第4話


「違います。多分話す相手間違ってます」

「そんなわけないと思うけど」


しっかし霧島が3週間前の子だとは思わなかった。そもそも同じクラスだったのね。知らなかった。

で霧島は何か用なのだろうか。そう思って聞いてみる。


「で、なに?もしかしてそちらのお家に警察の人来たこと?それならごめんね」

「いや、それはいいんだよ?むしろ助けてくれてありがとね」

「ああ、それはどういたしまして」


霧島は聞いていた通りに可愛い容姿だとは思う。ただ意外と律儀なんだな。てっきり肉食系かと思ってた。


「お~い!そろそろいいか~?」


担任が騒がしくなっている教室を静める。さすがに高校生なのですぐに静かになる。


「じゃあ席替えは以上な。まぁ次は二学期の初めぐらいかな。えーと、特に連絡事項はないので今日は解散しようか」






終礼での挨拶も済み、教室に残っている人もまばらになってきた。

とはいえ、今日も今日とて俺は居残りである。3週間分の遅れを取り戻さなければならない。


ということで、俺は自習室に行こうと、席を立った。


「あ、ちょ」


...なんか呼び止められたような気がしたが、気にしないでおこう。




◆ ◆ ◆



「ふーーー」


約1時間ほどの自習を終えると、外はすっかり紅く染まっていた。時が経つのは早い。

机の上の教材やノートを鞄の中にしまっていると、あることに気付いた。


・・・補助鞄忘れた。

この学校は制鞄のほかに、補助鞄を持ってくるのを認めている。何を持ってくるかは生徒の自由で、俺は肩掛けカバンを持ってきている。


一度教室を出て帰ろうとしたときに、忘れ物に気付いた時のあの気だるさは尋常なものではない。

いっそのこと忘れ物に気付かなければ、まだ気も楽なのに...と思いつつ、人気のない階段を再び上がっていく。




まぁ当然のことながら、廊下には誰もいない。大抵の奴は寄り道して帰っている時間だ。というか校則に寄り道禁止って書いてあるだろおい。


―――自分にブーメラン刺さってたわ。(第1話参照)


ま、まぁあれは生理現象だから。やむにやまれぬ事情だから(震え)。


...どうでもいいこと考えていないで、とっとと帰ろう。



―――ガラガラガラ。


「あ」


夕日が差し込む教室の中に霧島が居た。夕日で赤く染まる教室にポツンと座っている霧島を、俺は不覚にも美しいと思ってしまった。


「倉田君、、、だよね」

「そう、だけど。どうした?」

「前のこと、お礼が言いたくて」

「その件は別にいいよ。多分あの場面に居たのが霧島でもそうでなくても、俺は同じ行動を取っていたと思う。それに俺は何かが欲しいから君を助けたわけじゃない。だからこのことは気に病まないで構わない」


これは俺の本心だ。例え襲われそうになっていたやつが、男でも同じ行動を取っていたのは間違いない。それにお礼を要求するなんて、かっこ悪いにもほどがある。


「それでも!キミは私の命の恩人であることは間違いない。だって、あのままだったら私は背中からグサッと殺されていたもの」

「それは運が良かったとでも思っておいた方が良いんじゃない。とりあえず、俺は帰るから」


我ながら他人行儀だとは思う。

俺は自分の席に向かい、机の横にかかっていたカバンを回収した。

ついでに家で勉強しない教科の教材類を置いていく。幸い、この学校は置き勉を黙認している。別に置き勉くらい堂々と許可すればいいと思うのは俺だけなのだろうか。



「じゃ、これで」


無事カバンを回収出来たので、帰ることにしよう。と思ったその時。


「行かないで――」


霧島が俺の左腕に抱きついてきた。霧島のナイスバディな胸が変形し左腕が霧島の柔らかいもので包まれる。

え、行かないでって何?俺なんかしたの?


「え、えっと。一体どうしたの?」

「帰りの時、一緒に帰ってくれない?」


ん?一緒に帰る?なんでだ?


「なんで俺が付き添う必要があるのさ」

「だって、あの事件から帰り道が怖くって。それで昨日までは友達と一緒に帰ってたんだけど、今日は委員会で呼び出されて、友達がみんな帰っちゃったから...ダメ?」


ああ。なるほど。霧島は通り魔のことがトラウマになってるのか。

確かに一人で帰っているときに殺されそうになったのは、トラウマになる出来事だろう。


「ま、まぁいいけど」

「ありがとう!」


う~ん。霧島は煌びやかな笑顔を浮かべている。が、正直今の状態は俺にとって毒だ。左腕にある胸の感触。世の健全な男子高校生でこれに耐えられるやつはいない(断言)。

なので名残惜しくはあるが、離れてもらおう。


「あの~、一回離れてくれません?」

「え?あ、あ、ごめんね?」


顔を真っ赤に染めながら、霧島は腕から離れていく。若干名残惜しいと思ってしまうのは、やはり俺も男なのだろうか。


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