第121話 仲間

「ベル、君は魔物と獣の差を知っているかい?」


空は快晴、街の周りは見晴らしのいい草原。

あまり大きな山もなく近づくものがよく見える。


「獣は決して自分から人を襲わない。けれど魔物は違う。魔物は人を狙う、より多くの人を襲う」


だからこの見晴らしのいい草原を数多の魔物が街へ向かって駆けてくる。

騎士団の者達は皆強く、魔物の群れ程度脅威にすらならない。


「わかっているねベル。この戦い、君は」


「ああ。私は見ているだけ、手は出さない。だが、何故君までここにいる?」


「この程度は日常茶飯事、私が戦場に出るまでもなく、私が指揮を執るまでもない」


戦闘が始まりその言葉が事実であると理解する。

ブルーノは鍛え上げられた肉体で次々と魔物を蹴散らしていき、シモンは他の者が戦い難い空を担当し魔術によって燃やし尽くす。

隊長たちは言わずもがな、その下の騎士たちも魔物を圧倒出来るだけの実力を備えていた。

魔物を相手に一対一で上回る。

群れを成すなら連携を取って群の力でそれを上回る。

騎士団は、ベルの想像を超えるほどに強かった。


「団長、私は君だけを護る気でいた」


「…………知っているとも」


初めて会った日、周りと比べて圧倒的な力を持っているこの男がこの世界の滅亡を防ぐためにその身を世界に捧げたのだと思った。

だからこそ、この男だけは死なせる訳にはいかないと、護ろうとそう決めた


「けれど私は現状を知って彼らの事も護ろうとした」


「聞いたとも」


この世界には、自分を犠牲にしてでも人々を護ろうとした者が大勢いた。

それは絶対に間違っているからと、彼らも護ろうとそう決めた。


「なのになぜ、私は今彼らを護る事をせず、彼らに護られている?」


彼らよりも私の方が強い。

彼らよりも私の方が長く戦える。

彼らは護られる側で私が護る側のはず。


「なのになぜ、私は彼らを護る事を辞めている?あの程度の魔物に負けないこともよくわかった。けれど、私であればあれほどの時間を掛けずにすべて消滅させられた。それなのになぜ、彼らの為にならない行動を今私はとっている?」


「…………感情というのは、いつだって非合理なものだよベル。いくら考えても結論が出ないって?簡単な話だ、君は私の事を仲間だと考えていたようだけど、彼らの事も仲間だとそう思ったからだ」


ロウレイは笑っている。

大盾を地面に突き立て笑っている。


「護るべきものではない、共に立つ者、それが仲間だ。だから君は、今こうして彼らの想いの為に後方で護られている」


戦場を駆ける騎士たちの背中を見つめ自身の胸に手を触れる。


「人は、人を思う心があるからこそ人なんだ。君は君を人とは違う存在のように思っているようだけれど、私からすれば君は人だ、君が君を除け者にしないでやってくれ」


「…………私は彼らよりもずっと強い」


「私だってそうだよ」


「私は君よりもずっと強い」


「わからないかい?人にとって重要なのは見てくれでも強さでもない。人を人たらしめるのは心であり、彼らは君を君の心を以て判断する。君が彼らを護りたいというその想いは彼らにとって君を仲間と判断するに足る心だった。君はもう、彼らにとってかけがえのない大事な仲間なんだよ、ベル」


…………これは、記憶?

私ではない誰かの記憶。

戦争で多くを失い、それよりも多くを得て、そしてすべてを失った記憶。

私は君とは全くの別人だ。

だが、別人だからこそ、君を知るからこそ、私は決して君と同じ過ちはしない。


「すまないロウレイ。それを聞いて私は、より一層彼らを失いたくないとそう思ってしまった」


そう残してベルは戦場へと転移した。

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