りうきうで、「さよなら」なんて
無言。不安定、頭がクラクラする。
暑さにやられてしまったか。ローラちゃんが不安そうにこっちをじっと見ている。
気づけば三人は、継月さん&フルルと別れていた。何故かは分からないけれど頭から水を被ったみたいな状態の継月さんは、フルルと共に海岸を離れていく。
ナ「……ん、あら?」
イ「どうしたんだ?」
ナ「向こうに、誰かいます」
エコロケーションだろうか。
咄嗟にそう思った私はもうダメかもしれない。何もない状況で、唐突にエコロケーションを使い出すとは考えにくい。
シ「ロードランナーと一緒にいる女の子……あらぁ?もしかして、あの子がそうなんじゃないのぉ?」
──ロードランナーと、一緒にいる女の子?
おい、それは絶対、私だ。待って、私を捜していたの?
その姿でその声でその性格でその喋り方でその優しさで、私に近づいてしまうのか。私の世界とは、別の世界の彼女とは分かっている。……うん、分かっている。
シ「いらっしゃぁい」
あ「──ッ」
シ「ん〜?どうしたのぉ?」
でも、今ここでただ「ごめん」とだけ言えば、きっと変なヒトだと思われてしまう。また、彼女の想いを中途半端に受け取る結末になってしまう。
あ「……ちょっと、体調悪くて」
シ「あらぁ!?大丈夫ぅ?休むぅ?」
イ「あまり動かない方がいいぞ!」
ナ「元気がなさそうですわね……?」
あ「……ううん、大丈夫」
青ざめた顔で無理に笑って、放っておかれるわけなんてない。でも、今は「大丈夫」と言い張るしかなかった。
ロ「あんかけ、本当に大丈夫なのか!?絶対、大丈夫じゃないよな!?なあ言ってくれよ!頼むから……」
あ「……少し、頭の中を整理させて」
ロ「え……?」
あ「──ごめん」
背を向け、歩き出す。やっぱり、不自然に思われてしまったかな。とにかく今は少し、考えをまとめたい。
潮風が私に冷たくぶつかる。それでも砂浜に足跡を残し、歩いていく。
*ののの*
色々と綴ってしまったが、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げてしまっている気がして、吐き気がしてきた。でもせっかくの海を汚してしまうのも嫌なので我慢しとく。
ともあれ、どうしても私はジャパリパークで生きていくことができないのだと思う。
もう『けものフレンズ』を考える時間も減ってしまった今だ。本当は、もう変にジャパリパークに執着しない方がいいのだろう。
しかし、過去の私は当然そんなことを知らないので、軽い気持ちでこの企画に参加してしまった。何てことを!
もう、フレンズが来てもまともに話せる気がしない。
ロ「はぁ……最初は空気を読んでたけど、ついてきちまったよ」
あ「……」
ロ「お前、本当にどうしたんだよ!?急にどっか行って心配ばっかかけてさぁ!」
……ああ、やっぱり格好悪い。見栄えも悪いし、気持ち悪い。そう思えてしまう。
この企画から抜けるだなんて、そんな責任の持てないことをするのか。それ以前に、ちょっと熱が冷めただけでけものフレンズから目を背け続けるのか。
私は諦めるのか、ここで。
ロ「答えてくれよ!」
あ「……もしも私が、企画から抜けるって言ったら、どうする?」
ロ「──ッ!?」
そりゃ、驚くよね。
ロ「え、も、もう別れんの?おい、それはいくら何でも早……」
あ「私もう……ジャパリパークにいても大丈夫な身じゃないかもしれないんだわ」
ロ「わっけ分かんねぇ……ジャパリパークのこと、嫌いになったのかよ?」
あ「嫌い、じゃない。嫌いじゃないけど」
【願い事が叶うものだから七夕というものがあるんだよな──頼むぜ神様】
消した物語は山ほどある。上手くいかなくて、やる気も湧かなくて、生きるのが下手で。
【ああ──本当に何の取り柄もねぇクズだよ、私は。】
珍しい、水色の髪の愛らしい少女。彼女の人生も消した。せっかく考えた、一人のキャラクターなのに。
【■■■■先生に、何が分かるんだろう。──偽善者め。】
消して、消して、消して、新しく創って。不安に駆られて、また消して。
……もう、やめてしまった方がいい。やめてしまいたい。
ふと、顔を上げる。海だ。綺麗な海だった。
どこまでも続いていた。この海を渡ればどこへだって行けるだろう。この海の向こうには、私の知らないものがたくさん待っているだろう。
彼女の髪のように、ひたすらに青く、眩しく、澄んでいて、美しく──
わくわくした。海という存在に。わくわくしていた。まだ見ぬ世界があるという事実に、わくわくしていた。
だからあの小説を書いたのかな。あの、本当にゴミみたいで、だけれど幸せな小説を。
あ「……本当は、ジャパリパークにいたくないんだわ」
ロ「──ッ」
あ「もう、次に進みたいんだわ。だから、企画からも抜けたい。フレンズとも別れたい」
残酷かも、しれないけれど。
あ「──諦めてなんか、いない」
企画からは抜けることにする。けものフレンズのこともあまり考えないようにする。ただ次に進み、明るい未来を掴みたい。
──もう、過去なんて捨ててしまいたい。別れてしまいたい。
イ「おーい!大丈夫か!?心配になって来たぞ!」
ナ「疲れているなら、任せて下さい!だから!」
あ「大丈夫──もう、決まった」
シ「あなた……」
私を心配してやってきてくれた彼女達。
謝っても、それはこの世界の彼女達には通じない。でも、せめて伝えたいこと。それは。
あ「──りうきうの言葉で、『さよなら』って何て言うか知っている?」
この言葉だけは、絶対あなた達に。
シ「──りうきうの言葉に、『さよなら』はないわぁ」
あ「……え」
シ「ふふ、『また会いましょう』ならあるけれどねぇ」
りうきうの言葉に、『さよなら』はない。
ならば私は『さよなら』じゃなくて『また会おう』しか言えないのだろうか。確かに、時々pixivに戻ってこようかなとは思うけれども。
……うん、ならいいや。きっぱりと別れるわけではない。多分、また会う。
ロ「あんかけ」
あ「ローラちゃん、ごめんね」
ロ「……早すぎる」
あ「いつかまた会えるから」
ロ「でも」
あ「もう、ここにいたら頭がおかしくなる」
ロ「……」
あ「私はフレンズが優しいことを知っている。なら放っておけないんじゃないの?」
ロ「……ずるい」
イ「……もう、行くのか?」
あ「うん」
ナ「りうきう、しっかり楽しんで下さいね!」
あ「……う、ん」
シ「じゃあ──
あ「──
──継月さんのもとへ、潮風に背中を押されながら、砂浜を歩き出した。
ただ──あんかけ。過去。
あなただけは、『さよなら』。
***
一応これで完結ですが、後書きとか書きたいのでまだ連載中にしときます。
この後の展開は継月さんに任せます。
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