第18話 レベル20
通知のテロップが消えた直後。
寝転んだまま驚いている俺と炎狼の上に、淡い光の粒がキラキラと降り注いだ。それは肌に触れると一瞬だけ強く輝いて、身体の中へ吸い込まれるように消えていく。
俺は急いで起き上がり、自分のステータス画面を確認してみた。
称号のタブを開いてみると、そこに[チュテの祝福]が増えている。称号の説明そのものは比較的あっさりしていて、【リラン平原の亡霊、チュテを救った者に与えられる称号】となっているが、吹き出しになった説明文の右上がまたもや[ここをめくってくれ]と言わんばかりの目印を浮かべている。
俺は炎狼がステータスを確認している間に、吹き出しの表面をペロリと剥がしてみた。
【リラン平原の亡霊、チュテを正しく救ったものに与えられる称号。称号効果:幼きものの守護者。七歳以下のNPCが護衛対象に含まれる場合、全ステータスに+20%の効果を得ることが出来ます】
わ、めっちゃ優秀。
今は恩恵が少なくとも、今後レベルが上がっていくと、かなり強力なバフになるんじゃないか。まぁ、護衛対象が子供ってところがちょっとニッチだが。
俺と炎狼は体力の回復を待ってからホルダに帰り、そのまま冒険者ギルドに直行することにした。今回のフォルフォ退治は駆除クエストだったので、モンスターの骸を全部素材として持って帰って来ている訳ではなく、くるりと丸まった長いストロー状の口の部分だけを討伐証明として集めてきている。
その他のドロップ品は[蝶々の鱗粉]と[花の蜜]と[産卵前の卵:フォルフォ]がそれぞれ10個ずつほど。どれもレアドロップ品では無いが、色々とクラフトの素材に使われたりするらしいので、炎狼と半分ずつ分けた。
街に戻った俺達が冒険者ギルドの入り口を潜ると、ロビーは昼間より少し閑散としていた。プレイヤー達はともかく、リーエンの住人達は眠っている時間帯だからだろう。受付にも昼間に見かけた受付嬢ではなく、人当たりの良さそうな青年が座って、冒険者達に対応してくれている。
「すみません、依頼達成の報告をしたいのですが」
「はい、どうぞ」
比較的空いていたおかげで、俺達の順番もすぐに回って来た。討伐証明のフォルフォの口と冒険者証をカウンターに置くと、制服姿の青年はにっこりと笑ってくれる。
「頑張りましたね。依頼達成度は……180%。ちょっと狩りすぎましたか?」
「つい、うっかり」
「あまり無理をなさらないように。それでは冒険者証をお預かり致します」
俺と炎狼の冒険者証が、再び石板の上に置かれる。依頼を受けた時は緑色の光が出ていたが、今度は青色の光が漏れた。どうやらこれで、依頼達成の手続きが終了したらしい。
同時に俺と炎狼の頭上で、またもや鳴り響くファンファーレ。
「わっ」
「おぉ!?」
びくっと肩を竦める俺と炎狼に降り注ぐ、ラメ入りの紙吹雪。これ、なんだか毎度のことながら、結構恥ずかしいのだが?
【基礎レベルが20に到達致しました。全てのプレイヤーが生まれつきに持っている職業、[ネイチャー]の取得が可能です。[ネイチャー]の取得は自室の中でのみ可能となっています。安全にログアウト出来る場所に移動しましょう】
ついに、来たか。
当然同じテロップが浮かんでいるだろう炎狼と顔を見合わせ、俺達は、互いに頷き合う。
友人と言えども、
予めそう話し合っていた俺と炎狼は[ネイチャー]取得に備え、一旦パーティを解散させた。
「また、一緒に狩りをしよう」
「もちろんだ。シオンで行動する時は、連絡する」
「あぁ、俺もだ!」
ハヌ棟の前で炎狼と別れ、俺は5階の角部屋にある自室に戻る。
コンソールパネルには【ネイチャーを取得しましょう】のクエスト指示が、点滅を続けていた。リーエンの世界の中でも、重要なシステムの一つだからだろう。
さて、俺の[ネイチャー]は、何だろうな。新たな戦闘職か、あるいは生産職か。興奮気味の心を押さえ、俺はそっと、クエスト開始の[Yes]に触れる。
足元の床に幾何学模様の魔法陣が描かれ、その中から、何かが生まれてこようとしているのが判る。それは宙に浮かぶと緩やかな円を描きつつ、魔法陣の中心に立つ俺の中に吸い込まれていった。チュテの祝福を受けた時と同様に、違和感は無いが、不思議な感覚。
手を握ったり閉じたりしている俺の前に、いつものテロップが浮かぶ。
【プレイヤー[シオン]様が[ネイチャー]を取得されました。あなたの[ネイチャー]は、[宿屋]です】
……宿屋?
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