第106話 新たな巨人

「そっちは今どういう状況?」


「銃乱射してる馬鹿共鎖で捕縛したら、地中から一つ目の巨人が出てきてそれに対処するところ」


電話の先ではミカが巨人との戦闘を開始しようとしていた。


「逃げろ。そいつはおそらく署長に血を流させた相手と同様のもの。お前が敵う相手じゃない」


「わかってないなソルト。この巨人は勝てない相手じゃない。限界超えれば勝てるかもしれない相手だ」


電話越しにも闘志が伝わってくる。

逃げる気はない。

止める手もない。

完全にここで殺し合う気であった。


「今すぐ向かう。生き残ることだけ考えろ」


「それは困った。あんたが着く前に倒さなきゃだ」


「おい‼」


ツーツーという音が電話が切られたことを知らせる。

ソルトは舌打ちをして駆けだした。




「確か誰かに指示されてきてるんだっけ。どうにか情報聞き出せたり…………しないか」


会話に応じるような雰囲気はしていない。

まず間違いなく殺す気である。


「なら、倒しちゃおうか」


腰を落とし戦いの構えをとったと同時、巨大な拳が薙ぎ払う様にしてミカをぶっ飛ばした。

幾つかビルを抜け、瓦礫の中から鎖が伸びる。


「あの巨体であんなに速く動くのか」


鎖でのガードが間に合ったが、それでも強引にぶっ飛ばしてしまうほどの膂力。

どう対処するかを考えていると地面が揺れる。

そしてそのすぐ後に、ビルを潰しながら巨人が現れミカに向かって拳を振り下ろした。


大きさに違いあれど、俺を単一の敵として見てくれはするのか。


地面を蹴り移動するも避けきれない。

鎖を束ね、巨大化させ、振り下ろされる拳に全力でぶつける。

どうにか拳を逸らすことに成功するが、その表情に余裕はない。

たった一度攻撃を避けるだけで異常に消耗する。

巨人が相手だからではなく、相手が異常に強いのだ。

逸らされた拳は地面を砕きそのままその拳で、避けたミカに向かって地面を抉りながら薙ぎ払った。

単調な攻撃、速度も先程よりは遅い。

逸らさずとも今度は避けることが出来た。

しかし薙ぎ払ったのはあわよくば当たれ程度の攻撃でしかなく、本命は薙ぎ払った後の振り上げたこぶしでの攻撃であった。

その巨大さゆえに動きが全て見えない。

何をするつもりなのかがわかりづらい。

腕を追って、見上げた時にようやく理解した。

今までで一番早く、一番力を込めて殴るのだと。

ミカの心に焦りはない。

冷静に、落ち着いて、鎖を動かしていく。

腕を動かすのを察知したと同時に、鎖を渦のように動かし円形の天井を作り上げると、ミカ自身はその下を移動し拳を避ける。

全力疾走し、飛びこむようにして、何とかギリギリで避けることが出来た。

背後からの衝撃に少し吹き飛ばされながらも、地面に着地し見上げる。

肩まで巻き付く巨大な鎖。

少しずつ少しずつ締め付けていき、巨人の右腕を折った。


「右腕もら―――――――‼」


作戦が上手くいき一瞬油断したミカ、巨人は折れた右腕を無視して身体を捻り左手でミカを殴り飛ばした。

鎖は攻撃に使ってしまって防御には使えない

ただ単純に、人間相手にするように腕を交差させて防いだ。

先程とは違い今度はビルの無い方向であったために、大通りを跳ねるようにして転がり、一番奥の建物に突っ込み瓦礫に埋まった。


「…………くそっ……たれが」


瓦礫を持ち上げながら起き上がる。

身体中から血を流し、両腕は完全に折れ指一本動かせない。

鎖が身体を這うようにして脚から昇っていく。

両腕に一つずつ巻き付き、鎖を操作し腕を、指を動かした。

激痛に目を見開き、唸るような呻き声をあげながら痛みをこらえる。


「さ、勝負だ」


拳を握り構えをとる。

巨人を相手に殴り合い。

大きく呼吸をして、巨人を見据える。

巨人が振りかぶり一撃必殺の拳を放つ。

対するミカもただ全力で殴った。

鎖を伸ばし脚から、地面の中まで潜らせ体を固定する。

異常な膂力に負けないように。

鎖をさらに伸ばし、自身の身体に巻き付かせ、覆わせる。

鎖を動かすのは異能であり、身体を動かすのは鎖である。

たとえ肉体的に無茶であったとしても、力負けしていようとも、異能で無理やりに押し勝つ。

今尚激痛が奔る肉体で、次々と折れていく骨を無視して、ミカは巨人を押し返した。

よろめく巨人に追い打ちを掛ける。

巨人を飛び越え、上から、巨大化させた鎖の塊で殴りつける。

地面に叩きつけ、腕を、脚を、全てへし折った。


「…………これで、勝ちだよな」


肩で呼吸をしながら、倒れた巨人を見つめる。

しばらくすると巨人は弾けるように霧散した。

瓦礫が落ちる音に振り替えると、そこにはソルトが。


「やったよ。俺、勝ったよ」


笑いながらそう言うと、ミカはその場で気絶した。

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