第8話
父さんを見送った後、駅の近くの大きなスーパーで買い物を済ませた。ちなみに、ご飯は家で作ることにした。なので今かなり空腹である。
しっかし重い。休み中の食材をまとめて買ったので、かなりの重さになった。やっぱり自転車でくればよかった...
後悔していてもこの重さは変わらないので、早く家まで戻ろう。ちなみに袋が重すぎて信号待ちの時にまともにスマホを見れなかった。マジで重い。
はぁ。
辺りはすっかり暗くなり、人通りもほとんどいなくなった。これが南側だったら繁盛しているのだろうが、未開発地区なのでね。
腕が若干悲鳴をあげながらもトボトボと歩いていたのだが、昼間下校するときに見た小さな公園がまたもや目に入った。
ふと、そういえば霧島が居たなぁと思って目を凝らしてみる。
ん?なんでまだ霧島が居るんだ?もう8時だぞ?よい子はお家に帰る時間だと思うのだが。
ちょっと暗いのでぼんやりとだが、制服姿の霧島が見えた。ということはコイツ、まだ家に帰っていないのだろうか。親と喧嘩でもしたのかな?
仕方がないので、家に帰るように促すことにする。さすがに女の子が一人でこんな時間にいるのはまずいだろ。喧嘩したとはいえ、親も心配していると思う。
「おーい、霧島。お前今何時か分かってる?」
「...え?なんで倉田君が?」
暗闇の中で、霧島はポツンと光る電柱の下のベンチに座っていた。
こちらを向いた霧島の表情は酷いものだった。いつものあの表情どこ行った。
「いや、もう8時だから。親と喧嘩したのか知らないが、さすがに家に帰った方が良くないか?」
そう言うと、霧島は途端に黙り込んでしまった。え?俺地雷踏んだ?
ひとまずフォローは入れておかなねば。
「ごめんな、別にそんな霧島の内に踏み込むつもりはなかったんだ。とりあえず今日は家に帰ろう。な?」
「...誰も相手にしてくれない家に?」
霧島はポツンとつぶやいた。確かに小声ではあったが、それを俺はしっかりと聞き取ることが出来た。
「誰も相手にしてくれないって。え?ご両親は?」
やべ。思わず口に出してしまった。霧島はこのことに触れられたくないだろうに。
「お父さんは仕事から帰ってこないし、お母さんは小学生の頃に死んじゃった。そのあと、再婚して義理のお母さんが来たけど、私は嫌われてるようだし」
oh...大分酷な話を聞いてしまった。そりゃこんな顔にもなるわな。むしろ、学校であんな明るく振る舞えていたのがすごいと思う。
それなら、友達のお家に行くぐらいしかないよなぁ。非行に走られてもちょっと胸糞悪いし。
「なら、霧島の友達に泊まらせてって聞いてみたら?携帯あるか?」
「...そんな仲のいい友達いない。大概の女子からは私は疎まれてるようだし」
うわ。これまた闇な話が。女子の友達関係も大変そうだな。かくいう俺もそんな友達関係を嫌っているのだが。
「というか、倉田君も少しは分かるでしょ?お母さんがいない辛さを。ねぇ?」
「え、ま、まぁ」
すまないが、俺の母さんは生きている。先週もお見舞いに来てくれたし。
「ねぇ!倉田君は平気なの?」
「霧島、一旦落ち着け」
霧島がヒステリックになっていた。怖い。
とりあえず、レジ袋の中からペットボトルのお茶を取り出す。本当は外出するときにお供として買っていたものだが、まぁいい。
霧島はペットボトルのお茶を一口飲むと、落ち着きを取り戻した。
「ごめんね、倉田君。こんな姿見せちゃって」
「まぁ別に構わないけど。霧島が大変ということは分かった」
これは、霧島を見捨てるべきなのか。それとも助けてあげるべきか。さすがの俺も、こんな状態の霧島を見捨てることは出来なかった。
「その...もしよかったら夕食ぐらいはご馳走してあげるぞ」
そう告げると、霧島はうつむいていた顔を上げて、こちらの方を見てきた。
「え。いいの?」
「まぁ。ちょうど食材いっぱい買ってきたしな」
「ありがとう!」
霧島はさっきの暗い顔とは打って変わり、とびきりの笑顔を見せてきた。そうそう。霧島にはこの顔が似合う。
「あ、ちなみに俺が獣になったら自分で身を守ってくれよな。霧島が可愛すぎて、もしかしたら理性を失うかもしれないぞ?」
俺はこのどんよりとした空気を換えるために、一つジョークを打った。多分だが、俺の顔はいたずらをするような表情だっただろう。
「そ、そんな可愛いだなんて」
あれ?意外と照れてるぞ。てっきり、こういうことを言われるのは慣れているのだと思っていたが。
いたたまれないので、話を強引に終わらせる。
「それじゃ行こうか」
「うん!あ、レジ袋片方持つよ」
「え、ああ。さんくす」
立ち上がった俺から、一つレジ袋を取った霧島は、ニコニコしながら俺についてきた。
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