第2話 格安と格闘のヒーロー
「腹減ったなぁ……ちくしょー……」
男は飢えていた。
戦いに、ではない。
正に読んで字の如く食糧に飢えている。
コウイチロウの肉体は『星』の一族の導きによって身体能力は格段に向上しているものの、その他は一般人とさして変わらないので普通に腹は減る。
なぜこんなにもコウイチロウが飢えているのかというと民間会社である『スターライト』は副業を基本的には禁じている。基本的に、というのは“会社の業務に支障をきたさない範囲で”という事らしい。しかし『スターライト』からの給料は一年前から討伐報酬のみなので、コウイチロウはアルバイトに精を出さざるを得ない。
そういうわけで、コウイチロウは向上した身体能力を究極の肉体労働であるメテロル討伐と建設現場に費やしていた。
1年前の期日到来以降、メテロルの出現は目に見えて減っていた。もちろん、期日の事などゴーストン共は知る由もないだろう。彼らの目的は潜伏である。
そしてまたそんな事情を企業側も知ってか知らずか黙認していた。全ては経済復興のために――
コウイチロウの事情に話を戻すと彼は討伐報酬の全てをとある事情に費やしていたのでその日暮らしのような生活を続けざるを得なかった。
「うおおおおおっ! 先輩ぃっ! いいぃっっちょあがりぃぃっす!」
一年間、必殺技の数々を叫び続けた彼は普段から少し力み過ぎていた。
元の性格から様々な事情を経て少し歪んでしまったようだ。
「よっしゃ!ホシザキ! 昼飯にしよう! 奢りだ!」
「っしゃあああぁぁっ!」
「なんでも好きなもの食えよ!」
「いいんすかっ! 先輩!」
「お前は俺のヒーロー、なんだからよ」
こと、一企業に至っては冷遇に等しい扱いを受けている彼にもファンなり支援者に近い人達はいる。この現場で働くコンドウもまたスターレンジャーの活躍により命を救われた一人だが、彼が貧困生活を送っていることを知り、支援してくれる人物である。年の頃は40代前半。トレードマークの紫色のタオルを頭にかぶり、黒く焼けた肌や筋肉の盛り上がった腕からは長年の現場経験を、口元から耳元まで薄く広がる白髪交じりの髭からは苦労も多かりし人生経験を連想させる。
「ホシザキ…たくさん食えよ!」
コンドウは鼻に皺が寄る独特の笑顔でコウイチロウに促した。コウイチロウは大きくうなずき、目の前の特盛牛丼に手を合わせた。
「お前が現場に来てもう一年になるなぁ」
感慨深げにコンドウが呟く。
「最近は怪獣みてえなのも出てこないし、もうお前もいっぱしの作業員じゃないのか? ハハハ」
「俺はヒーローになりたくてなった訳じゃないスけど、それでも仲間と戦ってた日々は充実……? してましたよ…… なーんでこんな風になっちゃったかなぁ……」
「平和なのはいい事じゃねぇか。ま、ここだけの話、壊れたビルが俺らの飯のタネなんだがな! ワハハハ」
コンドウはヒソヒソ話した後、豪快に笑った。
「さ! 飯も食ったし、コンビニ寄って現場に戻ろう!」
「自分は先に現場の方行ってます! ご馳走様でした!」
「そっか? じゃあまた後でな!」
コウイチロウは食器をカウンターにのせるとコンドウに一礼して店を後にした。
現場に戻り、残りの休憩時間を空を眺めて過ごしていたコウイチロウだったが、
何か鈍い光を放つ物体が視界を掠めたかと感じた次の瞬間、けたたましいサイレンの音と共に警報が鳴り響いた。
〈警報! 警報! メテロルが飛来します!警報! 警報! 着地予想地区はC地区11! 該当地区の住民は速やかに避難してください!!〉
「C地区11ってこの近くじゃねえか! コンドウさんは……! まだ戻って……クソッ!!」
コウイチロウは光る物体が流れた方向へ走った。本気で走ったコウイチロウの速度は軽く車両を置き去りにする。
コンビニが見える角を曲がると、既にメテロルに付着していたと思われるゴーストン戦闘員が10体ほど展開していた。
「久々にそれなりの数で来たな!
コウイチロウの掛け声と共にリング状の光が包み、土星を思わせるフォルムで姿が変化していく。
「星の血は! 燃えるマグマの灼熱レッド!!」
スターレッドとなったコウイチロウは一般人に危害を加えようとしている戦闘員を引きはがし、岩をも砕く手刀で瞬く間に3体の戦闘員を地面のお友達にした。
「うらぁっ! おとなしく寝てやがれっ!」
スターレッドの戦闘スタイルは【万能】
尖った性能は無いが、【力】、【速】、【剣技】、【銃技】をそれぞれ得意とするメンバーの7割程度の技量でこなす。
残りの戦闘員をスターソードで切り倒し、スターガンで撃ち倒しメテロルの元へたどり着いたレッドは叫んだ。
「コンドウさん! 無事かっ!」
コンビニで立ち読みでもしていたのだろうか、コンドウはメテロル飛来時の衝撃によって破砕した窓ガラスを受け、血だらけになって倒れていた。
「何とかな・・・。コンビニ一軒受注ごっつぁんです。ってな。ヘヘヘ」
「あとは任せてくれ!」
コウイチロウはメテロルに向かい合うと両手から激しい光を放った。
「スターエナジー! 解放!
両手にエネルギーを集中させ敵を砕ききるまでぶん殴るスターレッドの必殺技だ!
「ハァッ…! ハァッ…! 間に…合ったか…? フゥ……。」
「ありがとな……ホシザキ……やっぱお前はヒーローだわ……」
「コンドウさん、俺はこの地球の平和と明日の特売は命をかけて守りますよ!」
コウイチロウはニッと笑いながらコンドウに手を差し出した。
「さ、病院へ行きましょう!」
「あそこの特売、ホントに安いもんな…。でも、ホシザキ。命は安売りすんなよ!」
「うっす」
コウイチロウはまた少しはにかんだ。
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