2年春休み【平穏な生活】

 三月二十六日(雨のち曇り)


 数日前から春休みに入った。今日は特にやることもなく、これといった出来事もなかったので、前に言った、の話でもしようかと思う。

 これは私が高校一年生のころに遡る。もう一年半経っている、時間の流れは早い。

 簡単にまとめると私はクラスの子達にイジメられていた。理由はよくわからない。でも「あいつムカつくよね」とか「あいつのせいで」とかよく聞いた。

 私は頭もよくなくて成績はいつも平均以下。運動もそこまでできる方じゃなくて体育とかでは結構足を引っ張るメンバーだったことは自覚していた。クラスでも特に重要な役割を担っていたわけではない。いわゆる陰キャってやつだった。

 でもいつも隅に一人でいるという普通なら目のつけられない学校生活を送っていた。自分でも賢い生き方だと思っていた。それは勉強や運動ができなくても、光を浴びる存在じゃなくても、人並みの生活ができると信じていたからだ

 恥っず。なに一匹狼気取ってんだよって今なら笑える。今だからこそ笑って話せるのかもしれない。

 でもイジメられた。

 それからおよそ半年間は地獄だった。有名なイジメは一通りされたと思う。暴力的なものはなかったけど地味に痛かったり精神的に追い詰めるものが多かった。教科書隠されたり上履き捨てられたり水をかけられたり、どこからネタを探してくるんだって言いたいぐらい色々された。

 そして私は途中から学校を休みだした。いわゆる不登校ってやつになった。でも留年はしないでほしいという両親の希望で少ししてから保健室通いになっていた。

 そんな時だった。彼女、藤咲リネカに出会ったのは。

 保健室通いだった私はいつも部屋の隅で勉強していた。そこにリネカが現れたのだ。

「あなたが中野さんですか。先生からあなたの話を聞きました」

「えっ…」

 一瞬怖くなった。イジメられていることを広められると思ったからだ。でも違った。

「友達を欲しがっているそうですね」

 私はそんなことを言った覚えはない。これは私に配慮してくれた養護教諭の先生の優しさからきたものだったことが後から判明した。

 しかしあの時、言っていないと否定しなくてよかったと思う。この時に否定していたら私は未だに独りだったろうし、イジメられていたかもしれないからだ。

「私とお友達になっていただけませんか」

 この時の感情を率直に言うと嬉しかった。学校には居場所がなかった。またいつイジメられるかわからない中で安心して過ごせなかった。

 そんな時に差し出された手、この時私はリネカのことを全く知らなかったけど、白い髪もあって女神に見えた。そして手を伸ばしてしまったのだった。

 そこで私の生活はガラリと変わった。私自身の変化はリネカと過ごすようになっただけ。でもイジメられなくなった。私自身ではなく私の周りの環境が変化した。

 でもなぜリネカと一緒にいただけでイジメられなくなったのか疑問に思うだろう。当時の私もそう思った。リネカが隣にいるとき、私をイジメてきた子達はこっちを見るなり逃げていく。そんなことが続いた。

 これは後から聞いた噂に過ぎないのだけれど、リネカが中学生の頃に前までの私と同じようにイジメられていた女子生徒がいたらしい。そしてそのイジメが結構過激なものだったらしく、周りも気にしてはいたらしいんだけど次は自分が対象になってしまうかもしれないと誰も注意すらできなかったのだ。

 そこに今回のようにリネカが現れた。どうやったかはわからないけど女子生徒へのイジメをなくしてその子を助けたらしい。誰もできなかったことを成し遂げたのでリネカは一気に英雄になった。

 幸いにも彼女の中学からはこの高校への進学者が多かったので、噂された結果なのだ。噂に過ぎないから本当かはわからないけど…。

 これが私の平穏な生活の原点だ。容易に手放すことができない『平穏な生活』。

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