21-2
「『答え』を知ってるって……どういうことだよそれ!?」
「……そうですか。ならそれを教えて頂けませんか?」
「残念ながらそれはできない相談ね」
サヤ姉の言葉に動揺する俺と共に松島さんが問いかけるが、望む答えは返ってこなかった。
「なるほど。そうやって自分だけ抜け駆けしようという訳ですか……人を導く立場である教師様が聞いて呆れますわね」
「ホント言いたい放題言ってくれるわね、アナタ……」
それに腹を立てたようで、松島さんが挑発するような口調で言い返し、サヤ姉は呆れた様子で溜息を吐く……しかしこんな大事なことを秘密にされていたとあっては、松島さんの気持ちも分からないではない。
「当然でしょう。わたくしたちの『闘い』はすでに始まっているのです。情報の独り占めなど、許してなるものですか」
「ちょっとルナさん、それぐらいに……」
尚もサヤ姉に咬み付く松島さんを見兼ねて、サトルが止めに入る。
「黙りなさい女狐」
「んなっ!」
だがそれが気に入らなかったのか、松島さんは今度はそのサトルに咬み付き始めた。
「貴方こそ、わたくし達を欺き『快』様を独り占めしていた卑怯者の癖に、よく口が出せますわね? 弟君と信じていたので『快』様との過度な接触も目を瞑っていましたが……とんだ食わせ者でしたわね」
「ボクだって隠したくて隠していたわけじゃ……」
「あらそうですか。ならその理由とやらをさっさと白状して欲しいものですわね。貴方のような信用できない輩が四六時中『快』様の傍にいると思うと、いつ抜け駆けされてしまうか気が気で仕方ないですわ」
「ぐぬぬ……」
言いたい放題言われて、悔しそうにサトルが黙り込む。一方的に言い負かされたためか、若干涙目になっている。
「アナタねぇ……もうそれぐらいにしときなさいよ。サトルちゃん泣きそうじゃない」
「フン。泣かされるようなことをする方が悪いのですわ」
それを見て今度はサヤ姉が松島さんを非難するが、彼女に反省の色はない。
「泣いてません!」
「ま、まあみんな一度落ち着いて……」
そこにサトルが無駄に食ってかかり、更に混沌としていく場を収めようとハナが口を出した時だった。
プルルルル!
――突如、部屋の中に電話の着信音が鳴り響いた。
「……あ、ごめんなさい。電話出てもいいでしょうか?」
その発信源は、先ほどからずっと黙っていた天橋のものだった。
「……」
「もしもし――あ、お母さん? えっ、帰ってこい? 今すぐに?」
無言で頷く周囲をよそに天橋は電話の主と会話を続ける。どうやら相手は彼女の母親のようである。
「ごめんなさい……わたし急用ができて」
そしてその要件はすぐに帰って来いというものだったらしく、それを受けた彼女は急遽帰宅すると言い出した。
「あ、ああ。気をつけてな」
「あの……池場谷くん」
「え?」
帰宅準備をする天橋に声をかけようとすると、なにやら彼女の方から俺を呼び止めてきた。
「その……ごめんなさい。酷いこと沢山言って」
「天橋……」
そうして彼女の口から出てきた言葉は、これまでの言動に対する謝罪だった。
「それだけはどうしても言っておきたくて……それじゃあ」
「……ああ。またな」
「……うん、またね」
気まずそうに告げると、天橋は我が家を後にしていった。
ピロリン♪
「ん、なんだろう?」
……そんな中、今度は俺の隣にいるサトルの携帯が鳴った。
「大変です兄さん!」
「ん? どうしたサトル?」
画面を見るなり、サトルがひどく驚いた様子で俺を呼ぶ……一体どうしたって言うんだ?
「お父さんが……帰って来るそうです。しかも今すぐ」
「……え?」
一瞬その言葉の意味が分からず、俺は思わず聞き返す。
「だから、お父さんが帰って来るそうです。もう家の近くまで帰ってきてて、すぐにでも到着するそうですよ」
「……マジで?」
「えっ、おじさん帰ってくるの?」
「あら、ホント?」
「『快』様のお父様、ですか?」
余りにも唐突な流れについていけず呆然とする俺をよそに、ハナ達が次々に口を開いたその時だった。
「ヘイ! アイムホーム!! 元気にしてたかいマイサン!」
「……」
「ん、どうした? 愛する息子たちよ! 愛しいパパのお帰りだぞ!? もっと激しく喜んでくれてもいいんだぜ!?」
――謎の挨拶と共に、俺の父親である『
「親父……頼むからその恥ずかしいテンションは勘弁してくれ」
「おう、どうしたカイ。辛気臭い顔して。そんなんじゃあモテねぇぞぉ~? ガッハッハッ!」
突如固まってしまった場の空気を何とかしようと親父に突っ込みを入れる俺だったが、親父はそんなのお構いなしに空気の読めない発言を続ける。
「お帰りなさい! お父さん!」
「おう、元気にしてたかサトル!」
「おじさん、久しぶり!」
「おお、ハナちゃんじゃねぇか! イェ~イ!」
「イェ~イ!」
だが親父のこういうところを見慣れているサトルやハナからすれば別に気にするほどのことではなかったようで、サトルは特に気にすることなく親父を迎え入れ、ハナに至ってはそのテンションに乗っかりハイタッチを交わす始末だ。
「……ずいぶんと賑やかなお父様ですのね」
「……まあな」
若干皮肉めいた言い回しで呟く松島さんに、俺は困ったように頷く。
流石の彼女も、初対面でいきなりこのテンションについていくことはできない様子だった。
「ん、まさかそこに居るのはルナちゃんか?」
だが当の親父はそんなことを気にする様子もなく、彼女の姿を見るなり話しかけてきた。
「え……あ、はい。松島月です。お初お目にかかりますわ。お義父様」
「そうかそうか、いや~おっきくなったな~! そうだ。
「母をご存じなのですか?」
「ああ、ご存じも何もアイツは……ぼげっ!」
「……余計なこと言わないでくれます?」
どうやら親父は松島さんやその母親を見知っているようだ。何か言いかけていたが、それを遮るように、サヤ姉が横槍を入れる。
「お、おう、サヤ……お前も来てたのか?」
「……随分とご機嫌のようですね。おじさま」
蔑むような目つきで親父を睨むサヤ姉。なんかすげぇ怖いんだけど……
「あ、あれ。サヤちゃん、どったのかな~? オジさんなにか怒らせるようなことしたかな?」
「はあ、白々しい……」
恐る恐る尋ねる親父を尻目に、サヤ姉が大きく溜息を吐く。
「丁度いいわね――みんなよく聞いて、教えてあげるわ。私やサトルちゃんが色々秘密にしていた理由を」
「えっ……?」
するとサヤ姉は、部屋に居る全員を見回しながら口を開き――
「全部この人に口止めされてたからよ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
俺たちの知らない新たな事実を口にするのだった。
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