第9話 絶世の美女でも許されない事はあるもんだ

『こ、これから指名に入ります!』


会場は先程のようには湧かずシーンとなっていた。本当に。誰も音一つ立てない。


えー?誰か取るのか?このアタオカ達を?


「つ、強かったけど誰かとると思うかい?皆。」


ハルマ。当たり前だろ。そんな事聞くまでもない。


「「「誰も取らない(わ)」」」


「ははは。だよね。」

苦笑いまでイケメンとは。本当にイケメンというのは神がしてしまった失敗の1つだと思う。


例えば前の女の人がハンカチを落としたとする。俺がやってみろ?ただありがとうってだけだぞ?俺はハルマが拾っているのを見た事がある。なんか、その。目にハートマークが浮かんでいたし、後光までさしていた。

鳩が背から大量に飛び出し空には虹が。

なんなん。本当に。それは魔法なんですか?


まぁ。それはさておき。ほら見ろ。学院長達を。なんとも言えない目してるぞ?


『では、まず!アドから!』


誰か挙げんのかってええ?!

全員挙げてる?!


「まぁ。馬鹿というだけならな。大丈夫だろう。問題はハクという人だ。」

会場の皆が驚いている中、平然な顔をしてガイルが言った。

そうなのか?!ガイル!


「え、ええっとぉ?どうしようかの?」

なんかオドオドしてるな。あいつ。

気のせいかな。目も回ってね?


苦笑いをして

「あれは絶対選べないパターン?」

セリカ。そういう事言うな。


あわわ。となっているアヴォルフリード。

どうしたものだろうか。


そこから長い時が過ぎ出てきた言葉は、

「じゃ、ジャンケンで決めるというのはどうかの?」


そのアホらしい提案はちょっとだけざわついていた会場をまたシンとさせた。


何やっとん?お前。


『あー、ハイハイ。それでいいよ。』


司会者さん!めんどくさがらないで!いや、分かるけども!(ここまでもう1時間)


これで明日の新聞の見出しは

【前代未聞!ジャンケンで試験!?】

だな。なんじゃそりゃ。


もう観客の中には席に座って寝てる人もいる。

いや、分かるけども!


『はい、じゃあ行きマース。』

1時間程前とは違った間の伸びた声で最初はグーとジャンケンが始まる。


誰も見てない。興味無い。学院長もどうでもいいやって顔してる。


アヴォルフリードは羞恥で顔が赤く染まり、

ハクはと言うといいなぁいいなぁと呻いていた。


なんだよこれ。圧倒的カオスが広がっていた。


そしてジャンケンが終わり。

勝ったのはワマル学院のヤミカ・イェーガーらしくなんとも微妙な顔をしていた。

負けた人はなんか良かったぁみたいな顔してるよ。おい!


一方のアヴォルフリード。すごいホッコリとした顔してるぞ。安心してるんだろう。良かったな。


アヴォルフリードが下がる。


『き、気を取り直しまして!ハク!前へ!』

顔は1番初めの頃のように澄まし顔だがもう遅い。なんか。こう。もっと早くできなかったかなぁ!?


「こればかりは取らないよねぇー。」

うん。流石に。モカ。当たってるよ。お前の推理。ほらね?前を見てご覧?


そこには誰も手を挙げずシーンとなっている会場。小鳥の囀りも聞こえてきそうだ。

うん。知ってたァ!


「むむむ。誰も挙げないのは困るわね。

えい。」

可愛く頬を膨らませるハクだったが誰もそれに萌を感じるやつ等ここにはいない。


「な、なんだ!?体が勝手に?」

ど、ドロイアスさぁん!?何故ってええ?!

そこには学院長全員が手を上げる姿。


まさかとは思うんだが。アイツが挙げさせた系?


「では、ジャンケンでお願いしますね!」

嬉々とした顔で悪魔の宣告をするハク。

学院長達は絶望に染まっていた。


あーあ。ハイハイ。なんじゃこりゃ。


最初はグーと始まり10分後。

勝ったのは……

ヤミカでした。災難だなぁ!?おい!?


自分が出したパーをそのままにプルプル震えていた。


もう絶望の表情してるぞ!?おい!?

可哀想だろ!学院長!


一方の他の学院長は顔に笑みを浮かべていた。

それはもう少年のような無邪気な笑みだ。


「か、可哀想…」

モカ。お前もそう思うか。


放心していたセリカが

「や、やばいよ!私!ワマル学院だよ!」

セリカ。マジで?


焦るセリカ。髪の毛を手でクシャクシャにし始める。


「フォーン学院だと思ってたんだが、なんで?」

お前。魔法使いだろ?


「いや、指名されたけど!スパイってかっこよくない!?と思って!そして学院長がちょっと可哀想だったから。」


「何があったんだ?」


「隣のカンタにめっちゃナンパされてんのよ。

試験中でも。僕とこの後お茶どうですかー?って。何回も断ってるのよ!?それに指名しても誰も入ってくれてなかったし!もうどうでもいいやって顔してたわよ!?」


血気迫る表情で熱弁するセリカ。

お、おう。それは…


「ならなんで今慰めないんだい?絶好の好感度上げのチャンスだと思うだけど。ちなみに僕もワマルに入っちゃった。どうしよう。」


そうだな。ハルマ。お前みたいなイケメンはな。

そしてご愁傷さま。


「多分自分の事しか今は頭にないんだと思うよ。まあ。分かるけどね。」

モカがちょっと引いた感じで口を開いた。

まあ。あの光景見りゃな。


「やだぁ。やだよぉ。」

あっ。泣き始めた。ヤミカさん。

ボロボロと赤と黒のオッドアイから涙が零れる。


体操座りで蹲り、すすり泣いていた。


お、おい!なんか学院長声掛けてやれよ!


だが、そんなものには目もくれず。他の学院長達はホッコリとした顔をしていた。


「なんか。入るならあの人のとこ入ろうかな。俺。」


それに賛同したように

「まぁ。分かるな。それ。」

モカが女の人に関することでキレないなんて珍しいこともあるもんだな。いや流石にこれでキレたらヤバいやつか。


「「頼む!はいってくれ!」」


「そうすると俺ボッチなんだが。」

寂しそうに答えるガイル。

ガイル。ごめん。


「と、途中で変えられないのか?」


「一応ワマルにも指名されてたから出来るが…

変更料金がやばい。払えん。」


ま、マジかァ。


「ちなみに何マイル?」


「10000マイル。」


お、おお。


「金が足りなくて不安よな?俺!動きます!」


「どうしんだい?そしてどうやってだい?」

いきなり宣言した俺に戸惑うように聞く。

ハルマ。男には動かなきゃいけない時があるんだぜ?


「今まで作った剣を売ってくる。ちょっとしか増えないとは思うんだが。皆も出せるありったけの金用意してくれないか?」


「そうしたいのは山々なんだけどさ。君の剣だけで10000マイルいくと思うのは僕だけかい?」


「「「うん。分かるな。それ。」」」


俺は呆れたような声で

「ハイハイソウデスネ。」

俺ぐらいの剣はその辺にいっぱいあるよ。


はぁとため息をつき俺はその場を後にする。


すると後ろから、

「ま、まぁ。私達でも集めるからさ。」


さてと。しょうがないのでスコールさんが頑張ってあげますよーだ。


というわけで。


「高速魔法。」

体が光を纏い始める。


足に力を入れるとビュン!と。

俺は闘技場の壁を突き破って村へ向かったのだった。



_____________________

よっと。着いたな!ただいま!村!


懐かしい気持ちを抱きながらって今日朝出たばっかりですね。そう言えば。


そんな事はどうでもいい。

俺は急いで家に向かう。

そう言えば家の壁も治さないと。

時間を巻き戻す魔法式を構築しておこう。


俺は焦る気持ちを抑えながら村を駆ける。

早く家につかないものだろうか。


倉庫に着いた。

バァン!と扉を蹴り破って中に入る。

また時間を巻き戻せばいい。


ちなみに家は直している途中だ。


「この辺にーっと?要らないのがあったはずなんだけどな。」

独り言をボソッと呟き整理されていた物を崩しながら探す。


おっと。あった。この箱の筈だ。


暫くの間放置していたからだろう。埃を被った箱が物の山から出てきた。


そして埃をフッと払うと大きい木箱の木目が顕になり、蓋を開けると柄にしまってある剣が数本。赤と青、黄色そして緑と黒。なんともカラフルな剣が木箱の中に入っている。


どれも懐かしい物ばかりでこの感情に浸っていたいがそんな暇はない。


俺はその木箱を両手で抱え、村を出るのを急ぐのだった。







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