41-2

「ということで、サトルの旅の無事を祈って乾杯! イェ~イ!」

「よくわかんないけど、イェ~イ!」

「うう、みなさんありがとうございます。ボクの為にわざわざ……」

 ――そんなこんなでおれの先導に従い、サトルの送別会が幕を開けた。


「……なんなんですのアレ?」

「あはは……」

 ノリのいいハナとサトルをよそに、ルナちゃんとユキちゃんは少し距離を置いて苦笑いだ。だがこうして参加はする当たり、なんだかんだ二人とも付き合いはいい。


「しかし二人とも、よくあのノリについていけますわね……」

「ま、まあ誰かが付き合ってあげないと『魁』さんが可哀想ですし……」

「フォローのつもりでしょうが普通にバカにしてますわよね?」

 ……なんか悪口が聞こえた気がするが気のせいだな!


「うう、サっちゃん、寂しいよぉ……」

「うう、ハナさん、ボクも寂しいです……」

 その一方、こちらの二人は酒もないのに何やら出来上がっていた。


「うわぁ~ん! サっちゃんの手料理が当分食べられないなんて~!」

「うわぁ~ん! ハナさんの手料理が当分食べられないなんて~!」

 ……ていうかそれ相手の心配じゃなくて自分の食事事情の心配だよな? しかもお前ら二人とも料理できるよな?



「まったく……たかが1カ月で騒ぎ過ぎなんですわよ」

「でもわたし達の場合、少し事情が違いますし……」

 そんな中、外から様子を見る二人の会話にも逃さず聞き耳を立てる――まあ、ユキちゃんの言うことも確かだ。うちの1カ月だし。


「いいのかな? サトル君の時間だけ使わせてわたし達はそのままなんて……」

「随分とお人好しですわね。そう思うなら1か月間彼らと接触を断てば公平ですわよ?」

「それは……」

「ほら、その気もない癖に無駄に気を遣うんじゃありませんわよ。サトルさんがそれを選んだのですから、わたくし達にとやかく言う権利はありません」

「……」

「大体解決策が見つかったとして、それが貴方の得になるとは限らないのですよ? わたくし的には『快』様に接触しやすくなった分、下手に戻されるよりは現状の方が随分とマシですもの」

「……そうですね」

 おうおう、随分手厳しいねぇ、ルナちゃん……でもまあ、現状をしっかり押さえてるのは流石だな。


「そう言えば聞きましたわよ? 貴方がたもインハイ前後は不在が多くなるのでしょう?」

「はい。ハナはインハイ後はそのまま帰省してお母様の看病をするそうで、夏休みは戻らないそうです。わたしも帰りに実家に寄るので、しばらく不在になります」

「フフフ……まあその間、思う存分好きにさせて貰いますわ」

「松原先生は、不在なのはインハイの間だけですよ? そう思い通りにはいかないと思いますけど……」

「ふん、気を付けるのが一人ならどうということはありません。夏休みの間わたくしが『快』様の傍に張り付いていればあの女の付けいる隙などありませんわ」

 ――そしてしれっと敵情視察も済ませてるときた。ホント抜け目ないねぇ……ていうかあれ絶対ロクなこと考えてねぇだろ? 




「あら、随分な言い草ね。ルナちゃん」

 そうして二人が話し込んでいる所へ、サヤ姉が遅れて現れた――ホント噂をすればなんとやらだな。


「あ、松原先生こんばんは」

「こんばんは。顔だけ出させて貰ったわよ」

「あら、生徒の私的な集まりに堂々と参加するとは、教師としてどうなんですの?」

「ええ。だから今日はサトルちゃんの馴染みとして挨拶だけしに来たわ。終わったらすぐに帰るつもりよ」

「まあ、言い訳がお上手なことで」

「好きに言ってなさい」

 それだけ告げ、サヤ姉は噛みつくルナちゃんをよそにこちらへと向かってきた。



「お疲れ様。サトルちゃん、ハナちゃん」

「あ、サヤ姉さん」

「もう、サヤ姉ったらおそーい!」

 こちらへ来たサヤ姉に声を掛けられると、残りの二人が挨拶を返す。


「仕方ないでしょ、仕事なんだから」

「わりぃなサヤ姉。急な話なのに無理して来てもらって」

「構わないわよ。それより『魁』ちゃん、今日はすぐに人格変わらないのね?」

「ああ。一応今日はサトル絡みだから、アイツら柄にもなく気を遣って自我を抑えてくれてるんだよ」

 遅れて横からサヤ姉に声をかけると、質問が返ってきたので事情を答える……と言ってもやっぱ不安定だから、気を抜くとすぐに入れ替わっちまうんだけどな。

 

「そう……頼むわよサトルちゃん。このままじゃこの子、不審者だって通報されかねないから」

「あはは。まあボクは手伝いで、なんとかするのはお母さんですけどね」

 ……ハハハ、ホント笑えない冗談だぜ。


「でも、サトルちゃんが一人旅なんて随分と思いきったわね。大丈夫なの?」

 そんな中、ふとサヤ姉が話題を変えるように口を開く。


「ぶ~、あまり子供扱いしないでください!」

「だってねぇ、一人で電車も乗れなかった頃を思うと心配で……」

「いつの話をしてるんですか!」

 あまり話されたくない話題なのか、サトルがそれを必死に制する……まあ『昔』を思うと、それも無理はない。


「でも確かに今はこいつらの面倒見る位だけど、昔のサっちゃんは相当甘ったれだったよね?」

「ハナさんまでやめてください!」

「マシになってこれですか……さぞクソガキだったのですね」

「ルナさん、ひどいです!」

「あ、でもその頃の話、聞いてみたいかも……」

「天橋先輩まで何言ってるんですか!」

 しかし、その話題が気になったのか、他の子たちも次々と入り込んできた。

 

「お、なんだみんな。聞きたいのか?」

 それを見て、おれの悪戯心が騒ぎ始める。


「ちょっと兄さん、やめてくだ……もがっ!」

「黙っていなさい。貴方のことはどうでもいいですが、『快』様の過去でもあるので興味はあります」

 話を切り出すと、止めようとするサトルをすかさずルナちゃんが遮る。う~ん、グッジョブだ。


「よっし、じゃあ話すとしましょうか……」

 ――そうしてギャラリーの要望に応え、おれは口を開き始める。


 さあ、語るとしよう……おれ達『兄弟』の、絆の始まりを。

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