお父さんになる人よ」


 「凜愛姫りあらです。よ、宜しくお願いします」


 とおるのお父さんが私のお父さん……、それってやっぱりそういう事♪ ん? 新しい?


 「宜しくね、凜愛姫りあらちゃん」


 「私達、結婚することにしたの」


 ああ、そっちかあー。そうだよねー、許嫁なんていう家柄でもないし当たり前かー。


 「凜愛姫りあらちゃんは8月生まれってことだから、とおるが兄って事になるのか。この通り頼りがいのない奴だけど、宜しくね」


 「兄?」


 「だってそうだろう。とおるは7月居まれなんだから」


 「姉、じゃなくて兄なの?」


 うん、うん、解るよお母さん、その気持。


 「いや、とおるは男だし」


 「聞いてないわよ、そんなこと。それより~」


 お母さんのこの顔、何か嫌な予感が……


 「凜愛姫りあら、貴女知っててとおるちゃんと?」


 「え? 何のこと?」


 「とぼけないでよ。去年のディズニーよ。二人でデートしたんでしょ?」


 「それは……私も知らなかったんだもん、当日まで」


 「ふ~ん♪」


 でも、そっかー、とおると義理の兄妹になるんだ~。ずっと一緒に居られるんだ~


 「宜しくね、凜愛姫りあら


 「うん、宜しくねっ、おに……じゃなくて、とおる


 絶対に妹だなんて意識させないんだから。

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