第69話 旅
ふたりは世界各地を巡った。
沢山のものを見た。
沢山の人を助けた。
一定の場所に留まることをせず旅を続けて一年。
いつものように、人を脅かさないためにドレークには森にいてもらいレナートは街で買い物をする。
木々をかき分け街へと向かう中、焦げたようなにおいがしだす。
腰を落とし、地面を蹴ると一気に森を駆け抜けていく。
街が見える。
炎に包まれた街が。
崩れ行く街が。
炎をかき分け中へと入ると、山のような死体が目にはいる。
上から見た時はまだ火は上がっていなかった。
にも拘らず街を包むほどに広がっている炎。
明らかに燃え広がるのが早すぎる。
そして何より、死者たちは皆焼け死んだわけではない。
殺された後に焼かれているのだ。
逃げ惑う様子もなく、日常の中でこれだけの人間が一斉に殺された。
外傷の出来ない方法で。
建物が崩れ、その奥が見える。
一人の男が、レナートを見つめ笑っていた。
「……貴方がこれを?」
レナートは男に微笑み問いかける、いつもと同様に。
ただ、目だけは笑うことが出来ていなかった。
「これは始まりだ」
止まらなかった。
止められなかった。
この衝動を、この怒りを、止めることなど出来ようはずもない。
全てを救うと誓いながら、なにも護れなかった。
駆けだす脚、握られた拳、しかしそれは届かない。
男は、レナートの拳が届くよりも先にこの場から消えた。
握られた拳から血が流れ落ちる。
行き場のない怒りが胸の内で燻る。
《レナート何があった?》
炎に包まれる街を見てか、ドレークは森から飛び出してきた。
明らかに人為的な街の惨状に顔をしかめる。
《気にするなと言ってもお前は気にするだろうが、これは決してお前のせいではない》
事件について思考を巡らせるなど、すでにレナートはやっている。
改めて何か聞く必要がある程レナートは子供ではなく、今ドレークに、師匠であり、祖父を名乗るドレークに出来るのは、護れなかったというレナート自身が科す罪について言及することだけだった。
「これは始まりだと言っていました」
《もっと早くについていればなどということを考えても意味はないからな》
ドレークはもう枢機卿ではない。
多くの人よりも、レナート一人を優先する。
「わかっています。それに奴は、私か、もしくは移動手段を持った教団関係者が来るタイミングを狙っていたのでしょう。早く来たところで、この者達の死が早まるだけでしょう」
誰かに怨まれるような生き方をしてきたつもりはない。
けれど、全てを救うという在り方は、私の口から出る言葉は、結局のところ全て綺麗事でしかなく、目障りに思う者も少なからずいるかもしれない。
だからといって無関係な者を惨殺するなどやり過ぎだ。
「相手の読み通りに動くのは癪ですが、教皇に伝えに帰ります」
《伝えないわけにもいかないものな》
「ええ」
完全に出し抜かれた。
外傷のない死者たち、生物を殺すことに長けた異能力者の可能性がある。
始まりと言ったからには二度目三度目がある、どうしようもないほどに危険な犯罪者の犯罪予告。
何処を襲うかはわからないが、予告があるのなら防衛策を立てるために伝えるのは当然。
当然の行動なのだから相手もそれを読んでくる。
当然だ、当たり前のことだ、それでもあの男の読み通り動くのは気に入らなかった。
《読まれているのなら、罠が用意されているかもしれないぞ》
「それはとうぜ―――‼最も速い連絡手段は?」
動きがわかるのなら罠を用意するのもまた当然だが、自分たちを殺すことを目的としていないように感じていたために見落としてしまった。
大急ぎで向かったとして、辿り着く頃には街の者が殺されている可能性が高い。
この街と同じように。
《国の外まで出ている。最も近いのは……国の辺境、お前の育った修道院だ》
「ではそこを目指してください。我々より先に街に辿り着くのなら、情報だけでも奴より先に」
《では急ぐぞ。しっかり背にしがみついておけ》
白龍は空を割る勢いで飛び立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます