神様の願い。

第1話

「きみ、神様になってみないかい?」


何の変哲もない、いつもの通りの一日だった。

いつもと同じ時間に起きて、直食は少し焼き過ぎた食パンに、たっぷりとジャムを乗せて食べ、家を出て小学校に向かう。

いつも通りチャイムの10分前に教室に入り、クラスメイトに十数回目の『一生のお願い』を使って、宿題を急いで写す。

いつもの様に急いで給食を食べ、昼休みいっぱい友達とサッカーをして過ごした。

午後の授業をうとうとしながらやり過ごし、友達と談笑しながら下校する。


あとはこのまま家に帰って、いつも通り家族と他愛ない会話をし、いつもと同じ時間にベットに入って夢を見る。


そのハズだった。


帰り道、家の方向の違う友達が一人ずつ別れていき、残るは少年一人になった。

適当な小石を無くさないように蹴りながら歩く。

少し強めに蹴って、勢いよく転がっていく小石を視線で追いかける。

視線の先に、一人の少女が立っていた。


神様にならないかと、少女が問う。

少年は何も答えなかった。

もちろん少年は神様の意味くらいは知っていた。

そして当然、それが偶像であるということも。

それ故に、目の前の少女の言う『神様』が何を指すのか分からず、質問の意味が判断できなかったからだ。


「あはは、そりゃ意味わかんないよね」


心を読んだように、少女は笑う。

そしてスっと距離を詰め、自然な動作で少年の手を取った。


「体験した方が早いよね」


少年は、少女の言う言葉を一つ一つ理解できるように努めた。

しかしまだ幼い少年の理解が追いつく前に、事態は流れていく。


「きみを神の『箱庭』に案内しよう」


変化は一瞬の事だった。

二人を中心に、足元から景色が真っ白に塗り潰されていく。

草も木も。人も家も。空も影も。


気が付くと、少女と二人きりで、真っ白な世界に立っていた。

地面はアスファルトから硬質な石のような材質に変化していて、一辺50メートルくらいの長さで四角く区切られている。四隅には太い柱があり、天井までは10メートル程の高さがありそうだった。

四角く区切られた地面、その周囲は驚くことに水に囲まれていて、水平線が見える程に遠くまで続いている。潮のかおりはしなかったが、広すぎてここが海なのか湖なのかも判断がつかなかった。

そもそもの話、現実にある場所とすら思えなかった。


顔を正面に向け、少年より少し背の高い少女に視線を合わせる。

少女は黙ったままにこにこと笑って少年が落ち着くのを待っていた。


少年が訪ねる。

「ここはどこですか」

少女は答える。

「ここは私のおうちです」


この場所はどう考えても少年の知る『家』とは違っていた。

食べ物もベットもお風呂も、人が住むのに必要なものが何もない。


再び少年が訪ねる。

「あなたは誰なんですか」

少女もそれに答える。

「私は『神様』です」


この場所も、この少女も、普通とは違うんだと少年も理解していた。


「『神様』って、何をするんですか」


少年は最初の質問を思い出した。


「『神様』はね、何もしなくていいし、何をしてもいいんだよ」


少年は驚いた。

神社でお賽銭を投げ入れ神に願う。そんな風習は少年の中にも普通の事として根付いていた。残念ながら実感の伴う体験は未だしたことがなかったが、そういった人々の願いを叶えてあげるのが神様としてのお仕事なのだと思っていた。


「うん。それもいいと思うよ」


少女は否定しない。


「言ったでしょう。何もしなくていいし、何をしてもいい」


少女は繰り返す。


「『神様』なら、なんでも出来るよ」


『神様』は言った。



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