アルシア3号、応答せよ!

オレンジのアライグマ【活動制限中】

序. 静かなる夜明け

 静かなる夜明け作戦が行われる日、少年スーはいつもより早く目を覚ました。


 寝台から体を起こし、あたりを見回してみると、皆はまだ寝ているようだ。


 妙に頭が冴えているので、スーは個人用板状端末を取り出して、シナリオを何度も読み返す。が、暫くしてそれをやめ、タイピングの練習を始める。


 懐かしい気分だ。森でかくれんぼをしていた在りし日を思い出す。が、スーはすぐに真剣な表情になる。


 今日は大切な日だ。歴史に残る大作戦が行われる。沢山の人々の運命がかかっている。それに、自分を支えてくれた、おじさんやおばさん、先輩方、そしてリーダーの期待を裏切ってはいけない。スーは心に火を灯す。




 やがて、起床時間になり、艦内が慌ただしくなる。 


 スーは今、食堂で隊長の話を聞いている。


 「諸君、遂にこの日が来た。既に本隊は作戦を開始している。我々の任務は、宇宙海賊と協力し、我が国の発展に必要な物資と技術を調達することだ。恐れる必要は無い、今こそ我々の星を滅茶苦茶にしたヤツらに罰を与え、我々の力をヤツらに見せつけるのだ。」





 各自、出撃の準備を行う。


 宇宙海賊の小型船が横付けされ、スーの親友が乗り込む。小型船はヒドラジンを燃料とする姿勢制御用エンジンを吹かし、ゆっくりと離れていく。


 エンジンから噴射されるガスや、宇宙塵がライトに照らされて、キラキラと光る。遠くには無数の小型船がライトを明々と灯し、その向こうには、星々が広がっている....




 間も無く、次の小型船がやってくる。スーが乗る海賊船、灼熱の星号だ。


 「大丈夫、きっとやり遂げられる。」


 スーは大きく息を吸い込み、相棒の端末を握りしめた。











 惑星フェーンは乾いた大地がどこまでも広がっている惑星だと言われる。確かに、多くの土地では、植物はまばらで、動物も少ない。ただオアシスや、水資源が豊富で、森が広がっている土地も沢山あることを忘れてはいけない。また、空の色は火星と同じく赤で、青い朝焼けと夕焼けが見られることでも有名である。


 乾燥に強い身体を持つフェーン人は古くから高度な文明を築いてきた。


 この日、フェーンの宇宙港に大型客船が入港した。その客船から1人の男が降りてくる。このあたりでは見慣れない種族で、やや頼りない足取りでふらふらと歩いている。パワードスーツを着用しているようだ。隣には、ボディガードがついている。


 「教授、次に乗る宇宙船の搭乗口はこちらの通路の突き当たりにあります。」


 教授たちはゆっくりと歩きだす。



 白と黒にオレンジのストライプが入った制服をきっちりと着た集団、客船宇宙のオアシス号の乗員一行が教授たちを追い抜いていく。









 その頃、スーは海賊船に揺られていた。


 「おい、ガキ。お前ちゃんと戦えるのか?」


 「ええ、コンピューターの扱いは得意だと自負しています。」


 「だと良いけどよ。」


 小柄なスーは、力が強く体格が大きな種族で構成された宇宙海賊のメンバーに囲まれ、少し緊張していたが、陽気な海賊たちとはすぐに打ち解けることができた。宇宙海賊は気性が荒く、いかにも残酷そうな者も多いと聞いていたがこの人たちはそこまで悪くはなさそうだった。


 灼熱の星号は磁場閉込め式核融合エンジンを作動させる。エンジン後部のノズルから高温のヘリウムが噴射され、つい先程まで乗っていた駆逐艦、不屈の精神号がみるみる小さくなっていく。



 「いい船だろ。この船はな、俺の誇りなんだ。」キャプテンがスーに向かって言う。カラフルな耳飾りと銀色の瞳がかっこよかった。


 「いいか、全員よく聞け、いつも言っているが本当に必要な時以外、人を傷つけるな。絶対にな。」


 「了解、人はなるべく傷つけ無いことを誓います。」


 「なぜ、貴方がたは海賊なのにそんな面倒なことをするのですか?」スーが質問する。


 キャプテンは何も話さない。


 「これから襲うのは、悪いヤツらなんですよね。悪いヤツらを懲らしめる為にも、この作戦を成功させなければならないとリーダーが......。」



 「待て、どんな人が良いヤツなのか、どんな人が悪いヤツなのか、そんなに簡単に決めてはいけないと思うんだな。ヤツらが悪い人だとして、俺らは、どんなヤツなんだ。」


 気まずい空気が流れる。誰も何も話さない。


 「この船、綺麗だろ。」


 暫くしてキャプテンがぼそっと言う。


 スーは船内を見渡す。確かに、この船は海賊船としては、外装も内装も美しく、船内には絵も飾られていた。


 「俺はな、芸術家になりたかったんだ。でも俺の星は貧しくて芸術など誰も興味がなかった。そして、成り行きで海賊になってしまった。俺は証明したいのかもしれない。自分がただ人を傷つけ、物を奪い取るだけのヤツとは違うのだと。」


 「傷つけ無いのは無理かもしれないけど、せめて殺すのはやめたいんだ。まぁ、甘い考えかもしれない。今までも、殺したく無いと言いながら、もう何人も殺してきた。でも、理想を捨てられない。それはここにいる他の連中も一緒さ。」


 「こんなこと俺が言ってもあれだが、俺はお前に人を傷つけるようなことをさせたく無い。今ならまだ間に合う、もし、まともな人生を歩むチャンスがあったらそれを掴め。絶対に放すな。」


 言い終わると、キャプテンは計器を確認し始めた。


 スーは前を向いたまま何も話せなかった。


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