50-2
「……と、まあそんな感じで俺たちは『本体』を眠らせている間、各人格が自由に行動可能となったってわけ」
――時間は現在に戻り、昼休み。
事情の説明を求める『約束の子』達を連れて校舎の屋上に集合していた俺たちは、こうなった経緯を彼女たちにも説明していた……もちろん件の爆弾絡みの情報は伏せてだが。
尚、親父には天橋の心情を考慮し、一足先に退散して貰った。
「意味わかんない……どんな仕組みよソレ」
「……」
「まあ戸惑う気持ちはわかるけど……そういうことよ。外向けの『事情』はさっきクラスで説明した通りだから、そういう体でお願ね」
溜息を吐くハナと無言で考え込む天橋に、サヤ姉が声をかける……俺たちがこうなった後、まずは
まずは学校周りの事情を取り決めようと先にサヤ姉を呼んだのだが、まあ親父の口の回ること回ること……俺たちの五つ子設定だとか、転入生とするための事情だとかを、あっという間にでっちあげてしまった。
しかもこんな荒唐無稽な話だというのに、サヤ姉がそれを上層部に説明しに行くと通ってしまうのだから質が悪い。
……なんでも最初は揉めたとのことだが、理事長に許可を仰いだら一発でOKが出たらしい。
その方がやりやすいからとダメ元で希望してみたものの、普通は兄弟を同じクラスに入れるなんてことはしない。しかも編入試験もなしに4人もだ。
肝心の経緯もかなり雑だし、それでいいのか? うちの学園は……
ちなみに、意識を失った『本体』だが、とりあえず保健室に寝かせている……今後どこに置くかはこれから考えることとする。
「……」
「ん、どうしたの? ルナちゃん」
そんな中、先ほどからずっと松島さんが黙り込んでいるのに気が付き、サヤ姉が声をかける。
すると、次の瞬間――
「『快』様ぁ~~!!」
「おわっ!」
松島さんが、『快』に向かってダイブをかました。
「嬉しいです! これでやっと、『快』様だけと触れ合うことができるのですね!」
「わ、わかった! わかったから離れろ、このバカ!」
「嫌です! もう逃がしませんわ! ずっとわたくしと共に居て貰います!!」
「だぁ~、鬱陶しい!!」
「……」
そうしていつもの暴走が始まり、俺たちは呆気に取られながらその光景を眺めていた。
「ま、まあなんにせよ、これで兄さんの人格が制御ができないという問題は解決したと言っていいと思います! もちろん問題がないわけではないですが……」
「そうだな。これで制限はあれど、おれ達もほぼ自由の身じゃねぇか」
「ああ、そうだな。この件はこれでいいとして、問題はあっちの方か……」
――気を取り直すようにサトルが口を開くと、それに『魁』が頷く。そして俺もまた同意しつつ、今後の展望について考え始めたその時だった。
「(バカ、黙れ!)」
「なに? あっちって?」
「(やべっ!)」
――思わず口に出していたようで、それにハナが反応してしまい、『乖』が慌てて俺を小突く。
「……いや、こっちの話だ。ちょっと事情があって、学園祭の全ての出し物で優勝したいんだ」
「なにそれ? 偉く高い目標掲げてんのね」
「ああ。達成したら何やら親父が色々教えてくれるらしくてな……ただ2日目のフリー出し物について、何をやるのか困っているんだ。過去はどんなものが優勝しているんだ?」
『乖』が適当にごまかしつつ、さりげなく過去の事例を尋ねる。こういう時の機転は流石だと言える。
しかし過去の出し物か。確か去年は……
「過去の? 去年は3年生の先輩たちのバンドで、なんか盛り上げたもん勝ちって感じだったよね? それより昔のことは知らないけど……ユキは知ってる?」
昨年のことを思い出しながら、ハナが天橋へと話を振る……俺たちは去年のことしか知らないが、生徒会長である彼女なら、過去の運営資料等でそれ以前のことを知っていても不思議はない。
「え? あ、うん……そうね。過去の学園祭の例を見ても、その傾向は強いです。教師投票も入るクラス出し物とは違ってフリー出し物は生徒投票のみですから、如何に会場の生徒を巻き込んで盛り上げられるかにかかってきます。なので、自然とバンド演奏のような一体感を造りやすいチームが優勝する、という結果になることが非常に多いです」
そして、案の定天橋の頭の中にはそれがインプットされていたようだった。
「バンド……この5人で?」
「マジかよ……」
「ククク、面白い。これは我が力を学内に示すよい機会だ」
「おい、わかってるのか? 遊びじゃないんだぞ?」
「そう言うなって。余り根詰めすぎちゃあ勝てるもんも勝てねぇぞ?」
バンドと聞いて、5人それぞれが反応を示す――やる気満々のヤツもいるが、正直不安しかない。
「……まあ5人とも学園祭に前向きになってくれるのなら喜ばしい限りだわ。クラスに溶け込む絶好の機会だし、頑張って頂戴ね。ただくれぐれも問題だけは起こさないこと。わかった?」
「フッ、任せておけ!」
担任の顔に戻ったサヤ姉が注意を促すと、『χ』が元気よく返事を返す。
「……不安だわ」
「まあまあ、そう言いなさんな。折角の学園祭なんだし、みんな楽しんでいこうぜ?」
不安がるサヤ姉を諭しながら、『魁』が無駄に輝いたスマイルでみんなへと語りかける。
……まあどちらにせよ、俺たちは爆弾のヒントを得る必要がある。そのためにも、今は準備を全力で頑張るだけだ。
こうして学園祭準備の開始と共に、『俺たち』の新たな生活が幕を開けたのだった。
――時は過ぎ、学園祭の準備中。
「うおー! 『カイジ』はえ~! こりゃリレーのアンカーは決まりだな!」
「ああ、任せときな」
体育祭のリレーメンバーの選抜にて、『カイジ』こと『快』は圧倒的な成績でアンカーを勝ち取った。
「『カイゾウ』、すげーなお前! なんでも知ってるじゃねーか」
「……これぐらい大したことじゃない」
一方の『カイゾウ』こと『乖』は、その知識を以って瞬く間にクラスのご意見番となっている。
「おい『カイシロウ』!! ふざけてねぇで真面目にやれよ!!」
「フッ……そう焦るな小市民。まだ我が手を出すには時が早い」
また、『カイシロウ』こと『χ』は、相も変わらずバカ丸出しである。
「お~、やっぱ『カイ』の絵、うめぇな!」
「まあただ描くだけならなそれなりにはな……」
そして『カイ』こと
そんな感じでなんだかんだと皆がクラスに溶け込んでいく中――
「キャ~! 『カイゴ』く~ん!! ステキ~~!!!」
「は~い、ありがとな! みんな、愛してるぜ!」
『カイゴ』こと『魁』は、そのカリスマ性を以ってクラスの女子達を完全に虜にしていた。
マジうぜぇ……
「おい……あの軟派野郎うぜぇんだが」
「サトルに告げ口してやるか……」
「無駄だぞ。既にサトルには報告済みだが、『あの人のアレは病気みたいなものだから言っても無駄です』だそうだ」
「フン。あんな外面だけの男に群がるなど、一般の女はミーハー極まりないな。まったく、愚かなことだ」
「おうおう、嫉妬かい? そんな器の狭い様子じゃ、お前らの意中の子たちにも愛想尽かされちまうぜ?」
「「「「うっせぇ!!!!」」」」
と、このようにして学園祭準備期間は過ぎていき――遂に学園祭当日を迎えたのであった。
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