第54話:どっかに一緒に遊びに行きたいなぁ
駅に向かって二人で歩いていると、周りの生徒が何人もチラチラと自分たちに視線を向けるのを一匠は感じた。
(瑠衣華がめっちゃ可愛いからか?)
そんな可愛い女の子が一緒に歩いているのが、パッとしない自分だから、余計に注目を集めるのか……なんて気持ちも一匠の中にはちょっと生まれる。
「ねぇいっしょー君」
「何?」
「今度、どっかに一緒に遊びに行きたいなぁ」
並んで横を歩く小柄な瑠衣華を見ると、とても楽しそうに笑顔を浮かべている。
中学で付き合っていた時には、瑠衣華はどこか遠慮しているようなところがあったし、嬉しいとか楽しいとか、ストレートに感情を表現することなんてほとんどなかった。
今は素直に一匠と接しようと、瑠衣華が心掛けているからこそなのだろう。そんな瑠衣華の楽しそうな顔を見ていると、一匠も自分を卑下する必要もないかと思った。
「あ、いいね。どこ行く?」
「本屋?」
「また本屋か。俺たちって、中学の頃から進歩がないな」
「あっ、そっか。だね……」
「でもいいよ。瑠衣華と一緒に出かけるなら、どこでも楽しそうだし」
「えっ……?」
瑠衣華はちょっと頬を赤らめ絶句している。
「どうしたんだ?」
「えっ……? だだだ、だって……」
「ん?」
「いっしょー君がそんなこと言ってくれたの初めてだし……」
(それはそうだな。俺もできるだけ瑠衣華に、素直な気持ちを伝えようと思って言ったけど、中学の時はそんなふうには考えなかったもんな)
「うん。瑠衣華ができるだけ素直な気持ちで俺と接してくれてるだろ?」
「う……うん」
「だから、俺もできるだけそうしようと思ってる」
「あ、ありがと。じゃあ今度の休み、本屋に行こっか」
「ホントに本屋でいいのか? 他のところでもいいぞ」
「どこだっていいよ。だって私も……いいい、いっしょー君といると……楽しいもん」
(うわっ。こんな照れて真っ赤な顔でそんなことを言われたら、俺もきゅんときてしまった。たかだか学校から最寄り駅までの帰り道なのに、こんな感じで過ごせるなんて、なんかいい。うん、なんかいいぞ)
そんなふうに思いながら瑠衣華と話をしながら歩くと、あっという間に駅まで着いた。楽しい時間はあっという間に過ぎるって、まさにそのとおりだと思う。
すると駅の前にいる二人の男子が、一匠と瑠衣華の姿を見かけて声をかけてきた。
「あれっ……? 白井君じゃないですか」
「おっ、ホントだ。白井ぃ!」
鈴木と田中だ。
マズい……という程でもないが、なんだか面倒くさそうな奴らと会ってしまった、と一匠は少し焦る。
「お、おう。今帰りか?」
一匠は二人に向かってシュッと手を挙げた。
二人は一匠と瑠衣華をジィーっと見ている。
「ん? どうした?」
「あの……お二人はもしかして付き合ってます?」
「えっ……なんで?」
「だってなんとなく、今までのお二人と距離感が違うっていうか……」
鈴木がメガネの奥の目をきらりんと輝かせて、そんなことを言う。
──なかなか鋭い。
一匠がふと横を見ると、瑠衣華は肩が触れるほどの距離感で立っている。
確かに一匠も無意識だったけど、今までよりも瑠衣華とは、気持ち的なことだけではなくて、物理的な距離感も縮まっている。
「そう言や、白井ぃ。教室で二人は、こっそり下の名前で呼び合ってたなぁ」
田中も案外鋭い。
──って言うか、ばれてる。
誰にも気づかれてないと思ってたのに、甘すぎた。
「あ、いや、あの……」
一匠はどう答えようか迷ったが、ここで否定するのは瑠衣華に悪いと思った。
念のため隣に居る瑠衣華に視線を向けて、(正直に言ってもいい?)というアイコンタクトを送る。
瑠衣華もすぐに意味がわかったようで、こくんとうなずいた。
「あ、うん。付き合ってるよ」
「「やっぱりい~!!」」
「こ、こら、お前ら。声が大きいって!」
「「あ、ごめん」」
一匠がたしなめると、二人揃って慌てて両手で口を押えた。
そして二人ともゆっくりと手を口から離す。
田中が二人を交互に見て、ため息をつくように言った。
「神様と可憐ちゃんのカップルだぁ……」
鈴木もため息のような声を出す。
「尊い……尊すぎる……」
「こらこら、お前ら。大げさすぎるって」
そんな呼び名で呼ばれたら瑠衣華が変に思うだろと思いながら、一匠はチラッと瑠衣華を見た。
「神様って……なに?」
(ほら、瑠衣華が怪訝に思ったじゃないか)
「僕らにとっては、白井君はまるで神様のような存在なんですよ、赤坂さん。恋愛の神様」
「えっ……? いっしょー君が……?」
訳がわからない瑠衣華は、きょとんとしている。
「なに言ってんだ。そんな大したもんじゃないよ。それにお前らだって、高木さんや佐川さんがいるじゃないか、あはは……」
焦って話を逸らそうと、カラオケで鈴木や田中が仲良くなった女子の名前を挙げた。
それがまずかった。
田中は真剣な顔で、こんなことを言い出した。
「俺たちもがんばってるんだけど、イマイチうまく進展しないんだよぉ。そうだ、白井ぃ。俺たちが上手くいくように、相談に乗ってくれぇ」
「そうです白井君。僕たちの恋愛アドバイザーになってくださいよ」
鈴木がそんなことを言った。それを聞いて、瑠衣華が一匠の顔を見上げてぽつりと呟いた。
「恋愛……アドバイザー……?」
一匠は、背筋がひやりとするのを感じた。
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