71-2
・中二病
読み方:ちゅうにびょう
中二病(厨二病)とは、思春期の格好つけたい年頃の少年少女にありがちな、空想や自己愛や全能感が生み出す、奇矯で珍妙な言動や嗜好のこと。
—―まあこれは実際には病気でもなんでもなく、世の青少年に訪れる通過儀礼のようなものに過ぎない。
この年頃の子供というのは、良くも悪くも非常に自意識過剰だ。故に『自分は他人とは違う、特別な人間だ』という思いを抱き、そこに根差す痛々しい言動をしてしまいがちである。
勿論程度の具合は人によるが、それぐらいの頃のアイタタな発言に対し、後に身悶えるということは、誰しも経験があることだろう。
「フウジン……?」
そして当時の私もまたその例に漏れずであり、なかなかに痛々しい発言が目立ったのだが……
「そう、『風神』よ。私、風を自在に操れるの」
私にとっての不幸は……なまじ実際に『他人にはない力』を持っていたことにあるだろう。
「じゃあさっきのが?」
「ええ、私の『力』よ。里でも私より強い奴なんて、いやしないんだから」
クソガキの問いに対し、ドヤ顔で応える。
決して自慢するわけではないが……当時の私は、非常に『優秀』だった。
私が生まれ育った『里』では、誰しもが先ほどのような『術』を幼少期から学び、その使い手として技を磨くという風習がある。
だがそんな中で、私の技量は客観的に見ても非常に目を見張るものがあった。
同年代では並ぶ者など一人もおらず、大人ですら満足にやり合えるのは数人程しかいない……この歳にして私はもはや里一番の使い手といっても過言ではないというレベルにあり、向かうところ敵なしだった。
そんなわけで、当時の私はなんというかまあ……自身の力を過信して、調子こいていたのである。
「すげぇぇ~!!」
「すご~い!」
「フフン、わかればいいのよ」
先程まで無礼極まりなかったクソガキの言動が、途端に尊敬と称賛に満ちたものに変わる……サトルちゃんの羨望のまなざしも加わり、私は非常にご満悦だった。
「で、フウジンはなにしにきたんだ?」
「私はね、アナタを守るためにここに来たの」
興味津々に尋ねるクソガキの言葉に対し、自身の目的を答える。
そう、『この子』を守る……その為に、私はここにいる。それが、彼から『あの人』を奪った私の役目なのだから。
「われを? なんで?」
「ん? それは……」
理由を問われ、一瞬口籠る……まさか『その理由』を馬鹿正直に答えるわけにもいかない。私が抱える『事情』など、この子が知る必要はないのだから。
「そう、それは……『風』よ! 風が教えてくれたの!」
「『カゼ』?」
「ええ、そうよ。私レベルになると『風の声』が聞こえるの。その内容は、『正義の味方』として貴方たちを守れというお告げだったのよ!」
「『セイギのミカタ』!? すげぇぇ~!!」
「すご~い!」
我ながら酷い理由だと思いながら取り繕うも、そこはやはり子供。あっさりとそれを信じ、再び称賛の言葉を発してくる。
「ま、そういうことで……よろしくね、『カイちゃん』?」」
「うん!」
気を取り直して手を差し出すと、『カイちゃん』がそれを握り返す。
このようにして――私と『彼』の交流は始まったのだった。
「ふふっ、思えばあの頃からあの子はどうしようもないクソガキだったわね」
時は戻り現在—―不意に脳裏に蘇った記憶を振り返りながら、一人思い出し笑いをする。
「でも……私も一緒か」
そうした後、ふと我に返り、自嘲するように呟く。
当時の私はあの子を『クソガキ』と言ったが……今を思えばそれはむしろ私の方だろう。振り返ると当時の自分の言動は呆れるものばかりで、正直目を背けたくなってくる。
「けど……そういうわけにはいかないのよね」
だが、それは決して許されない。そこから目を背けるということは……自身の『罪』から逃げることと同義なのだから。
「ねぇ、カイちゃん……」
先程まで想い出に浸っていた自身を戒めるように、その名を呼ぶ。
「私の『罪』は……『アイ』さんを死なせたことだけじゃないのよ」
『本当のこと』を知ったら、彼はどう思うか……そんなことを考えながら、一人そう呟くのだった。
「……いけない。次の授業の準備しなくちゃ」
ふと我に返り、教師の顔に戻る。
今日の一限は授業が割り当てられていない。その間諸々の準備作業を行う予定だったが、無駄に時間を浪費してしまったので、早く予定していた作業に入らなければならない。
そうして校舎へと戻るため歩き始めようとした、次の瞬間。
プルルルル!
—―突如、自身の携帯電話が着信を告げる音色が鳴り響いた。
「誰よ、もう……って、え?」
若干イラつきながら電話を取ると、画面に表示された名前に驚きの声を上げる。
「なんで……」
戸惑いながら、電話に出る。そう、なぜなら……
「……サヤ」
「……母さん」
かかってきた電話の主は――我が母親だったのだから。
「……どうしたの? 急に電話なんて」
「急にでもなんでもないわ。『あの件』、どうするの?」
――早々に用件を尋ねると、これまた早々に催促の要求が返る。
「ああ、ごめんなさい……返事してなかったわね」
「……で、どうするの?」
言われて漸く『それ』を思い出した私に対し、母は無感動な声で『その意志』を尋ねる。
「もう少しだけ、待ってくれない?」
「……いいけど、期限がすぐなのはわかっているわよね?」
「ええ……わかってるわ」
再度の確認に対し、改めて答える……そう、考えるまでもなく『答え』は決まっている。回答を渋っているのは、唯の私の『ワガママ』に過ぎない。
「わかりました……アナタの好きにしなさい」
「……ありがとう」
半分呆れながらもそう言ってくれる母に一言だけ礼を告げた後……溜息と共に、電話を切った。
「さて……とうとう『この時』が来たか」
薄暗い部屋の中に、一人の男の声が響く。
「どれだけこの日を待ち侘びたか……」
眼前に置かれた水晶玉へと視線を向けながら、男は言葉を続ける。
「でも……やはり『君』が邪魔なようだね」
呟かれるその言葉とともに、水晶玉に一人の人影が浮かび上がる。
「……そうだろう? 『池場谷カイ』。いや……『
浮かび上がるその姿を忌々し気に見つめながら――男は少年の名を呼んだ。
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