義妹が、俺の運命の人らしいんだが。〜いやいや、俺が義妹なんかと結婚するわけないだろ?(笑)~

香珠樹

第一章 義妹が、俺の運命の人らしいんだが???

信じてくれ、俺は無罪なんだ!

 ほのかに感じる、熱と呼ぶには少し足らないような温もり。


 一定のリズムで、ほんのりとした温かさを乗せた風が俺の髪の毛を撫でている。


 眠りから覚めるときの何とも言えない心地よさを感じながら、俺は瞼を開いた。


 開いた目に映るは、俺と向き合うように寝転がりあどけない表情で目を閉じている茶髪の美少女。先程から感じていた温もりや風は、彼女の体温と吐息だったみたいだ。


 少女は未だ呼吸のリズムとともにかすかに体が上下しており、寝ていることが察せられる。


 ……かわいい。


 小ぶりな唇に、シミ一つない白く透き通るような肌。ベッドの上に大きく広がった少し薄い茶色い髪の毛も、朝日に照らされて美しく輝いている。


 まさに、人とは思えない美貌だ。たとえるならば、天使だろうか? それほどまでに、彼女はかわいい。


 こんな美少女と二人っきり。部屋の内装から推測するに、現状は俺の部屋にあるベッドの上でともに寝ているようだ……


 ――って、それどころじゃねぇ!


 なんだよこの状況っ!

 誤解しか生まれないわッ!


 俺は布団を蹴るようにして跳ね除けて、飛び起きる……が。


「っ! なんだよこの糸」


 俺の左手の小指には、赤い糸が丁寧に蝶々結びされていた。


 裁縫用の糸並みの細さのこの糸は、俺の小指の根元にある結び目から下へ下へと延びており、どこか別の場所に繋がっているようだ。そして、どこに繋がっているかというと――まあ、ここまでくると想像は付くだろう。先程まで俺の隣で寝ていた少女の小指だ。


 ……改めて、何この状況。全く身に覚えがない。


 昨晩のことを思い出そうとしても、靄がかかったようではっきりわからない。酒飲んで記憶失った感じと似てるな。酒飲んだことすらないけど。

 多分、いつも通り飯食ってスマホいじって風呂入って……ってして、普通に寝たはずなんだけどな。


 するとその時、少女が身じろぎをしながら、ゆっくりと目を開けた。


「…………」


 少女は目を開けると、これまたゆっくりとした動きでキョロキョロと周りを見渡して――俺と目が合った瞬間、硬直した。


「……兄貴?」


 即座に目つきを悪くして睨んできた少女。


 そう――これは、俺の妹だ。


 一応先んじて言っておく。断じて俺はシスコンなどではない。さっき可愛いとか思ったのは、まだ脳が覚醒してなかったからだ。もちろん、妹の方もブラコンであるといったことは断じてない。


 どうして断言できるかというとだな……


「キモ」


 これですよ。この、液体窒素もびっくりの冷ややかな視線。それと合わせて妹のセリフ、声に含まれた軽蔑の感情でさえもが俺に「嫌い」と主張してくるんですよ。こんなの、誰だって嫌われてるとわかるだろ。ましてや、好かれているわけがない。これで好かれていると思ったやつは目が節穴か生粋のドMかの二択だ。


 もちろん俺はそのどちらにも当てはまっていない為に、嫌われてると自覚してる。……まあ、この年頃の女子で「お兄ちゃん大好き!」は流石に無いしな。


 妹――高木唯音たかぎゆのは高一。高二である俺の一個下な訳であって、一年前の自分のクラスを思い出してもブラコンは居なかった、はず。メイビー。逆に兄のことを嫌ってる奴はわんさか居たけどな。


 つーことで、俺の妹は俺のことを嫌っている。


 そんな兄と、目が覚めたら二人っきりで同じ布団の上で寝ていたという事実。……うん、軽蔑されても何も言えんわ。


「……ねえ、何黙ってるわけ? さっさと説明して頂戴」

「あ、はい……って俺も知らんのだが」

「ハァ? 意味わかんない。兄貴がやったんでしょ」

「違う。目が覚めたらこうなってた。俺は無罪を主張する」

「じゃあ、兄貴以外に誰かこんなことする人が居るとでも?」

「だから……」

「もういい。で、あたしになんかした?」


 俺の発言を理不尽なまでにバッサリと切り捨て、更なる質問を投げかける我が妹、唯音。相変わらず刺々しいこった。……ま、この状況じゃあ仕方ないか。改めて考えれば、一番怪しいのは俺。向こうはこっちを途轍もなく嫌ってるわけで、わざわざ兄の布団に潜り込んで添い寝する理由がない。


 そんでもって俺も記憶がないわけだから、もうこれどうしようもないだろ。


 俺、高木駿朔たかぎしゅんさく、十七歳。今朝妹を自らのベッドに連れ込んだとして有罪判決が下されました、みたいな? この場合どれくらいの刑罰なんだろ。無期懲役とか? 取り敢えず我が妹様に殴られるのは想像できた。


 ……おっと、妹様の怒りゲージがカンストしてプルプル震えそうだ。冗談を考えるのもこれくらいにして、早く返答しよう。……最後のが、冗談で済めばいいなぁ。


「俺の記憶が正しければ、何もしてない」

「はっきり言いなさいよ」

「知るか。昨晩の記憶無いんだし」

「兄貴も……って、そんなわけないでしょ。嘘つかないで」

「理不尽だ……」


 ……まあ、確かに俺がやったというのが最有力候補なんだよな、残念ながら。キビシイ現実だよ。


 つか、今「兄貴も」って言ったよな。ということは、二人して昨日の記憶が無いってことになるのか。俺の方は信じられてないけど。


 非情な現実に心の中で涙を流し始める俺に更なる追撃をしようと唯音が口を開き始めた瞬間――





『おっ、二人とも起きたようじゃな』




 ――不意に、頭の中に響くような声が聞こえてきた。






 ――そして、俺達の関係はここから変わり始めたんだ。










☆あとがき

お久しぶりです、香珠樹です。

新連載始めました。少しでも面白いと思っていただけたら幸いです。

書き溜めも20話以上あるので、しばらくは毎日18時投稿していくと思います。

良ければ☆、感想等、お願いしますっ!

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