追放されたクソニート~勇者パーティーでニートしてたらクビになった件について。神涜者とまで言われた詐欺師はそれでも働きたくない!
灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ
第1話 いきなりクビになった件について
「ムンク。君は今日でクビね」
その無慈悲な通告は、勇者パーティ【
「はい?」
え?まじで?
ぼさぼさに伸ばした黒髪のせいで根暗にしか見えない男、ムンク=ノースフィールドは突然の通告に困惑した。
今の彼の表情は鳩が豆鉄砲を食らったという表現がおあつらえ向きだろうか。
もっと、具体的に言えば三十にもなり定職にもつかず、家でゴロゴロしていたら、いきなり勘当を言い渡された。そんな感じだ。
当たり前だ。こんなこと言われるなんて1ミリも予想していなかったのだから。
通常であれば昼まで惰眠を貪る彼も、今日ばかりは寝起きも機嫌も良かった。鼻唄混じりでスキップまでしていたぐらいだ。
なにせ、ムンクが所属する勇者パーティーは魔王軍でも屈指の実力を持つ、六魔天の一角を討伐したのだ。
ついに六魔天を倒したかー。報償金とか凄いんだろなー。なにせ、六魔天だからなーガハハハ!
よーし!パパ、ハーレム作っちゃうぞー!
みたいなことを思ってルンルン気分だったわけである。
「悪いがみんなと話し合った結果だ」
そして、言われた言葉がこれである。当然のことごとくハブられている事にムンクは、ほんのりと涙を流した。
早速、六魔天討伐遠征から帰って報償金の山分けをすると聞いたのでウキウキで酒場に向かったというのになんたる仕打ち。
既にパティーメンバーが全員揃っている中、そんな冷酷無比なことを言い放ったのは金髪碧眼の青年だ。しかも、イケメン。
彼ははにこやかな笑みを浮かべ続けている。
唐突に理不尽なことを言っているのに、眉ひとつすら動かない。
いつも通りの、むかつくぐらいにこやかな笑みである。
「ちょ、ちょっとまってよ!? 急すぎるよ!? 僕もそれなりに頑張ってたじゃん!?」
当然ながら、ムンクはその男――ハヤトに抗議した。
そりゃないよ。やっとの思いで王都に戻ってきたっていうのに。
ていうか、これからどう生活しろっていうのさ。失業保険的なのとか出るの?
そんなことを矢継ぎに訴えていると、メンバーの1人が声を張り上げた。
「頑張ってきたぁ!? じゃあ、この際言わせてもらうけどねぇ!!!」
シスター服の少女だ。
しかし、こんな状況でもムンクの視線は顔ではなく、そこよりやや下。つまり、お胸様だ。
彼女の黄金比とも言えるそのお胸様は今日も健在だ。
人形のように整った顔やつり気味な目、やや癖っ毛のある明るい茶髪よりも、お胸様のが本体なのでは?とムンクは常日頃疑問視していたりする。
彼女は堪忍袋の尾が切れたと言わんばかりに叫び始めた。
やだ、ヒステリック。
「あんた弱いのも問題だけどねぇ! 戦闘中なにもしてないじゃない!」
「い、いやぁ、そりゃぁまぁ。で、でも、ほら隠蔽とか結構頑張ってたじゃん」
「そんなの出来て当たり前よ!!」
えぇ、隠蔽とかあれ結構大変なんだけど。ムンクはまたあんまりな言いようにこっそりと泣いた。
「そもそも、勇者パーティーである私達が街ですら、あんたの隠蔽スキルでこそこそしなきゃいけないのも意味わかんないのよ!! 私達英雄よ!?」
ある意味正論。
しかし、ムンク的にはしょうがないことらしい。
勇者パーティーとかばれるとキャーキャーうるさく人だかりが出来るんだもの。
煩わしくてしょーがない。
彼女は怒り狂っていて、とりつく島もない。
ならと、ムンクはもう一人に視線を投げる。
「前々からお前にはイライラしてたんだ。ハヤトがなにも言わないから我慢してたがこの際言わせてもらう。お前みたいなお荷物このパーティには不要だ」
魔術師の男だ。
黒目眼鏡のイケメン。いつも眉間にシワを寄せて不満そうにムスッとしている。ろくに笑っているところなんて見たことない。というか、ムンクはろくに会話した記憶も無かった。
「まだ、努力して改善させようという気概があればいいさ。でも、お前はその素振りすら見えないじゃないか! 戦闘どころか日常ですらゴロゴロと惰眠を貪ってるだけ!」
「いやぁ、だって無駄な努力だしなぁ」
「そういう開き直ったところもまたムカつくんだよ!!」
男は今にも殴りかかりそうだ。イライラが積もりに積もって爆発寸前と言ったところか。
「まぁまぁ、落ち着いてみんな。ムンク、魔王軍との戦いもこれから本番だ。君がパーティーにいるといささか戦力に不安を感じる」
ハヤトは今にも暴れ出しそうな面々落ち着かせるように言葉を紡ぐ。こんな状況なのに彼だけはいつものように落ち着いたままだ。
「なので、以降は私が貴殿の代わりを勤めさせて頂きます!!」
「え、誰こいつ」
いきなり現れたのは全身ガチガチにプレートメイルで装備した大男だ。鎧の細部に見れるデザインの凝り方から騎士であることが分かる。冒険者であればそんな所には金をかけない。
「彼は王国騎士の中でもエリート中のエリートなんだ。紹介しよう、彼はリカルド」
「はっ! リカルド=アッカードと申します!! 以後ムンク殿の代わりを務めさせて戴きます!!!」
「本当は私達のこと知りすぎてるから死んでもらうつもりだったんだからね! 止めてくれたハヤトに感謝しなさいよ!!」
「今後は私達の活躍を心待ちにしてください!!」
「いやいや、そりゃないでしょ!仮にも勇者パーティとしてそこそこやって来たじゃない!」
殺すつもりだったと言われればムンクも流石に抗議した。そもそも、パーティー脱退が決定事項のようになっているのも納得がいかない。
しかし、その決定はもう覆せないようでーー
「ふん! アンタの顔なんて二度と見たくないわ!!」
「ふんっ」
「ということ訳だから、よろしく」
こうして、ムンクは無職になった。
まぁ、そんなことしてればクビになるのは当然なのだが......
ムンクの心にあったのは仲間から捨てられた絶望でも、自己の行いを顧みることによる後悔でもない。
明日からの生活への心配のみだった。
まじか、明日からどうしよ......と首を傾げるばかりだった。
ーーーー
王国の町中に一軒場違いともいえるほどボロボロな家がひとつ。
それはあまりにも老朽化しすぎて家とはとても言えずもはやボロ小屋だ。
家の屋根には傾いて斜めになっている大きな看板が「何でも屋」という文字を主張しているが、胡散臭いことこの上ない。
「はぁ......なんで私が毎回毎回こんなことしなくちゃいけないのかしら......」
腰までかかるほどの黒髪をなびかす少女は胡散臭い看板を見てため息を吐く。
ため息は幸せが逃げるとも言われているが、そんな動作でさえ麗しい。彼女にかかれば、芸術家のこしらえた絵画の1枚と錯覚しても可笑しくはない。
事実近くを通行する男達の視線は彼女に釘付けである。
彼女が何でも屋と書かれたボロ小屋に入るともう酷い状態だった。
乱雑に散らばった本や紙。ほこりは言わずもなが、散らかった食べかすや酒瓶がこのボロ小屋の主がどれだけ自堕落な生活を送っていることが分かる。
小屋の主人を見つけると少女はまたかと落胆してため息を吐いた。
「ムンク!! とっとと起きなさいよ!! もう昼過ぎよ!!」
ご近所迷惑など気にせず大声を吐き出すが、やはり反応は皆無。
少女はだらしくなく眠る青年に流れるような動作でボディーブローを一発。
そこに躊躇いは一切ない。
「ぐふっ」
「あ、あれ? アリス? おはよう......?」
「もう昼過ぎだけどね、おはよう」
アリスはまるで天使のように微笑を浮かべている。
――がよくよく見ると額には青筋がうっすら浮かび上がっている。
まさに天使と悪魔がチークダンス。
「えーと、それで何のよう? 今日は一日中寝るつもりだったんだけど......」
しかし、ムンクは悪びれるそぶりすらない。
「はぁ、一応聞いてあげるけど昨日は何してた?」
「えーと確か寝てたね」
ムンクはまるで夕べの晩飯を思い出すかのような曖昧さで答える。
「一昨日は?」
「えーと、寝てたね」
「その前の日は?」
「うん、寝てたね!」
メリッと不快な音とともにムンクの顔面に拳がぶちこまれた。
「得意気に言ってんじゃないわよ! このすっのこどっこい!!」
「で、今日はなによ? 依頼なら来てないよ?」
ムンクは慣れているようで何事も無かったように立ち上がった。この男も存外タフである。
この世にあり得ないと思えるようなことはちらほらある。
この男が何でも屋の店主なこともその一つだ。
「依頼がないなら探してきなさい」
「え やだよ。なんでそんなわざわざ働かなきゃいけないんだよ......」
ムンクの信条は極力働くな、だ。
労働なんてものは苦でしかなく、そんなものに人生を捧げるなんて馬鹿げている。
その上仕事に楽しみや生き甲斐を感じるなんて馬鹿らしいと本気で思っているのだから救いようがない。
そんな男が、パンがないならお菓子を食べれば良いバリに仕事を探せと言われても、動くわけがない。
底冷えするような声とともに放たれるほほを掠める右ストレート
「い い か ら 働 け ゴ ミ」
これには流石のムンクも両手をあげる。
「い、いや、アリスサン?一ヶ月前にそこそこ大きな依頼があったからお金に余裕はあるじゃないですか?......つまり働かなくても......」
「いいわけないでしょ......だいたいこれ見てもそんなこと言える?」
頭痛を訴えるかのように右手を額に当てて、1枚の紙切れを取り出した。
「ん、なにそれ? 修繕費......?」
「そ、あなたつい先日公爵家の銅像大破させたでしょ。その請求書よ」
ムンクはそんなことあったかと回想し、思い当たるものが一つあることに気づく。
そういえば三日前馬鹿にされた腹いせに太った豚の彫像にダガーを投擲しまくったなぁ と。
「うそぉ!? あんな見るのも耐え難い糞オブジェがそんな値段するの!? ぼったくりでしょ!?」
「あのね......貴族ってのは見栄を貼る生き物なのよ。だから貴族のものは全部高いに決まってるでしょう」
「それで? 依頼の宛はないの?ないなら町中引きずり回しても探させるけど?」
「何てこというんだお前......うーん、あることにはあるんだけどなぁ......いや、あれはまじで嫌だなぁ......」
アリスは煮え切らない言い方に何を言っているのか察する。
「あぁ、セルディスさんの依頼ね。いいじゃない受ければ」
セルディスは王国有力貴族の一人娘である。
そんな高貴な存在がゴミの掃き溜めをかき集めたような駄目男と、何故接点があるのかは疑問だが。
時々仕事を依頼してくるのだが、大体は厄介ごとなのだ。
一筋縄ではいかないものばかりなので、ムンクは毎回渋々受けている。
「いやいやいや! 確かに報酬は破格なんだけどね? それでもそれよりも大きい厄介事があるような、ないような......」
「さっきから煮え切らない言い方ばかりね。はっきり言いなさいよ」
アリスはムンクをギンッと睨み付ける。
「うへぇ......そんな睨まないでよ。神の使徒だよ使徒様」
神の使徒という単語を口に出すと、1ヶ月前の苦い思い出が脳に浮かび上がる。
「なるほどね、あの人達が関わっているのね」
アリスは露骨に嫌そうな顔をする。
何故アリスが嫌そうにするかは不明だが、勇者というのは人々にたいし希望を与える反面、そのいく先に災害が確約されてるようなものだ。
人によっては嫌がるのも仕方ないのかもしれない。
ムンクはこれから来るであろう厄介事に頭を抱えた。
通称神の使途。勇者とも英雄とも呼ばれる存在。
10人弱からなるその集団は1人1人が一騎当千どころか一騎当万もやってのけるような化け物集団。
そして、その何人かは1ヶ月前にパーティーも組んでいた元同僚達である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます