第5話 星になったコウイチロウ

「今日来てもらったのは他でもない。例の侵略者共についてだ」

コウイチロウの目の前に広がる会議机にはこの星の経済、ひいては政治をも掌握する面々が会していた。


その中でも一際威圧感を放っている男が議長席と思われる席から発言した。


日本の経済会のドン、ザイゼン シゲノブその人である。


「早速だが画面を見てくれ」

大型スクリーンに映し出されたのは衛星からのものと思われる映像だった。地球の回りに無数のメテロルが待機している様子が刻々と伝えられている。


「………!!」

「敵の大将は地球人の即時投降、さもなくば総攻撃を通達してきておる。ゴーストンとして生きることを許してやる、とな」


「地球側は何と答える気ですか!?」

「応ずる気は毛頭ない。野望ごと砕き潰してやる、とすぐにでも答えたいところだ」

「しかしこの全面攻撃に対応できる準備は地球にはない。君を当てにして良いのかどうか答えてほしい」


コウイチロウは少し揺れていた。ここまで無策を露呈した世界に守る価値はあるのか。自分の不遇も合わせて、極めて悩んだ。しかし彼は彼の心に従う事に決めた。


「やりますよ。俺はこの一年、あなた達と違って寝てたわけじゃない」

「なんだと…っ!」

「あんたらの都合で滅びるには地球って星はもったいない。俺の指示に従って下さい」

「ふん、奴らを倒せなかった時はこの星は終わりだ! 具体的に策はあるのか!?」

「まずは、敵の目を出来るだけ俺に引き付けます。ヤツへの返答用の回線はありますか?」

「……回してくれ」

ザイゼンは部下らしき男に命じた。



「おお、意外に早い決断だったな、地球の諸君。ゴーストンとして生きていく気持ちは固まったかね? フフフ」

「思っているほど悪いものではないかもしれんぞ? フハハハ」


「お前達の好きにはさせないぞ! ゴーストン共!」


「貴様、ホシザキ! 貴様等さえいなければ我々の計画は今頃完了していたものを!」

「俺達だって一年でお前らを壊滅させる予定だったさ! こそこそ逃げ回りやがって!」

「黙れ! 貴様がしゃしゃり出て来たと言うことは良い返事ではなさそうだな」

「ああ、お前らの野望も石の体も、俺が砕いて潰す! 覚悟しろ!」


「貴様一人となったスターレンジャーなど恐るるに足らず! まずは積年の恨み、貴様を捻り潰すことで晴らしてくれよう!」


よし、食いついた…!


「決着をつけてやる! ギベオン! ポイントF地区で待っているぞ!」

「グハハ、貴様をなぶり殺しにした後、ゆっくりとこの星をダクス=メテオに作り替えてやるわ!」

ギベオンは一方的に通信を切った。


「これで良し」

「後の詳しい話は天川重工業からお願いします」

コウイチロウはそう言い残すとその場を立ち去った。


さてと、俺は俺のやることをやらなきゃ。


「もしもしミチルさん?俺だけど。うん、ついに来た。シェルターの位置は分かるね?じゃあスターライトと協力してコンドウさんと避難してください。後の事は俺に任せて。うん、ミチルスペシャル用意して待っててください!」

コウイチロウは精一杯、気の効いた台詞を探した。


決戦の地、ポイントF地区。コウイチロウが指定したこの地区は近くに街やインフラ設備は見当たらない。まさに戦闘にうってつけの場所と言えよう。


コウイチロウはこの一年、アルバイトに励む一方で、決戦の地になりうる場所を探していた。


さらには天川重工業と手を組み、スタースーツ、スターソード、スターガンの解析を進め、どうにか50分の1の出力、耐久性を実現していた。これなら250人の戦闘員がいればゴーストン戦闘員やメテロルとも互角には渡り合える計算だ。


コウイチロウは自らの稼ぎをもそのほとんどを注ぎ込み、来る日に備えていたのである。


……やれることは、やった。いつでも来いっ! ギベオン!!


一面を砂利に覆われた広場の真ん中でホシザキ コウイチロウは静かに佇んでいる。


そして、ついにその時は来た。

凄まじい轟音と共にメテロルとゴーストン首領、ギベオンが堕ちてきたのである。


「待たせたな、ホシザキ。お前の首はワシが直々にとる!」

「決着だ! ギベオン! 変身! スター!アライズ!」


「……星の血はぁぁぁっ! 燃えるマグマのぉぉぉっ!! 灼熱レッドおおおおおぉおおぉっ!!!!!」


スターレッドとなったコウイチロウはスターソードを携え、ギベオンに切りかかった。


ガキィィィィン!!


ギベオンも自前の剣で応戦する。

「フハハハ! 踏み込みが足りんぞ! スターレッド!」

「うぉぉぉおおっ!」

スターレッドの切り払いがギベオンの顔を掠めたかと思うとギベオンの突きがスターレッドの脇腹を逸れる。


お互いの一撃が致命の部位を潜り抜けあう攻防が続き、ギベオンが言い放った。

「いいぞ! それでこそ倒しがいがあるというものよ!」

「ハァ…ッ、ハァ…ッ!」

「どうした! 息があがっているぞ! フンッ!」


「グッ…! 負けられるかぁぁぁっ!」

スターレッドは鋭く切り込んだがギベオンはするりと後ろにかわした。スターレッドはスターガンで追撃するがこれも又ギベオンに切り払われた。


「死ねっ! スターレッド!!」

「ギベオンっっっ!!」


激しい剣撃の応酬の末、二人の武器は空中へ投げ出され、そして二人のもとを離れた。


「ではこれでどうかな?フフフ」

ギベオンの体が3体に別れ、赤く輝きだす。


おいおい、反則だろ……っ!


「終わりだ!スターレッド!!」

「メテオ・エクスプロージョン!!!」

3体のギベオンがスターレッドに向かって高速で突っ込むと、スターレッドはスターガンを投げ捨て、両手の拳を構えた。

「スターエナジー解放!! 鉄・拳・星・砕クランブル・フィストォッ!!!」


両者が交差し、数瞬の後。


スターレッドはよろめいたが立ち上がり、片手を突き上げた。果たしてその後、爆発と共にギベオンがこの世のものとは思えぬ叫び声を上げる。


「グアアアアアアアアッ!」

「まだだ、まだ勝ち名乗りはあげさせんぞ! スターレッド! ワシの連れてきた特別製のメテロルを見よ!」


「何っ!」


今まで画面に写らないようにしていたメテロルがゆっくりとギベオンに近づく。


「このメテロルは融合型だ! ワシと合体し貴様をすり潰す!」

ギベオンがそう叫ぶとメテロルはギベオンを取り込みだした。


スターレッドはスターガンを拾い上げ撃ち込んだが、時既に遅く、ギベオンの体を取り込んだメテロルはみるみる巨大化していく。


「くっ、クソッ!」

ビルほどの大きさとなったギベオンはスターレッドを見下ろし笑った。

「終わりだ! スターレッド!」

「こいつは、本当にヤバい……」


ギベオンがスターレッドを踏み潰そうとしたその時であった。



「スター!アライズ!!」


「喰らえっ!!一・実・千・銃サウザンド・バレッジ

スターブルーの必殺技がギベオンを貫く。


「な、なんだとぉぉっ!」


「行くわよ!愛・情・氷・原ラブリー・アイス!!」

スターピンクが一面を凍らせ、滑りながら高速でギベオンを切りつける。


「……剣・敵・必・殺ソード・アンドデストロイ…!」

スターグリーンもまたスターピンクと共に切りかかる。


剛・砲・磊・落カタパルト・フォール!!」

スターイエローが巨大な岩を次々投げ落とす。


「間に合ったか!?」


「…のようだな。」


「間一髪ね!」


「肌が……荒れる……」




「貴様ら……!! リタイア組が……よくも!」




「み、みんな!!!?」

「コウイチロウ! 俺らもう必殺技撃つのが限界だわ!」

「ええ、最後の一撃、決めましょう!」

「…斬るっ!」

「もう少しなら頑張れる」



「……ああっ! 行くぞ!」


五人「全てを砕け!! スーパー・ビッグバン・ラァァァァッシュッ!!!!」


「ぐぅぅぅおあああああっっっ!」


目映い光線がギベオンを貫き、大爆発を起こした。



「みんな………みんなっ!!」

スターレッドは四人の方を向き、仮面の向こうで大粒の涙を溢した。


「もう、限界だ。今日は酒喜で飲むぞ!」


「そっちの限界かよっ」


「さぁ、帰りましょ!」


「ああっ!」


スターレッドが四人に向かって歩きだしたその時、スターイエローが叫んだ。



「レッド!!!! まだっ!!!」

言葉より早くギベオンがスターレッドを後ろから羽交い締めにした。


「ギベオンッ!」


「油断したな! スターレッド! だが、貴様だけは道連れだ! 絶対に生かしては帰さん!!」


「止めろっっ!!! ギベオン!!!」


「フハハハハハハハァァッッ!!!」

次の瞬間、ギベオンとスターレッドは凄まじい光と共に

















消滅した













「コウイチロウーーーーー!!!!!」













――――ギベオンとの決戦から1ヶ月が過ぎた。



ゴーストン及びメテロルの残党は四人のスターレンジャーやスター装備一般兵の活躍により、掃討された。


斯くして地球は再び平和を取り戻すこととなった。だが、そこにホシザキ コウイチロウの姿は見当たらなかった………。


「スターレンジャーが星になるなんて何の冗談だよ、コウイチロウ」

コンドウが名前の無い墓石に向かって呟く。


「あたしはコウイチロウ君が死んだとは思ってない。だからミチルスペシャル、毎日用意しとくからね」


スターレンジャーの四人は黙って涙を堪えていた……





序章、完


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