原初の暴力
はよほ
第1話 黒鬼、皇我 大和
暗雲が天幕となって覆い尽くす。街は高層ビルが所狭しと集い、眼下にはギラつくネオンが道行く者たちを照らす摩天楼と化している。人間に混じってゴブリンやエルフ、幽霊に悪魔と多種多様な種族がさも当然とばかりに歩いている。普通の人間ならば絶対に首を傾げるのだが、生憎とそんな人間は居ない。寧ろ真逆だ。これこそが当たり前で常識と、平然とした顔で生活をしていた。
街の外れにはスラムが広がっており、暴徒や犯罪集団が勝手に拠点を構えては抗争が勃発していた。銃弾に機械弓、火炎魔法や小型レールガンが火花を散らし半ば派手なお祭り騒ぎ状態だ。空では竜や怪鳥が飛び交い、火球や火炎ブレスを吐き散らす空中戦が繰り広げられ、流れ弾で暴徒どもが吹き飛んでいる。とてもではないが生き残れる気がしない。
此処は獄魔。無法無秩序でありながら、裏の強者たちによって保たれる混沌の都市。強姦や殺傷沙汰は言うに及ばず、麻薬や犯罪が普通に許され常識となった塵芥屑たちの吐き溜め。違法な医療行為や人体改造に加え、生命倫理に反する死者蘇生までもが横行している。もしも表の人間が来てしまえば、あっという間に取り殺され弄ばれるだろう。
そんな地獄に、一人の人間が近付いていた。
銃声がやみ暴徒や龍の動きが止まる。皆が一様に、スラムの外に広がる墨汁の如き黒い海へと視線を向けた。黒海と呼ばれるその大海は、魔的な要素が絡み合い黒一色に染まっている。海中には全長が数百メートルにも及ぶ魔魚や海竜が住み着き、獲物を探し求め回遊する死の海と化している。
身長が二メートルを優に超え、黒の着物に腰まで下ろした黒髪を靡かせる。黄金の瞳は鋭く視界に映る万物総てを竦ませ、その威圧感は質量すら伴う。胸元から腹筋の半分までは晒されており、引き締まった大胸筋と腹筋がその強さを雄弁に物語っている。
怪物が犇めき合う死の黒海より、万物蹂躙する黒鬼が来襲した。半径十キロの距離ですら肌で感じ取れるほどの莫大な覇気。如何に裏の住人と言えども彼の覇気は暴力的過ぎるのか、暴徒が軒並み倒れ失神し、飛翔していた竜や怪鳥ですら全速力で飛び退く。
陸に上がる男は周囲を軽く一瞥。歩き出し失神した暴徒たちを適当に邪魔だと蹴り飛ばしながら、悠然と都市へ向かっていく。背後を見れば退かされ無様を晒す暴徒の他、海面には死んだ海竜の死体が綺麗にぷかぷかと浮かんでいた。目立った外傷は一切無く、単純にショック死だろう。
彼こそが此度の主人公にして最凶最悪の悪辣者。
名を――
欲望の権化にして人類最初の超越者。世界中から妬み忌み嫌われ、裏の住人たちからは「闇の皇子」「
これより始まる物語。
彼とその周りの行く末は、誰にも分らない―――。
原初の暴力 はよほ @kuromiya_yorito
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