仮面は二枚被れ(書籍化『クエスト:プレイヤーを大虐殺してください』VRMMOの運営から俺が特別に依頼されたこと)
百瀬十河
第1話 リーエン=オンライン
リーエン=オンライン。
コントローラーではなく、生体ポッド接続で感覚共有したアバターを動かしプレイして行く、新作のVRMMO。
フェスで公開された短いトレーラームービーから垣間見える美麗で緻密なグラフィックと戦闘システム、同時に発表された壮大な世界観とシナリオは、VRMMOファンの興味を充分に刺激するものだった。
俺のように、事前登録の開始日を指折り数えて過ごしたゲーマーも多いのではないだろうか。
更にその登録要件が明らかになると、俺達の期待は否応なしに高まった。
リーエン=オンラインのアカウントの登録には、成人を証明する生体認証の提出及び、簡易精神鑑定の結果と健康証明書の添付までもが必要だったからだ。プレイヤーが成人のみと限定されるからには、リーエン=オンラインには多少アウトな部分も含め、大人向けのコンテンツも色々と詰まっていると見て間違いない。
びっしりと細かい項目が並んでいた事前アンケートも含め、全ての登録申請を早々に終わらせた俺は、後は運営側からの承認是非を待つだけ……の筈だった。
「……なんで呼び出されてんの、俺」
高層ビルの窓を見上げ、俺は独り呟く。
数日前のこと。リーエン=オンラインの運営会社からメールが届き、遂にアカウント登録のお知らせかとワクワクしながら目を通したメールの文面には、予想外の内容が記されていた。
枝葉を折って説明すれば、「お願いしたいことがあるので、一度本社に来ていただけませんか?」と言う内容のもの。しかも地方民の俺に対して、上京に懸かる交通費やホテルの滞在費まで出してくれると言う親切さ。
ころっとその話に乗ってしまった俺は、溜まりまくっていた有給を利用して予定を組み、リーエン=オンラインの本社があるビルの前にやってきていた。
よく考えたら、結構勢いで来てしまった。しかし成人から幾数年過ぎていても、俺が田舎者であることに変わりはないのだ。見上げるようなビルの高さに、多少なりとも気後れしてしまう。
「……本当に用事があるのかな。騙されてたら、結構恥ずかしいよな」
それでも、ここまで来てしまったのだ。
俺は意を決してフロントの受付嬢に声をかけ、自分の名前と、予め聞いていた担当者の名前を告げた。
幸い俺が密かに危惧していたような事態にはならず、すぐに案内された部屋は小さな会議室のような場所で、そこには、穏やかな笑顔を浮かべたスーツ姿の中年男性が俺を待っていた。
「遠路遥々、良くおいで下さいました。私、『
「ど、どうも……って、え……『黒主』……?」
「はい。まずは順を追って説明致しますね」
中村さんは俺をローテーブルの前に置かれたソファに座らせると、資料とスライドを使ってリーエン=オンラインのゲームシステムについて簡単な説明をしてくれた。
リーエン=オンラインは、中世の世界観と機械文明の融合がコンセプトになったVRMMOだ。プレイヤーは自分で作り込んだアバターを操作し、リーエンと呼ばれている広大な世界の中に送り込まれる。
リーエンには五つの国家があり、中央に『セントロ』、北に『ノスフェル』、東に『イーシェナ』、南に『サウザラ』、西に『ウェブハ』と、実に判りやすいネーミングの国家が配置されている。ダンジョンやノートリアスモンスターが出現するポイントも各地に多数準備されていているが、プレイヤー達は全て最初は『無垢なる旅人』として、セントロの首都ホルダから冒険を始めることになるらしい。
「この世界には属性があり、それは五色で表現されます」
光を司る、白。
闇を司る、黒。
炎を司る、赤。
草を司る、緑。
水を司る、青。
「成長するにつれ、プレイヤーは自分の職業に適した属性を知り、更に応用して行くことになるでしょう。リーエンでは、属性を身に付けることを
「成る程……」
「あなた様にお願いしたいのは、『闇』属性の
闇属性の盟主は、その名が示す通り、闇属性の頂点に立つ存在だ。常設クエストに関わることはないが、イベントクエストにおいては、運営の手伝いを兼ねて借り出されることもある。その上、通常よりもかなり偏った属性で冒険を続けなくてはならない。
「リスクもありますが、リターンも大きい。その役目をNPCではなく、敢えて一般プレイヤーの手に委ねるのは、リーエン=オンライン特有の
「あぁ……あれは、面白そうですよね」
トレーラームービーでも紹介されていたマスクシステム。
リーエン=オンラインのようなVRMMOには、様々な職業が存在する。戦士や魔法使い、ヒーラーや格闘家と言った戦闘向けのものから、鍛治師や錬金術師と言った生産向けの職業。色々と職種を切り替えて試しながら、自分にあった職業を模索してみるのも、VRMMOの醍醐味の一つだろう。
しかしリーエン=オンラインでは、自分で選び育てて行く職業の他にもう一つ、運営側からランダムで与えられる生まれつきの職業がある。それは変更することが不可能で、しかも他のプレイヤーに『正体を知られてはならない』。その為の配慮も、幾つか準備されている。
正体を隠す理由はメインシナリオを進めて行くうちに明らかになって行くそうなのだが、サブキャラクターを持つことが不可能な、メインプレイヤーのみで冒険するリーエン=オンラインでは、このシステムは、不確定要素の一つとして面白みを与えてくれそうだ。
「生まれつきの職業は【ネイチャー】と呼称されます。一般のプレイヤーには、ネイチャーは一つのみ与えられますが、運営陣で選び出した
「隠し職業を、二つ持てるってことですか」
「そうです。盟主の五人には、ある共通の目標が与えられます。それを達成する為の、特別な配慮となります」
「五人……各属性に、一人ずつ?」
「えぇ。盟主候補の皆さん同士の接触を避ける為に、今回はそれぞれ別の日に本社においで頂きました。当然、リーエンの中では出会うこともあるでしょう。その正体を知ることが適えば、目標達成の為に、互いに協力しても構いません」
「……その目標っていうのは、教えてもらえるんですか?」
俺の問いかけに微笑んだ中村さんは、柔和な笑顔を浮かべたまま、驚くべき【目標】を口にした。
「大虐殺をして頂けませんか?」
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