Fragment d'amour ~勝ち気なアテナ異世界異聞録~2
七海 玲也
第一章 港町グラード
第1話 プロローグ 1 神秘力備わりし神具
様々な書物に囲まれている小さな部屋で仁王立ちしているあたしの前では整った顔立ちの青年が困惑の表情を浮かべ、幼い容姿の少女があたしを睨みつけている。
「悪いけどね、あたしはあんたの彼氏なんて取るつもりないんだからね。
それに、呼び出したのはあんた達なんだから」
「彼氏なんかじゃないわよ。
ただ、色目を使う女が気にいらないだけよ」
「あたしのどこが色目を――」
「まぁまぁまぁ、二人とも落ち着けって。
オレ達は知恵を借りに来ただけで喧嘩をしたいわけじゃないし、得るものを得たらさっさと帰るつもりだ。そうだろ、
とある事情から霊体になったあたしは、魔導書に
そして、そのアスナと呼ばれた少女が青年を見上げ両手を少し広げると、仕方ないと言わんばかりに軽く目を閉じ眉を上げた。
「
さっ、お宝はどこにあるのかしら?」
「お宝? お宝って何よ。ここにはそんなモノはないわ」
「それは分かってるわよ。その在りかを教えてって言ってんの。
私達が求めている『魔力を絶ち切る力』ってやつのね」
アスナが言う『力』と呼ばれるお宝ならこんなところに来なくても沢山あるだろうと思考を廻らせていると、ルキと呼ばれた青年が近くのソファに腰を下ろした。
「オレ達には助けたい人がいる。その為にある国でずっと『力』を探していたのだが、手詰まりになってしまった。
そこで世界に出ることにしたんだが、どうにも強大な魔力を打ち破ることが出来そうな物がなかった。
それでだ、叡智の書庫と言われるこの場所を聞き訪れたって訳さ」
「なるほどね。理由は分かったけど、
でも、そんなのが無かったワケじゃないのよね?」
「その通りさ。幾つか見つけることは出来た。
しかし、吸収し相殺する器では耐えきれないことが分かり、生半可なことではどうすることも出来ないんだ」
「つまり、えーっと。魔力を根こそぎぶち破るような物じゃなければ意味がないってことなのね?
その助けたい人ってどんな状態にあるの?」
そこまで理解するとあたしの知り得る物がある程度限定されてくる。神秘力の備わる物に破壊的な物は少なく、腕輪や首輪など保護する役目が多かったから。
「簡単に言うと魔力の結晶に包まれている状態だ」
「そう。膨大な魔力の結晶ってワケね。
だとすると、思い当たる節はあるわ」
「それはどんな物だ!?」
あたしの応えに少しばかり食い気味かつ声を張ったルキに驚いたが、大分状況が読めてきた。
「助けたい人ってのはホントなの? 単にお宝目当てで来たとか、そういった類いな――」
「そんなんじゃないっ! 私達だけじゃどうにもならなくて、何年も何年も探して来たのよ。
それをっ!! 貴女にそれを軽視される覚えはないのよ!!」
「あなたじゃないわよ、アテナ! あたしはアテナ。
別に軽くなんか見てないわ。ただ、その話が本当かどうかを見極めたかっただけよ。
聞かれたからってすぐ答えを出して悪用されたんじゃ、たまったもんじゃないからね」
「落ち着け、アスナ。アテナの言う通りだ。
それに、その答えだと彼女自身も正しい心を持っているってことだろ。オレ達にとっても安心出来る材料さ。
……助けたい人ってのは、オレの姉さんだ。たった一人の肉親である姉さんを魔力の渦から解放させたい。
それだけの為に今まで旅をしてきた」
アスナを落ち着かせるように、それは自身にも言い聞かせるように、ゆっくりと丁寧にルキは話す。
「そう……肉親、ね。愛してるのね、お姉さんのこと。
……良いわっ! 教えてあげる。
全ての魔力を絶ち切る神具、
「やはりあったんだな、そんな物が」
「で!? それはどこにある?」
「まぁまぁ、これから順を追って話してあげるから待ってなさい」
「えっ? 話す? 場所よ、場所!」
急かすアスナにあたしはにんまりと笑みを浮かべた。
「場所は話を聞いたら分かるわよ?
聞かないなら分からないし、どうするかはあんた達次第ってとこね」
二人は輝かせた瞳を曇らせ、お互いの顔を見つめ合い眉間にしわを寄せていた。
「その話ってのは本当の話、真実でいいんだよな? 噂や想像の類いじゃないんだよな?」
「当たり前でしょ。
そりゃあ噂だとかそんな話でなら幾つか知ってるけど、それがあんた達に必要なモノなのかはあたしにも分からないもの。
でも、これから話そうとしてるのはあたしが体験した、あたしの話なんだから真実も嘘もへったくれもないわ。
どう? 聞くの、聞かないの?」
「それなら良いわ。また数日、宛のない旅をするよりマシだもの。
……その話、数日もかからないわよね?」
「かかるかっ!変な古文書じゃないのよ、あたしは。
ったく。人を何だと思ってるのよ」
とは言ったものの、今は肉体のない人と呼べるかも怪しい存在であることをあたしは認識していた。
「悪かったわね。だったら、その話聞かせてもらうわ。
それで、もちろん何か代償やら報酬ってのがあるのよね?」
「ないわよ、そんなの。
あるとしたら、あんた達の驚く顔が見たいってことかしらね」
「驚く、顔?」
二人は不思議そうにあたしの顔を見つめるが、望んでいるのはそんな表情ではなかった。
「そうよ! こんなところでずっと過ごしてるんだもの。少しくらい話し相手だって欲しいし、何か楽しめることが欲しいのよ」
「いや、それは分かるが、その『力のある場所』が驚くべき所なのか?」
「それは聞いてみてからのお楽しみってやつよ。そうじゃなきゃ、あたしだって楽しくないもの」
「言わばそれが報酬の代わりってことか」
「そういうことよ。
あたしは宝とかそういった
この世界には色んな人がいて、色んな事があるわ。だから物なんかには興味がないのよ」
あたしの演説に二人は黙って耳を傾けている。
霊体である以上、物に釣られることはないと分かっていても、人と接する事が楽しいとは思ってもいないようだった。
「なるほどな。この世界が好きでいるってことか。
しかし、だとすると……いや、止めておこう。厄介事は御免だしな。
なら話してくれないか? その、あんたの物語ってやつを」
「あんたじゃない! アテナよ、アテナ!!」
察しがいいのか、これ以上深く関わるのを止めたルキは話を纏め、あたしも記憶の糸を辿っていく。
「そうね、先ずはあたしには旅の仲間がいてね。一人はあたしの大切な一番の親友でもあるミーニャ。とてつもなく可愛くて、妹みたいな存在でもある
もう一人は、ある事で知り合った最も信頼のおける女剣士のレイディ。あたしの姉のような存在で、あらゆる面においてそこらの人より抜きん出てる強い人。
あたし達はレディって呼んでるわ。
この三人で、ある目的の為に暫く旅をしていた時の話よ」
一通り人物紹介を済ませ、あたしは本筋に入ろうかと
「あれは……そう、マグノリア王国から南東へ向かい、神々の大戦時の遺跡が残る港町へ行った頃の話。
あたし達はある手掛かり経て、
そこからの旅があたしにとっても鍵になる物語だった。
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