家宅捜索前の準備運動

 翌朝少し遅く起きて、伊山が勾留されている警察署へ向かった。

 まだ取り調べとかしていないのかなと思いつつ、隠匿の魔法をかけながら署内を探してみる。捜査2課をブラブラしていると奥の方から声が聞こえた。


「おい! 黒永組の伊山のところにガサいれ行くぞ。もう少しで裁判所から令状届くから準備しておけよ」


「伊山って先日、若い子を誘拐した罪で逮捕されてませんでした?」


「本人は逮捕されていないけど、あいつ名義の車で、保管場所が組事務所の駐車場になっているから、大義名分立つんだよ。血痕のある毛布で事件性ありだろ? まぁ猫の毛がたくさん付いていたから、実際には関係ないんだろうけど、嫌がらせにはなるだろ?


 昨日の件で親のところにガサ入れか……

 まぁ来夢の件での借りがあるから、伊山の戻って来るところは潰しておくかな?


 警察より早めに伊山の事務所へ先回りして、いろいろ仕掛けをしておこうかな。事務所のみんなには楽しい時間を過ごしてもらおう。事務所はお昼前で人数的には数人しかいないのは、やはりそういう商売なので、夜型の人が多いのであろう。

 昼間の化け猫騒動ってのも面白いかもしれないな……


 事務所ではふんぞり返ってテレビをみていた小太りなおっさんが、まだ中学出てすぐみたいな坊主頭の若い子供に対して説教をしていた。


「俺の若い頃は、怖いものなんて何もなくてよ、カチコミってなったら誰より先に飛び込んでいったもんだ。今の若いもんは根性が無いよなぁ。もっと積極的にいろんな事やって金集めて来いよ! わかってんのか?」


「オッス…… スミマセンです」


 体育会系だな……

 じゃその怖いものなしのおっさんと遊んでみよう。


 まずは椅子の下に潜ってひと鳴きするかな……


「にゃああああああ!」


「うぁあああああああ!! おい!! ね、ね、猫がいるぞ! さっさと連れ出せ!」


 坊主頭が椅子の下を覗くが誰もいない。


「誰もいないっす」


「そんなわけあるかああああ! お前も聞いただろ?」


「鳴き声は聞こえったっす。でも何処にもいないっす」


「よーく探せ!」


 全ての椅子の下から机の下まで覗くが見つからないので、おっさんはキョロキョロしながらも、少し怖がっているようだ。


「おい、先日の伊山の兄貴達が捕まった時にもなんか猫の声が聞こえたって弁護士の先生言っていたよな? なんか祟られているんじゃないよな?」


 今度は耳元で、小さな声で鳴く


「にゃあ にゃあ……」


「ヒイィィィ! 俺の後ろにいるから見てくれ」


「誰もいません」


「そんな訳無いだろ! 早く探せ!」


 壁の方を向いていたので、今度は壁際にかかっている時計を揺らして落とした。

 ガッチャーン!


「ウォオオオ!! なんだなんだ? お前見たよな? 時計がかってに落ちたんだよな?」


 これだけ騒ぐと、他の部屋からも「なんだ、なんだ?」という具合に人が集まってきた。おっさんは、なにか猫の霊がここにいるから気をつけろとか言っている。


 まわりは「クスリやってないよな?」「猫の祟りとかとうとうボケたか?」そんな事を言っている。


 みんなにバカにされ、少しイライラしているおっさんを更に挑発していく。認識阻害の魔法をかけた状態で、いきなりおっさんの右頬を猫パーンチ!


「うわあああ 誰かに叩かれた。絶対になんかいる……」


 ひたすらおっさんをターゲットにチャチャをいれる。天井から凍る直前まで冷やした水を首筋に落とす。


「ひゃっ!」


 そろそろ、完全にキレそうな事が誰が見てもわかるほど、顔が真っ赤になって吠える。


「絶対ゆるさん」


 おっさんはビルの3階に駆け上がった。そこは応接室でカーペットの上に応接セットが置いてあり、壁には本棚と電話台だけが置いてある部屋だった。電話台の小さなカーペットを剥がすと、床材をドライバーのようなものでこじ開ける。そこからビニール袋と黒い金属の塊を取り出して床とカーペットを元に戻して2階へ下りていく。


 おっさんはそのまま流し台のところでゴソゴソしているが、構わずに後ろから隠れて猫パーンチ!! 鼻の下に何か白い粉がついているけど、あれか? 絶対ダメなやつだな!

 お腹には明らかに銃らしきものを差し込んでいる。時間的にも警察がきてもおかしく無い時間なので更に挑発を仕掛けようと思うが、今回は少し見えるように攻撃しようと思う。体を光魔法で包み込み少し神々しい金色の猫に見える。その姿で神棚の上で姿を表しひと鳴きする。


「にゃああああああああ!」


「オラァァアアア!いたぞ!」

 おっさんが目を血走しらせてこちらを睨んでくる。どう出てくるかな?


 パーン!!


 いきなり銃を抜いてぶっ飛ばしやがった!


「カシラ! なにするんですか?」


「オラッ! あの猫を殺せ! あの猫は悪魔だ!」


 いやいやおっさんよ、こんな可愛い子猫捕まえて悪魔とは何事だよ。そんなに悪魔に見えるならそれらしいことしてやるよ!神棚からおっさんの顔へダイブして、そのまま顔を引っ掻いた!


「いてぇぇええええ! こいつっつつうう! ゆるさん!!」


 とりあえず他に被害がでないように後ろに人がいないところに移動して、わざと挑発するように鳴く


「にゃ、 にゃあー」


 真っ赤な顔のおっさんはこっちに向かって数発ぶっ放した。意外と上手で危うく当たりそうになる。再度顔面にジャンプしながらの猫パーンチ!


 その後窓際に移動すると、窓に向かって打ちやがった。


 パン! パン! パリーン!


 窓が割れたところで下に数台車が到着したのを確認したので、最後の仕上げにワザとお尻を向けてフリフリする。


「クソォォォ 許さん!」


 おっさんは弾倉を交換するとまたこちらに向かって打ち始めた。

 パン! パン! パン!


「カシラぁぁあああ やめてください。警察が来ますよ」


「うるせぇー テレビの音だとごまかしておけ!」


 そんな会話をしていると、ドアをドン、ドンと叩く音がした。

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