通り魔から助けた美少女が隣の席になった話。
こああい
第1話
桜は花が散り、葉桜へ移り変わろうとしている。
新学期が始まって、1週間が過ぎた。
クラスの中では、1年生の時の級友や、新しく交流を持ち始めた奴らが徐々にではあるがグループも形成し始めている。
教室は、休み時間というのも相まって、男女共に和気あいあいとしている。観察してみると、中央にはTHE陽キャみたいな連中が群がっている。そして、そのグループから少し離れるようにして、細々としたグループが形成されていた。
さて、そんな中、俺はいわゆる「ボッチ」というものに成り下がっていた。
当然の結果なのであろう。積極的に友達を作りに行こうとしなかったのだから。
このクラスの中の圧倒的な空気の差には、友達を作ろうとトライしてみようとする気も失せてしまうほどだ。
「おいおい浩司、なんでそんな辛気臭そうな空気出してるんだよ。俺まで気が滅入ってしまうだろうが」
教室の後ろのほうの席でうつ伏せになっていた自分の背中に、痛みが走る。俺はすぐにその犯人を察することが出来た。
そう。自分の数少ない友人である、鈴鹿 耀太だ。コイツとは1年生の時からの友達、いや親友と言ってもいいかもしれない。
高校に入学して、一番最初の席の時に、コイツとは知りあった。俺の席の隣に座っていた彼は、気さくに俺に話しかけてくれた。
「もしもし倉田 浩司さ~ん?反応してくれませんか?」
「あーはいはいすみませんね。で、なんか用か?」
机にうつ伏せになって窓のほうを眺めていた俺の視野に鈴鹿の顔が映り込んでくる。俺は顔を上げる。
「なんでそんな無愛想なんだよ。用事がなくても話しかけてもいいだろ?...まぁいいや。お前数学の課題出してないだろ。俺もさっき出してきたけど、そのときに先生に呼んで来いって言われたんだよ」
「まじ?すまんな。冷たい対応とってな」
そう言って机の中に入れてある教材やノートの中から数学の課題のノートを探し始める。
「なぁ。もうちょっと友達作れよ。お前いっつも机に伏せてるか、本を読んでるだろ」
「ああいうグループの連中とつるめってか?俺には無理だね。」
俺はクラスの主流のグループを横目に見ながら、そう訴えかける。
「なんでそんな卑下するんだよ。お前このクラスじゃ俺ぐらいしか友達いないだろ。まぁ、お前の
そう。一応1年生の時にも少し友達は作ったのだ。そいつらと去年は過ごしていたのだが、生憎と鈴鹿以外は全員他クラスになってしまった。
ちなみに、鈴鹿はあのグループの一員(?)である。本人曰く、「準会員みたいなものさ」だとか。よくわからん。
「もうそれについては諦めてるよ。というか友達を作って勉強の時間を削って遊びに行くとか無駄でしかないだろ。俺たちはもう高校2年生だぜ?大学受験に向けて準備し始めたほうがいいんだよ」
「あのなぁ。お前が学年でトップの成績を収めてるんなら分かるけどさ。去年の学年末の考査、何番だったよ」
返す言葉がなかった。俺の成績は良いというわけでは無かった。変動はするが、大体中の下だ。ちなみに鈴鹿のほうが成績は上だったりするが、たいして変わらない。
「...あ。俺数学の課題出してこないと。それじゃ」
「はぁ。いってら」
鈴鹿に呆れられながらも、俺は教室を後にした。てか、次の授業に遅れそうなんだが。
◆ ◆ ◆
「ありがとうございます」
「おう。今度の考査頑張れよ!」
若干熱血の数学教師にお礼を言って職員室を後にする。
放課後、数学の分からない問題があったので、数学の教師に質問に行っていた。残念ながら優秀な生徒ではないため、こういうこともたまにある。
1階に降りてきた俺は、下駄箱を開けて制靴を取り出す。もちろんのことながら、
空はすっかりオレンジ色に染まっていた。周囲にはまばらに生徒が居た。中には、カップルと思われるペアもいる。
そんな連中は無視して俺は家への帰路へとついた。
下校途中。突然、尿意を催したので近くのコンビニに行って、トイレを借りることにした。一応住んでいる場所は、一般的に都会と呼ばれる場所なので、家から20分の通学路にもかなりの数がある。
「いらっしゃいませ~」
なんかやる気のない声に聞こえるが、そんなことはどうでもいい。早速トイレに駆け込むことにした。
なんかタダでトイレを借りるのは申し訳なかったので、店内でジュースを買っていくことにする。まぁ、これも日本人の性というものだろうか。
ちょうど、自宅で飲む分が切れかけていたので1.5Lの大きめのヤツを買う。
「341円になります」
「電子マネーで」
カードをレジのリーダーにかざす。
シャラリ~ンと軽快な音楽を鳴らしながら、支払いは完了する。ああ、現代ってすばらしい。
「ありがとうございました~」
コンビニから出て、左右を見渡す。
すると、静かな住宅街にはそぐわない異様なオーラを纏っている男を見つける。服装は、上下黒っぽいジャージでマスクを着けている。明らかにおかしい。その前を俺と同じ学校と思われる女子が本を読みながら歩いている。残念ながら彼女と俺は面識がなかったが、見た目から美少女であることは間違いなかった。
俺はその男のオーラが何故か気になってしまい、コンビニからすこし出たところで突っ立っていた。
突如、男が持っていたバックの中から、ある物を取り出す。それは夕焼けの住宅街でもはっきりと確認することが出来た。
銀色に輝く尖ったもの。そう、包丁だ。俺はすぐにその男が通り魔であると判断する。
すると俺は、何故かその通り魔の方に向けて走り出していた。ちなみに、彼女はまだ通り魔の存在に気付いていない。無意識のうちに体が動いてしまったのだ。俺は本当に馬鹿だと思う。この場からさっさと逃げればいいものの。
だが、不意にもその美少女の存在が脳裏に焼き付いてしまっていた。刺されそうになっている彼女を見殺しには出来なかった。
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